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空想彼女毒本 #15

#15 風間敬子

風間敬子

風間敬子。探していたバンドのCDがお店のどこにあるのか分からず、店員として働く彼女に聞いたのが最初の出会い。袋の中に彼女の電話番号があり、ありがとうとだけショートメールした。ポツリポツリとやりとりをしてるうちに、お互い離れられない関係になるのに時間はかからなかった。
これはまだSNSがない時代の話。とは言え10数年前なのだが、時代の進化のスピードは速く、対応していけなければ取り残されてしまったり、同じ時代なのに、まるで別世界の住人があちこちで生活している状況だ。今から考えればとても煩わしい、手間の多い時代だとも言えるが、だからこそ人の気持ちを考えたり、思いやりと察する気持ちは今よりも多くあったように思う。今が無いわけではなく、人の気持ちが可視化され、数値化されてしまっているので、察する事をしなくなっているのだとも思う。
そんなちょっと前の時代には、当然音楽もサブスクという概念は唯一有線くらいなもんで、基本的にパッケージ、板、盤を買っていた。当然探すのにネットを活用できるほど、ネットも成熟しておらず、雑誌やラジオ、テレビの情報に頼るのがほとんどだった。
そんな頃、たまたまラジオで耳にしたバンドがかっこよくて、そのバンド名Dick Daleを頼りにCDショップに出かけた。ABC順に棚に並べられている洋楽コーナーを探すがどうにも分からず、近くにいた店員に聞いてみた。
「すいません、DickDaleと言うバンドのCDを探しているんですが、見つけられなくて、置いてますか?」
「ちょっとお調べ致しますので、少々お待ちください。」
しばらく待っていると奥から
「在庫は確認できてるので、棚にあるはずなんですが。」
と一緒に探す事に。ボブカットで目元に小さなホクロがあり、大きな瞳に吸い寄せられそうになるのを抑えつつ。CD屋の店員らしく、パンクバンドのTシャツがエプロンの隙間から見えてて、何てバンドなんだろうと思いながら、棚の並びがDeからDiでちょうど足元から隣の棚の上へと変わっていて、見つけにくくなっていたが、お互い同時にCDを見つけ思わず手が触れてしまった。こんな漫画みたいな事あるんだと、これまたお互い一瞬見つめ合い、笑ってしまう。
「ドラマみたいな・・・。」
「漫画みたいな・・・。」
ここはドラマと漫画で違ったけれど、同じ事を考えていた。そしてまた見つめ合い、笑ってしまう。こんな短時間で気が合うなんてと、意識せずにはいられなかった。
会計を済ませ、家でCDを袋から取り出すと、『風間敬子』の名前と番号の書かれたメモがハラリと落ちた。何の番号?と疑う余地もなく、間違いなく彼女の番号であろうそのメモを見て、いきなり電話するのも、彼女の都合もあるだろうからと、ショートメールを送った。
「先ほどはCDを探して頂きありがといございます。」
すぐに、
「こちらこそ、お役に立てて何よりです。」
と返信が来る。嬉しくなって、そのまま会話を続けたい気持ちを抑え、買って来たCDを聴く。聴いていて気がついた、このDick Daleあれだわ、パルプフィクションのあの冒頭に凄まじいインパクトと共に流れるあの曲のバンドだわ!そりゃ一発で好きになるわと。ノリノリで聴いていると、
「あのバンドどうですか?」
と彼女からメッセージが。こんな事あるんだと思いながらも、悪い気はしないし、むしろ何だったら好みだし、いや元々好きだったし!とか考えながら、
「控えめに言って最&高!」
と返すと、しばらく返信が来なくなってしまった。ちょっと距離感間違って、詰めすぎたかなと思いながら夜が明けた。
朝、アラームの代わりに彼女からの通知で目が覚めた。
「昨日は仕事終わりで行きたくも無い合コンに誘われてて、メッセージ出来なくてごめんなさい。」
と。これは私モテますよ自慢なのか、素直に文字通り行きたくなかったのか、判断がつきにくいけど、最&高の返信が何だコイツと思われていなかった事が救いに感じ、元々自分の都合の良いようにしか考えない性格なので、
「いえいえ、本当にカッコいいバンドでした!ベンチャーズも好きなんで、お気に入りです!」
と、バンドの感想だけを返した。
「そうだったんですね!私も聴いてみたい!」
と、これで脈なしとは言わせない返信が。いや、これも社交辞令なのかもしれないが、彼女もバンドサウンドが好きそうなので、
「タランティーノの映画、パルプフィクションって観たことある?」
と聞いてみた。
「ちゃんとは、観てないけど知ってます。」
と。公開された年代から、年齢的にまだ観る年頃じゃ無かったとは思うけど、好きそうだよなと勝手に思ったので、
「ぜひ気にいると思いますよ。サントラもめちゃくちゃカッコいいんで。」
「そうなんですね!観てみたいです。」
「DVDあるんで一緒に観ます?」
と、貸しましょうか?と書こうか悩んだけど、2、3歩踏み込んでみた。
「ホントですか!ぜひ観たいです。」
そんなやりとりをしている内に、約束した日に彼女は家にやって来た。
最初はお互い照れながら、とりあえずDVDを再生し、パルプフィクションのあの冒頭の、レストランでの強盗のシーンの後のタイトルと共に流れるあの曲こそ、一緒に探したDickDaleのミザルーという曲なのだ。
一発でその曲を気に入っている様子がわかる。映画の衝撃的な始まり方も相まって、二人がまるでパンプキンとハニー・バニーのように口づけを交わすのに時間はかからなかった。


