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空想彼女毒本 #16

朝倉絵莉


#16  朝倉絵莉

電車のボックスシートで綺麗な人だなと、あえて向かい合わせになったのが出会いの始まり。降りる時時、Suicaを忘れて席を立ったので追いかけて渡したが「ありがとうございます」とそれ以上進展するハズもなく。しかし帰りの電車も同じだったことから付き合いは始まった。

旅先や郊外の電車ではシートがボックス席になっている車両があり、4人がけの所に相席となる事が多々ある。狙って綺麗な人の隣や向かいに座れることはまぁ無いのだが、ごく稀に、座れることもある。この日ボクは旅先で荷物を抱えていたので、席が空かないかなと思っていた所、入れ違うように席を立った就活生風の男性の後に、席に着く事ができた。気にしていなかったのだが、目の前には大きな瞳に、キレのいい眉、鼻筋が綺麗な、アヒル口の女性が居た。膝と膝が触れるか触れないかの距離。途端に緊張し出してしまう。しかし彼女の方は変わりなく、スマホをいじっている。特に会話をすることもなく、ただ時間と景色だけが過ぎてゆく。荷物を膝に抱えているから、それが彼女に当たらないか心配しながら、手持ち無沙汰から鞄の中から文庫本を取り出して読むふりをしながら、彼女の方をチラチラと観察していた。
彼女は変わらずスマホを見ている。流れて行く景色を気にすることもなく。海が近く、時折車窓には涼しくなり始めた秋の日差しを受けて、細かくキラキラ光返す海の景色が映っていた。彼女とは向かい合わせに座っているから、ボクから見る景色は彼方へと過ぎて行く。いくつかのトンネルをくぐり次の駅が近づいた頃、彼女はスマホをポケットにしまい、降りる準備をし始めた。その時に、スマホと入れ替わるようにポケットからSuicaがこぼれ落ちた。彼女はそれに気がつかず、そのまま席を立ち、電車を降りようとしたので、反射的に、
「落としましたよ。」
と、そのこぼれ落ちたSuicaを手渡すと、
「ありがとうございます。」
とそのまま電車を降りて行った。ボクもこの駅、鎌倉で降りるのでそのまま後をつける形で電車を降りるが、彼女は御礼を言うと、用事があるのか、急ぐように歩いて行った。
この駅で降りるのは初めてではないが、キョロキョロしながら、久しぶりの鎌倉に降り立った。
そのまま江ノ電に乗り換えて、由比ヶ浜を超え、長谷駅まで行き、鎌倉大仏を見て、またすぐに引き返してきた。
夕暮れ時で、晩御飯には少し早い時間だったが、開いていたしらす丼屋に飛び込み、ご飯にし、またそのまま湘南新宿ラインに乗り、帰ろうとまたもボックスシートに座ると、今度はさっきの彼女が向かいに座った。一瞬お互い声をかけそうになるが、その声を飲み込み、それでもやはりこんな偶然は無いと思い、ほぼお互い同時に、
「ですよね。」
と。数時間前にすれ違った、いや、落とし物を手渡しただけではあるが、それがこうしてすぐに再会するなんて!ボクはボクでもう少し話ができればと思っていたし、おそらく彼女も、何か気になってた事があったのか、お互い惹かれ合うようにしてまた出会った。
「先ほどはありがとうございました、Suica。」
「いえいえ、当然のことですよ。ボクは観光に来てたんですが、仕事ですか?」
「鶴岡八幡宮に御朱印をもらいに来てたんです。」
「そうだったんですね、ボクは足を伸ばして鎌倉大仏を見て来たんです。」
「近くなんですか?私も行けば良かった。」
男とは単純である、この一言で脈有りと勘違いして、心が躍る。
「鎌倉から江ノ電に乗ってすぐですよ。」
つい前のめりに話し出してしまったことに気づき、ハッとするが、飛び出した言葉はそのまま引き返すこともなく。彼女は少し困惑した表情を浮べる。
「そうなんですね、今度行ってみようと思います。」
「本当は今日はもう少し足を伸ばして稲村ヶ崎まで行きたかったんですけど、電話で呼び戻されちゃいまして。」
「これからお仕事ですか?」
「そうなんです。資料用に鎌倉大仏の撮影をしていたんですが、いいから戻って来いって。」
「そうなんですね」
「せっかくなんで、もう少しゆっくりしてから、戻りたかったんですけどね。」
「普段はあまり出かけないんですか?」
「ほぼ会社、と言っても小さなデザイン事務所なんですけど、と家の往復だけですよ。」
「私もですよ、久しぶりに今日は御朱印集めに出かけたんですけど、半年ぶりなので。」
「いつも1人で出かけてるんですか?」
「1人の方が気楽で、あと予定を立てて行くってことが、何か縛られてる気がして苦手なんですよね。」
「分かります、ボクも同じです。でもいつも誰かに誘って欲しいっておもってたりね。」
「そうそう!」
「ホントですか?じゃ、こんど一緒に行きます?」
「いいんですか?ぜひお願いします。」
社交辞令だろうとは思いつつ、その場では連絡先を交換して別れた。すぐに事務所に戻り、呼び戻された意味を感じない仕事をこなし、家に帰りついた頃、彼女からの連絡に気づく。
「今日はありがとうございました。急いでてちゃんとしたお礼もできずでしたが、帰りにまた会えてうれしかったです。こんどはゆっくり鎌倉巡りへ連れて行ってください。」
鎌倉へ行ったのはそれから半年後だったのも、今となってはいい思い出です。


