諫早をきっかけに覚醒するのは誰か #レノファ観戦記
ゴラッソ
それは、スペイン語で「素晴らしいゴール」を意味するサッカー用語。
それは、一流選手のみが決めることができるスーパーゴール。
それは、滅多に目の当たりにはできない劇的なショー。
2024年8月24日、私はゴール裏でこの場面に立ち会うことができた。
観たこともないようなシュート弾道が自分たちの方に向かってくる。
この直前、河野選手がボールを受けたときに目の前に大きなスペースがあった。
思わずスタンドから「打てー」と叫んだ。
勿論、その声が聞こえたからではない。
ボールを受けてからの河野選手には、迷いや躊躇は見えなかった。
利き足ではない左足から放たれたシュートが、目の前のゴールネットを揺らした。
決めきった。
ゴール裏からだとあまり距離感が分からなかったが、後で見返すと、かなりゴールからは遠かった。
よくシュートを打つ気になったな、と思う程だった。
後々、これが河野選手だと語り継がれるシュートになるだろう。
本当に、こんな素晴らしい場面に巡り会えたのはうれしい限りだ。
長崎(諫早)まで行った甲斐があった。
・・・わざわざ長崎まで行ったの?と言いたくなる方も多いかもしれない。
試行錯誤
レノファ山口FCは不思議なクラブだ。
昨シーズンまでJ2の残留争いの定番メンバーだったし、ギリギリでJ3降格を免れていたと言われても仕方がない。
今シーズンは一転、これまで好成績を収めているが、だからと言って「強い」かというと、そうでもない。
残り10試合(第28節終了時)で4位につけているものの、敗戦数が9もあり、最少の横浜・長崎の4に比べて倍以上。プレーオフ圏内を争うチームの中でも多くなっている。
決して、連勝が続いて、「強い」という印象を持たれたことはないのではないか。
サポーターとしても、確かに、敗戦して悔しい思いをした記憶も多々ある。
「あんなに負けたのに、4位?」と、不思議に思う方も少なくないだろう。
不思議と思われるだろうのは、もう1点。
昨シーズンまで志向していたポゼッションサッカーは、勝つ可能性が低いよね、ということで、今シーズンから形を変えたはずだった。
実際、前半戦は、手数をかけずに相手陣地に侵入することで好調を保っていた。
ところが、キーマンの移籍や相手チームからの研究でうまくいかなくなり、夏場からは、逆にパスをつなぎながら相手陣地に侵入していこうとしている。
「あれ?これって、うまくいかなかったんじゃないの?」と不思議に思う方も多いかもしれない…。
「試行錯誤」と表現してもいいかと思う。
サッカーは、相手がいて、お互いが相手を上回るために、正攻法や裏をかいて、どうにか勝利しようと必死になる。こうやったら必ずうまくいくという黄金パターンがあるわけではない。
相手に合わせ、気象やピッチの状況に合わせ、試合展開に合わせ、試行錯誤している。
その過程が、戦い方を変えたり、去年に近い形に戻ったように見えたりして、観察する側は不思議に感じるのかもしれない。
負け数が多いことが示しているように、それがうまくいった試合もあるし、うまくいかなかった試合もある。
完敗した次の試合で、しっかりクリーンシートで勝つこともある。
応援する側からしたら、今日は、どちらのレノファが見れるのか、不安になるかもしれない。
私は、このチームの状況を、「貪欲に足掻いている」と評価している。
レノファ山口FCは、強豪チームではないが、貪欲に足掻き、勝ったり負けたりしながらも、前進しようとしているのだ。
これまで、足掻いて、足掻いて、J2にしがみついてきた。
そして、これまで繋いできた試行錯誤のバトンをきちんと引き継ぎ、今、その集大成として、J1という高みを目指す場面を迎えようとしている。
だから私は、今シーズン、できるだけアウェイ観戦にも参加し、わずかな力ではあるが、チームを鼓舞しようと頑張っている。
