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やんごとなき新採用!! 田舎の公務員のレジェンド新人

 今回は40年くらい昔の話である。

 町役場の職員といえば、バリバリの庶民である。  
 自治体は潰れないし、休みなどの待遇は良いが、責任は重い割に給料は低い。親がサラリーマンや農民の、そこそこできる子どもが自然と大多数となってくる。金持ちの息子・娘は、基本的に公務員という選択肢を取らないのた。

 そんな庶民の群れに、ポロリと貴顕が舞い降りた。早乙女君である。
 彼は地元の高貴な血筋のお坊ちゃんであり、事情を知っている人事課などは、心なしかざわついていた。入庁を控えた3月、人事課に1本の電話が入った。
 
 「すみません、4月からお世話になります、早乙女と申します。」
「ははっ、早乙女様!どういったご要件でございましょう?」
職員はかしこまった。
「入庁式にはどんな格好をすればよろしいですか?」

え…。
スーツだろ?むしろそれ以外にあんの…?

しかも、分からなかったら身内に聞いて準備するもんじゃないのか?仕事場に「明日着る服教えてください」とか電話するかフツー。
職員は固まった。

「あのー、スーツかと思いますけど…」
「正装でしょうか?」
 社会に出るときの一張羅は40年前からスーツである。それ以外にあろうか?(いやない)
「あ、そうですそうです!」
「わかりました!当日はよろしくお願いします!」
彼は納得したという感じで電話を切った。

 入庁式に金太郎飴のごとく、同じ色の同じような髪型のスーツ姿が勢ぞろいしていた。しかし、その中に一人だけちょっと違うシルエットが混ざっていた。


 早乙女くんである。
 燕尾服のように後ろが長いジャケットに、ベスト。白い手袋をしてピッシリと立っている。

 彼が来ていたのは男の正礼装、モーニングコートであったのだ!!(朝の英単語じゃないよ)

 本人は「間違えちゃったかな?」という後ろめたさは全く感じられないどころか、周囲との違いに気づいてすらいない。
 が、もちろん注目の的である。普通のペンギンの群れに、皇帝ペンギンが1羽いるような不思議な違和感があった。

 あんな服あったんだぁ…。
 着てくるか普通?
 というか、持ってる人いるんだ。うちの田舎も奥が深いな。注意できないよな…だって、正しいっちゃ正しいもんな…。
 チラチラと、早乙女くんを横目で見ながら、複雑な思いが出席者の中に去来した。

 そこで等しく全員が悟ったことは、

俺たち庶民だよね!!


という紛れもない事実であった。物差しが違かったのである。

 これは、僕が聞いた中でブッチギリで面白く、考えさせられた新採用職員のお話である。これを超えるエピソードがあればぜひ教えていただきたい。

 

 


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