2022/10/26

ヒップホップの語りは、こうした特質を演じる個人だけでなく、歌詞に触発された人々によって創り出されるものでもある。このように、このジャンルは、黒人のゲットーや居住区、ブラックパワームーブメントを生み出したのと同じ社会的、政治的な力から生まれ、そこでは歌詞の「フィクション」「自伝的」な質がコミュニケーションや社会統制の手段となったのである。いわば、黒人の男らしさや黒人の犯罪性の神話は、都市の黒人ゲットーという「社会的現実」から生まれたものであり、それは都市の抑圧と搾取、そして白人による都市黒人住民の政治的・社会的抑圧と搾取の産物であったのである。都市の黒人ゲットーで黒人であることは、抑圧の犠牲者であることだった-特にジム・クロウの時代には。つまり、黒人の犯罪性という神話が、黒人ゲットーの形成に現実的な力を発揮したのである。実際、この神話によって、当時の「ギャングスタ」は内なる怒りを音楽で表現することが可能となり、その音楽はしばしば黒人ゲットーの物語を背景にしていた［Meehan2000:10］。1990年代の「ギャングスターラップ」においては、ラップギャング、特に「ギャングスタ」への言及が多い歌詞の言葉からもわかるように、黒人ゲットーの神話は今でも非常にリアルである［Byrne1996:16］。

この「リアルさ」のもう一つの例は、このジャンルに「フィクション」の要素を導入した「80年代のリアル・ギャングスタ」であり、彼は今でも非常に生き生きとしている。つまり、ヒップホップの「フィクション化」を始めたのは「リアル・ギャングスタ」なのである。ヒップホップは「リアル・ギャングスタ」だけで作られたものではないが、「リアル・ギャングスタ」が主役となって「リアル」なヒップホップが作られてきたのである。実際、ヒップホップの「虚構化」は、多くの場合、「ギャングスタ」や「ストリート・ペルソナ」を持つミュージシャンと、ゲットー出身ではなく、中流階級や上流階級の出身であるミュージシャンとのコラボレーションによって行われている。この場合、黒人ゲットーの神話はまだ生きているが、中産階級の神話、「マッチョ」な黒人男性、「パパ」な黒人男性、そして、「"」な黒人男性も含まれている。