新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

滝千春&斎藤龍が贈る「ベートーヴェン・ウィーク」

2020年はベートーヴェンの生誕250周年で、さまざまなコンサートが企画されていましたが、残念ながら多くがコロナ禍で中止となってしまいました。けれど諦めるのはまだ早い! ベートーヴェンの誕生日(12月16日ごろ)を含む12月14日から18日の期間中に「ベートーヴェン・ウィーク」と題された配信コンサートが開催されます。

企画者は、ヴァイオリニストの滝千春さんと、ピアニストの斎藤龍さん。ヨーロッパを拠点に世界的に活躍する滝さんと、「ベートーヴェン博士」なる異名を持つ斎藤さんが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を5日間にわたって演奏&配信します(ライヴ配信ではなく、収録は11月に同じく5日間かけて行われるとのこと)。

ベートーヴェンは全部で10曲のヴァイオリン・ソナタを遺していますが、クラシック・ファンでもすべてのソナタをすぐに思い出せる人はあまりいないのではないでしょうか。私にとっても、有名な第5番《春》や第9番《クロイツェル》以外は、なじみ深いとは言えない存在でした。けれど今回、滝さんと斎藤さんのリハーサルを見学させていただき、その面白さに一気に引き込まれることに。

画像1

ふたりがデュオを組んだのは、留学していたチューリッヒ芸術大学の学内コンクールでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第1番を演奏して優勝したのがきっかけとのこと。以来、継続的にデュオでの演奏を重ね、2016年からベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏を目指すシリーズ・コンサートを開催してきました。そして、ついに全曲を制覇した2020年、全曲をまとめて演奏するコンサートを計画していたものの、コロナ禍で実現が難しい状況に……。それならばと、配信によるコンサートを思いついたのだといいます。

「4年間かけて取り組んできましたが、まだまだ興味は尽きることがありません。全曲を演奏した後だからこそ“ああ、そういえばあそこは”と気づくことも多々あって。滝さんとはただ合わせるだけではなく、今、僕らができること、お互いに考えていることを詰め込んで、“僕らのベートーヴェンを作りたい”と思っています」と語る斎藤さん。

その言葉どおり、リハーサルはひとつひとつのフレーズ、音楽の流れを丁寧に確認し合いながら進んでいきます。少し進んでは止め、「ここはどう思う?」「ここはこういう風にアプローチしたらどうだろう?」と意見を交わし、互いに納得がいくまで弾き込む。それを3~4楽章×10曲分やっていくのですから、気が遠くなります。

画像2

たとえば私が見学させていただいた日は、第2番の第3楽章のリハーサルをしていたふたり。ヴァイオリンのメロディの3拍目のニュアンスをめぐって「ここはちょっと違う感じにしたい」と話し合いながら、何度も繰り返し練習をしていました。「どうして違う感じにしたいのですか?」と尋ねると、「普通は3拍子の3拍目は強くはならないのですが、ここに“sfz”が置いてあるから……」と斎藤さんが語りはじめます。

sfz(スフォルツァンド)とは、「とくに強く」という意味を持つ記号。斎藤さんいわく、「ベートーヴェンの楽譜に登場するsfzの数を全部数えていったら、ほかのどの記号よりも多いんですよ。だからベートーヴェンにとって、sfzは“なにかしてね”という記号だと僕は考えています。同じsfzでもいろいろなヴァリエーションがあって、その場に合ったsfzをチョイスしていかなければ。sfzって書いてあるからただ音を大きくしました、ではなく、ちゃんと僕らなりの意味を見出したいと思っています」とのこと。sfzの数を全部数えるって、さすがベートーヴェン博士ですね!

そうやって音楽家が楽譜と向き合い、話し合いを重ねながら、音楽がひとつひとつ作られていくさまを見ていると、日ごろ自分はいかに音楽をただ聴き流してしまっているかを思い知らされます。なんともったいない! けれど、滝さんは「それでいいんです」と言います。「聴いてくださるお客さまには、音楽を自由に感じていただければよいのです。良かったか良くなかったか、楽しかったか楽しくなかったか、感動したかしないか、最終的にはそれがすべてです。けれど作る側の私たちにはやっぱり、ベートーヴェンがsfzに込めた意味や思いを解読していく義務があると思うのです」。あらためて、音楽家って途方もない仕事です。

今回は、インターネット配信で全曲を聴くことができます。5日間コンサート会場に通うのは大変ですが、家に居ながらにして楽しむことができるのが配信の良いところ。ベートーヴェンだからといって正座して聴かなくてもいいんです。食事しながら、子どもをあやしながら、掃除しながら……ぜひ生活の中にベートーヴェンを入れてあげてください。そうやって身近に楽しんでいただくことが、滝さんと齋藤さんの願いでもあります。

では最後に、リハーサルで撮影させていただいた第5番《春》の映像をどうぞ♪

<ベートーヴェン・ウィーク>
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲 配信コンサート
滝千春(ヴァイオリン)&斎藤龍(ピアノ)
2020年12月14日(月)~18日(金)20:00
12月14日 ヴァイオリン・ソナタ第1・2・3番
12月15日 ヴァイオリン・ソナタ第4・5番
12月16日 ヴァイオリン・ソナタ第6・7・8番
12月17日 ヴァイオリン・ソナタ第9番
12月18日 ヴァイオリン・ソナタ第10番、モーツァルトの《フィガロの結婚》から「もし伯爵様が踊るのなら」の主題による12の変奏曲
価格:1日チケット¥1000 
   ベートーヴェン・ウィーク・チケット(通し券)¥3000
URL:https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2067529
この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
原 典子

いただいたサポートは、noteを書くための取材費や資料代として大切に使わせていただきます。

15
音楽まわりの編集者・ライター。『レコード芸術』編集部、『CDジャーナル』副編集長を経て現在フリーランス。雑誌やwebへの執筆のほか、公演プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営サポートも。鎌倉で子育て中。あっちとこっちをつなげる仕事が好きです。