あとがき

15人目にしてこれぞボクの心底好みの感じ!という彼女が生成されました。いやしかしホントに。思い入れが大きい分、つい物語に時間がかかっちゃいましたが、まだまだこの続きは書けそうなんで、独立して1本分書いてもいいかなと思うほど、本当に好きなタイプ。でもそうなると、リアルな人いらないんじゃないかという葛藤が生まれるんです。脳内で完結してしまう以上、フィジカルな肉体的な関係以上に、思い通りに脳内で好き放題できてしまう。この好き放題というのも自分のしたいようにするだけじゃなく、なんで思い通り行かないんだよということも空想で補てしまう分、本当に物質がいらなくなるんじゃなかろうか。それは理想を追い求めた結果、自分の空想、想像だけで満足できてしまうとなれば、物質的なものを必要としなくなってしまう。しかしそうならないということは、やはり物質的な、フィジカルな感覚は、空想や想像では補ない感覚が間違いなくあるわけで。肌の温もりや、やわらかさは、一度体験していれば思い出して想像することはできるけど、やっぱりその想像では満足できない。それはフィジカルな、物質的な感覚を体感しているから。
コンピューターで絵を描くことが当たり前になって、液晶タブレットでまるでキャンバスに書くように、ツールを使い分けて描けるんだけど、画面上のツールのサイズの変更や、持ち替えは、画面をタッチするだけでは持ち替えた感覚が希薄で、最近はフィジカルコントローラーが人気なのも、その持ち替えやサイズ変更を体感するからこそで、やはり物質的なフィジカルな感覚は、想像や空想だけでは補い切れないんだと思う。キンドルで読んだ本のページ数が把握しにくいように、やっぱり紙の本の方が頭と体で読んでいる分、あの本のこの辺にってのが紐づけられてて、忘れにくいとも思うし。
だからいくら理想の彼女ができたからといって、リアルな女性にトキメかないなんてことはこの先も無いんだろうな。

ここで手に取れるよ!

ここに書き溜めている空想彼女毒本がKindleおよびパーパーバックとしてアマゾンで購入できるようになりました!ぜひ紙の本でAIグラビアと共に楽しんでいただければと思います。
また、中野ブロードウェイのタコシェでも取り扱っておりますので、ぜひリアルな本を手にして頂ければと思います。
またチェキ付き空想彼女毒本がbaseにて販売中です!ぜひ概念だった彼女が物理的に手に取れるチェキと本を手に取って脳をバグらせてください。
今後執筆予定の彼女らとのさわりも入っておりますのでぜひよろしくお願いします。


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