あとがき

生成された画像が、ってか自分で臨んでそうしているんだけど、まぁこんなシチュエーションねぇだろと思いつつ、完全にAI相手にセクハラをしているんだが、自覚がある分マシなのか、自覚があってもしているからより悪いのかは置いといて、できた画像が深田えいみさんに似てたんで、名前をモジりました。大体モジる時はその名前を反対にするんだけど、深田の反対は浅い倉だったんだね。こうすることで時間が経っても忘れないんだよね。自分の中のルールに基づいて名付けているんで、元ネタなんだったかなってのを。つまり自分の考えや、行動原理の軸を作ってしまえば、後になってもその軸から枝葉は伸ばせるから、いわゆる裏設定というのか、そういう軸を持っていると創作が楽だよねってことを、この後書きで言いたかった。最初は自分の中でもそういったルールや軸がボヤけてるんだけど、数をこなすうちに、変わらない軸みたいなのが見えてくると、グンと量産できるようになるよね。これは全ての創作において言えることなんじゃ無いかな。それがだんだん煮詰められていくと作家の個性になっていくんだとも思うし。
とこんな誰でも同じような結果が出る生成AIを作りながらも、そこでいかに人間が介在しているのか、その個性とはってことを考えてつくってるんですよ。なんてね。
随分久しぶりになってしまった分、ストーリーに難航しちゃったな。最初どこの路線の話にしようかってのはあんまり考えてなかったんだけど、ボックスシートってのがかなり限定されてしまうので、湘南新宿ラインにしたんだけど、湘南新宿ラインで鎌倉方面に向かう時って、横浜までなら海の近く通るけど、横浜越えるとほぼ海の近く通らないんだよね。トンネルも微妙なんだけど、リアルな描写で描きたかったので、実際に乗ったことのある路線から思い出しつつ、地図を見ながらだったけど、もっと相応しい路線あっただろうなと思ったり。

ここで手に取れるよ!

ここに書き溜めている空想彼女毒本がKindleおよびパーパーバックとしてアマゾンで購入できるようになりました!ぜひ紙の本でAIグラビアと共に楽しんでいただければと思います。
また、中野ブロードウェイのタコシェでも取り扱っておりますので、ぜひリアルな本を手にして頂ければと思います。
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今後執筆予定の彼女らとのさわりも入っておりますのでぜひよろしくお願いします。


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