諫早の地で起きたこと
アウェイ長崎戦は、一緒に行くメンバーの複数人が体調不良で参加できなくなったものの、彼らの分まで声を出し、メガホンを叩いた。
V・ファーレン長崎のホームスタジアム、諫早市にある「トランスコスモススタジアム長崎」は素晴らしいスタジアムだった。
3階席の天井が近く、自分たちの声が反響する。
相手サポーターの声が届きにくく、自分たちのペースで応援を続けることができる。
前半14分、崩されたわけではないが、ゴール前に放り込まれたボールをきっかけに失点。
もちろん、選手たちは必死にプレーしているのは分かるが、外国人選手の個の能力に「あっさり」やられたという印象が拭えない。
しかし、レノファへの応援はやまない。このスタジアムの環境のお陰で、相手の雰囲気に呑み込まず、応援に専念できたと言ってもいいかもしれない。
逆転を信じているが、前半は分が悪い。
なんとかこの1失点で乗り切りたい。サポーターも気持ちは同じだ。
前半38分、ボールの奪い合いからレノファの右サイドを突破され、決定機を作られた。完全に失点を覚悟した場面、遅れながらもスライディングした前選手がシュートをブロックし、事なきを得た。スタジアムが沸く。
このシュートブロックは、1点取ったのと同じ価値がある。
試行錯誤するレノファは、前半、うまくいかなかったが、この1失点で乗り切った。これが後の勝因の一つだろう。
後半開始早々、交代選手のプレーをきっかけに、同点の場面が訪れる。
小林選手が相手DFと駆け引きしながら、意表を突くタイミングでゴール前にパスを供給。
酒井選手が反応した瞬間、私はゴールを確信して、立ち上がり、声を上げた。
後半戦になって、こんな新しい得点パターンを作りだすのか。
そして、冒頭のゴラッソ。
その後、最後まで追加点を許さず、3位の長崎相手に逆転勝利という、歓喜の瞬間を迎えた。
諫早をきっかけに覚醒するのは誰か
長崎戦では様々な選手が結果を出した。
得点、アシスト、新しいビルドアップ…。
選手たちには、この試合をきっかけに「覚醒」して、さらに高みを目指してほしい。
が、忘れてはいけないことがもう一つある。
この試合の観客数は10,108人。1万人を超える観客が集まったアウェイの地に、我々は乗り込み、そして勝利を手にしたのだ。
これもすごいことではないだろうか。我々サポーターも自信を持つべきではないだろうか。
確かに、レノファは、勝ちと負けを繰り返している。
この試合も、前半だけを見ると、勝てるかどうか不安な方も多かったかもしれない。
それでも、試合中にも試行錯誤を繰り返し、なんとか勝利を収めたし、その結果の積み重ねが、4位という順位にもつながっている。
個人的には、審判や相手チームにブーイングするくらいなら、同じくらいの声量でレノファの選手に前向きな声を掛けるべきではないかと思っている。審判のジャッジとか、相手チームがキーパーにバックパスすることとか、そんなの、どうでも良くない?
私たちが応援しているチームは素晴らしい。
それをもっと、自信を持って他の人にも伝えていこう。
サポーターも「覚醒」していこう。
残り10試合で4位といっても、転がり落ちるのは早い。
これからが正念場。上位陣との負けられない戦いが続く。まだ、何かを手にしたわけではない。
今必要なのは、試行錯誤して、足掻きまくるチームを、周りを巻き込んでポジティブなパワーで後押しすることではないだろうか。
まずは、目の前の8月31日岡山戦。
台風の影響がどうであれ、私はスタジアムに行くつもりだ。
レノファを観たことがない人も、まだ興味がない人も。
一緒にスタジアムで、後押ししよう。集大成のときを迎えようと、必死で戦うチームを。
足掻いている姿は、かっこいい。
応援していて、心を打たれるはずだ。
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