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劇団キンダースペース「もう一人の私」パンフレットより

もう一つのモノドラマ
 
「モノドラマ」をレパートリーの一つとしてから25年が経ちました。元々はこの小さい空間での発表に相応しく、朗読や一人芝居といった既存のものではないスタイルの模索からたどり着いた表現の形です。一人芝居との違いは、小説でいうと「地の文章」にあたる会話以外も含め、俳優が「語る舞台」であるという事ですが、これは一人の演者による演劇空間の創出として独自のものと考えています。
題材は、ほぼ全て日本の近代文学の短編から取り上げ、俳優の「今」の身体による近代の再発見という試みでもありました。実はこれまで、能登や我孫子、熊本市など地方に出かけての公演も最多となっています。近年では、年2回のワークショップやワークユニットの年間の修了公演など、俳優スキルアップのための実践としてもたびたび試みています。
さて、今回の「もう一人の私」では、これまでの「モノドラマ」の創作法とスタイルをいくつか踏み越えようとしています。まず、6本のうち半数、海外文学(翻訳)を取り上げたという事。初の書き下ろしとして文学以外の題材を試みたという事。もう一つは、6本が共鳴し合うことで生まれるイメージを、これまで大きくくくっていた「近代」というものに置き換え、真ん中に置いたという事です。
作家あるいは表現者は、この社会や自分の暮らす生活圏の事象に違和や不安を覚え、作品化したり外部表明する衝動を持ちます。その感受の角度や、表現の仕方にはもちろん個々の「違い」があります。しかし同時にそこには、その人が世界的な文豪であれ一人の患者であれ、共通する「何か」もまたあるはずです。この「何か」の奥に、文明の発祥以来「人」が抱えつづけ、いまだに私たちを追い詰めるモノの姿があるのではないでしょうか。
ただ、全ての芸術は「これこそ、その正体だ」と、答えを出す事を賢明にも避けてきました。この「答え」もまた、人を追い詰めると知っているからです。私たちが願うのは、観客席の上空に、その「何か」が見え隠れする事です。
原田一樹   

劇団キンダースペース「モノドラマアンソロジー もう一人の私」 (kinder-space.com)サイト

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原田一樹 プロフィール
劇作・演出・美術・翻訳・俳優養成講師
劇団キンダースペース主宰
ワークユニット監修・演出
東京都出身。早大在学中、鈴木完一郎氏(青年座)の元で演劇活動を始める。
〈演出〉劇団キンダースペース、俳優座、昴、文化座、東演、名取事務所、音楽座、静岡文化芸術センター、さいたま芸術劇場等。
イプセン、チェーホフ、モーム、ミラー、ポー、三好十郎、三島由紀夫、矢代静一、オリジナル「モノドラマ」他
〈演劇・俳優講師〉NLT俳優養成所。スターダス21。テアトルエコーアカデミー。俳優座演技研究所。桐朋学園、静岡文化芸術大学。鳥取大学。石川県、船橋市などの市民劇団の指導、演出。



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