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私の怖いもの

皆さんにとって怖いものとは?夜のお墓、先端が尖った針、コンビニの前でタバコを吸うヤンキー、渋谷のハロウィン、人それぞれあると思う。

かくいう私の怖いものは
・特急電車
・何もない田舎道
・都会のコンビニ
・2時間の映画
・卒業式
・山道
・長距離のバス
などなど、なんともない人はなんともないと思うが、全国津々浦々の腹痛持ちの方なら私の怖いものをわかっていただけると思う。

そう、すぐにトイレに行けないシチュエーションである。これが何よりも怖い。普通にオバケとか暴走族とかよりも怖いまである。特急電車に乗る日には相応の覚悟と下準備が必要となる。いつもより20分は早く駅に着いて用を足し、これから30分は降りられないぞ俺!と意気込む必要がある。電車に関しては緊急離脱用の駅を普段から用意していたりする。電車から降りてトイレが近い、急行が止まるなどあらゆる条件を加味し駅を見つける。そのせいで普段使用する路線は一通り降り立ったことがある。ぶらり途中下車なんて言ってられない。下手するとぶりゅり途中下車になりかねないからだ。

他の怖いものに至ってもそうだが緊急離脱ができないということが恐ろしく怖く感じる。この恐怖心ゆえに発現した能力がある。
それが、どこにトイレがあるかわかるということだ。それはショッピングモールにしろ、ドライブ中にしろ、旅行先にしろあらゆる場面で発揮できるのだ。おそらく幼い頃からトイレばかり行っていたせいでトイレが配置されやすい場所を自然に推測することができるようになっている。

この能力が存分に発揮できたことがある。

妻と福岡は天神周辺のパルコのあたりで買い物をしていたときだ。妻は何故か生卵とチーズを一緒に食べると腹を壊すというわかりそうでわからない体質を持っている。その日はサイゼに行った。何故か今日はいける気がすると妻はドリアに卵トッピングのあれを頼んだ。
お腹痛くなるでしょ?やめといたら?なんて私の忠告は妻の謎の自信に敗北した。あれはうまい、もう想像しただけでサイゼ欲が沸き立ってくる。運ばれてきたそれはもう美味しそうに食べるものだからまあいいかぐらいに思っていた1時間後だ。お腹痛い。
あー結局そうなっちゃうのね。

ピンチで言ったら今何%?
80%くらい
うーんこの。なかなかやばいみたい。
私はお腹ピンチ度をよく%で表す。腹痛指数なんて勝手に命名している。
我々平素からお腹が痛い身としては80%なんてなる時にはある程度覚悟するものだ。今日ジーパン履いてるよな、周りには人はいないよななんていらん確認をするほどだ。なので65%くらいである程度出しちゃお!というスタンスで生きている。
80%ともなると事態は一刻を争う。もうここまでくると加速度的に腹痛指数は上昇する。それを理解しているが故に一切の妥協は許されない。私は脳みそをフル回転させ、脳内で3Dマップを作成し、今いる地下1階からの距離、混み具合を計算し最適解を導き出す。頭の中ではガリレオのBGMが流れ、いらん数式がわらわらと出てきている。計算完了、ビル2階のトイレだ。スパコンびっくりの計算速度だったと思う。

と、ここで妻はさらに地下に行こうとしていた。正常な判断ができない状況で地下2階に行こうとしていたのだ。なんという愚策、大抵の商業ビルの地下にはトイレがないことは30年の人生が理解している。あっても混みやすい、食品売り場など人がごった返すからだ。脂汗を拭ったその手を引っ張って、エスカレータの右側を勢いよく進んだ。あの時の左側の人には申し訳ない。鬼の形相の男女が軽トラくらいの勢いで後ろからズンズンと現れたためびっくりさせたに違いない。その証拠に後ろから小声で、やべ〜って聞こえたがもはや関係ない。腹痛指数は上昇中だ。

ついでに俺もしとくかとトイレで待つこと5分後。全てから解放され、マザーテレサのような柔らかな微笑みで出てきた妻が一言、まじで助かった、と。後から確認したのだがやはり地下2階にはトイレがなかった。あのまま地獄へのエスカレータを下っていたとするとゾッとする。それ以来妻からこの能力のことを絶対ウン感という名で呼ばれている。不名誉なのはおいといてしょうもない能力でも人を助けることができると思った。何より嬉しかったし、30年の苦労が初めて人の役に立ったと思うと泣けてくる。

見知らぬ土地でトイレを見つけたときは美輪明宏くらい輝いて見える。お腹が痛ければ痛いほど輝きは増して真っ白に白飛びして見えるほどだ。この体質のせいで人のお腹事情には寛容になった。遅刻であったり途中下車であったり、原因がお腹の時の私の懐は太陽系ほど広い。遅刻の原因が寝坊の時は古い銭湯のロッカーくらい懐は狭くなるが。

きっとこの能力を持ってしても怖いものは怖い。そのくせ音楽好きであるせいでフェスやらライブやらにはよく行くし、山登りとか歩くことが好きだ。というかこの能力がないと好きなとこに行けていないのかもしれない。怪我の功名とはこのことだろうがこの怪我は全治何十年なのだろうか。



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