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eスポーツを理解しよう

ゲーム市場とeスポーツ市場
 eスポーツは世界的に発展を見せています。しかしながら、日本は世界の潮流から取り残されており、競技人口も観戦者数についてもまだ導入期の段階を抜け出していない。ただし、eスポーツを含むゲーム市場全体については、日本の存在感は大きいのです。NEWZOO(2018)によれば、最大のゲーム市場を誇るのが中国で約4.2兆円、続いてアメリカが約3.4兆円、そして3番目が日本の約2.1兆円です。世界のゲーム市場は毎年成長を続けおり、2019年には15.6兆円の規模に成長しました(注1)。
 では、なぜ日本でeスポーツの発展が遅れたのでしょうか?その理由のひとつとして、日本では、Wii(ウィー)や任天堂DSなどの「家庭用ゲーム機」や「アーケードゲーム」が早くから普及し、対戦相手と繋がるPCゲームの認知が遅れたという理由があります。さらにeスポーツの大会は、(例えばゲーム開発会社がゲームを売るために景品や賞金を餌にしてはいけないといった)「景品表示法」の適用により、高額の賞金が出せないという縛りがあり、eスポーツのプレーヤーが育たなかったという理由も存在します。ただしこの問題は、プレーヤーをプロ選手として、賞金を仕事に対する報酬とすることで、適用を免れることが可能となりました。

日本におけるeスポーツ産業の発展
 総務省の「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」(2017年)によれば、2017年の世界のeスポーツ市場は約700億円ですが、日本の市場は3~5億円程度で規模は小さいのです。しかしながら2018年はeスポーツ元年と呼ばれるほど注目が高まった年であり、市場も48億円と急激な拡大を見せました。さらに、2019年には61.2億円に増えるなど急成長を見せています。
 日本では、eスポーツを統括する「一般社団法人日本eスポーツ連合」が誕生した2018年を「eスポーツ元年」と呼んでいますが、実は2010年にも「日本eスポーツ協会設立準備委員会」や「日本eスポーツ学会」を立ち上げ、組織的にeスポーツを普及啓蒙する動きがありました。私も同学会の立ち上げで、「デジタルスポーツとリアルスポーツの交錯」というテーマで講演を行い、大学祭でeスポーツの大会を企画するなどしましたが、時期的なタイミングが早過ぎたのと、2011年の東日本大震災の影響もあって、その後活動は沈静化しました。この時期を、日本における最初の組織的なプロモーション活動とすれば、現在は(当時とは比べ物にならないほど大きな)第二次ブームと呼ぶことができます。

第18回アジア競技大会におけるeスポーツ
 2018年にインドネシアで開催された第18回アジア競技大会では、eスポーツが初めてデモンストレーション競技となり、大きな話題を呼びました。競技では、個人3種目と団体3種目の計6種目が採用され、前者は①クラッシュ・ロワイヤル、②スタークラフト2、③ハースストーン、後者は④リーグ・オブ・レジェンド、⑤アリーナ・オブ・ヴァラー、⑥ウイニングイレブン2018の6つで、その内5つがスポーツゲーム以外の対戦型、破壊型のゲームでした。
 これらの競技タイトルには、ゲームの特性があり、例えば④のリーグ・オブ・レジェンドは、プレーヤー同士で、互いの拠点破壊を目標に戦う「マルチプレーヤー・オンラインバトル:MOBA」というジャンルに区分けされます。また②のスタークラフト2は、「リアルタイムストラテジー:RTS」の略で、戦場を俯瞰してプレイするシュミレーションゲームで、プレーヤーは、リアルタイムで進行する時間に対応しながら、戦略を立てて戦います。さらに①は、「クラッシュ・ロワイヤル」はMOBAやRTSの良さが凝縮されたカジュアルなリアルタイム対戦型カードゲームといった具合に、eスポーツのゲームジャンルは、通常のスポーツ種目に対して極めて多様です。

eスポーツは五輪種目になれるか?
 中国のテンセントが協力したアジア大会のeスポーツ競技では、当初スポーツゲームと呼ばれる⑥のウイニングイレブン2018は入っていなかったのです。しかしオリンピックのTOPスポンサーであるアリババによる圧力で「スポーツゲーム」のジャンルが加わったという経緯もあり、次回、アリババの創業地である中国の杭州で開かれる第19回アジア競技大会におけるeスポーツのジャンル構成がどうなるのか、ひじょうに興味が持たれます。
 なおアリババの子会社であるアリ・スポーツのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)である王一鳴(Yiming Wang)氏は、もしeスポーツが五輪種目になる可能性があるとすれば、それは(eスポーツではなく)「スポーツe」としてのスポーツゲームのジャンルだろうと筆者に語ったことがあります。実際、IOCのバッハ会長が、「非差別と非暴力、そして平和を希求するオリンピックには、破壊と暴力をメインとするeスポーツはそぐわない」と述べる一方で、2024年パリ五輪組織委員会のトニー・エスタンゲ会長も、(2018年12月の時点で)eスポーツをオリンピックの追加種目にはしないことを明言するなど、2022年の第19回アジア競技大会で正式種目になることが決まっているアジアとは、大きな温度差が存在します。

eスポーツはスポーツなのか?
 最後に、eスポーツはスポーツなのか?という疑問に、筆者なりの考えを述べておきましょう。筆者は、スポーツ競技で活躍する競技者を「フィジカルアスリート」、囲碁やチェスで活躍する競技者を「マインドアスリート」、そしてeスポーツプレーヤーを(神経回路を使って競技をする)「ニューロアスリート」と名付けました。さらに千日回峰などで修業する僧侶を「スピリチャルアスリート」と呼び、すべてを広い意味でのスポーツと呼ぶことができると考えています。よってeスポーツプレーヤーは、「ゲーマー」ではなく「アスリート」と呼ぶことも可能なのです。さらに、eスポーツがオリンピック種目に採用されない背景には、サッカーのFIFAやバスケットのFIBAのようなスポーツの国際競技連盟(IF)がないというのが大きな理由のひとつです。よってゲームジャンルを「スポーツゲーム」に限定し、「国際スポーツe連盟」を創設することによって五輪種目化に一歩近づくのではないかと期待しています。ただこれには、75以上の国に国内競技連盟(NF)があることが前提となり、日本の場合、まずJOCの加盟団体になる必要があるなど、越えなければならないハードルはひじょうに高いのです(注2)。

注:
1. https://newzoo.com/insights/articles/global-games-market-reaches-137-9-billion-in-2018-mobile-games-take-half/
2. 夏季オリンピックの競技は、「男子では4大陸75カ国以上、女子では3大陸40カ国以上で広く行われている競技のみ」となっているが、冬季オリンピックの競技については「3大陸25カ国以上で広く行われている競技のみ」とされており、ハードルが低い冬のオリンピックの正式種目化を目指すという考え方もある。

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