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アートセンターでの対話型鑑賞あれこれ👀

みなさんこんにちは。
私は山口市にある山口情報芸術センター[YCAM](通称 ワイカム)で
教育普及担当をしている、原といいます。
対話型鑑賞のコミュニティの方々からは「ずーみん」というニックネームで呼んでいただいてます。

私と対話型鑑賞の出会いは、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)のアートプロデュース学科に入学したことがきっかけでした。当時の学科長で現在アート・コミュニケーション研究センター所長の福のり子さんや現在の学科長の伊達隆洋さんの「ACOP(アート・コミュニケーション・プロジェクト)」を履修してから、もうかれこれ11年くらい対話型鑑賞をやっている気がします。笑

当時の様子www

この度、「対話型鑑賞ファシリテーター Advent Calendar 2021」へ記事を投稿させてもらえることになったので、私が最近の仕事の中でどのように対話型鑑賞を取り入れているかをご紹介してみますね。

(このためにnoteをはじめた!笑)


YCAMってどんなところ?

YCAMの外観

まずはじめに、私の勤務しているYCAMについて、簡単に紹介します。
特徴は大きく3つ!

  1.  映画館、図書館、劇場などが合わさった複合型の文化施設であること

  2.  映像、音響、ネットワークなどのメディア技術を使ったアート表現を発表していること

  3. 作品のほぼ全てがYCAMとアーティストが共に作った新作であること

YCAMについて|山口情報芸術センター[YCAM] https://www.ycam.jp/aboutus/

一般的な美術館ですと、所蔵品があり、その中からコレクション展が行われたり、他にも企画展や巡回展などが開催されますよね。
しかしYCAMは、美術館と違って所蔵品を持っていません
そのため、発表される作品は新しく1から作られた「まだ誰も見たことのない」ものです。
つまりYCAMは「まだ誰も作ったことのない料理を、鑑賞者の方に味見してもらうための場所」と言えるかもしれません。
味見してくれる方(鑑賞者)が多ければ多いほど、その料理には磨きがかかっていくはずですよね。

新作を作るための「ラボ」。様々な専門技術を持ったスタッフがいます
(撮影:山中慎太郎)

加えて、YCAMは複合文化施設なので、アートを見に来られた人の他にも、映画や図書館を利用する人など、様々な来場者が訪れます。
このような幅広い層の来場者にどうやったらより深く作品を鑑賞してもらえるでしょうか?
このような背景から、YCAMでは対話型鑑賞を取り入れた教育普及プログラムを実施しています。いろんな実施形態があるので、以下いくつかのタイプに分類してみました。


type1. 公開講座

「普段YCAMは利用するけど、図書館や映画に行くくらいで、アート展示のことは難しいから入りづらいな…(メディア技術とか難しいし…)」と思っている方に向けて、様々なゲスト講師を招きながら作品鑑賞を面白くする「コツ」をお伝えする参加無料のレクチャーイベントです。

◇アートってどうみたらいいの?と思ったことがある人へ
(2020年9月)

長いタイトルですが、文字通り「アートに興味はあるけどどう鑑賞したら楽しくなるだろう?」という方へ向けた2日間のイベントでした。
講座と言いながらも、目隠しをした相手に言葉だけで作品のことを伝えるワーク「ブラインド・トーク」や「映画を2回みる会」、そして2日目の最後には実際に鑑賞ナビゲーターを体験するグループワークなどが行われました。これらはいずれも、他の人とのコミュニケーションを通じて作品に対する見方が変化したり、深まることで、アートが面白く思えるようになるワークです。アートの知識についての講座ではなく、対話型鑑賞のエッセンスを用いてより鑑賞やコミュニケーションを楽しんでもらえればという思いで開催しました。
(ちなみに講師には、アドベントカレンダーの記事も担当された平野智紀さんをお招きしました😀)

「ブラインドトーク」をしている様子(撮影:谷康弘)
映画を2回みる会もやってみましたよ(撮影:谷康弘)
小グループで実際に鑑賞とナビゲーターをするワーク(撮影:谷康弘)

◇わたしもアートがわからない (2021年10月)

コロナ禍、特にこの時期はデルタ株の感染拡大を鑑みて、急遽オンライン開催に舵を切りました。「わからないを紐解く」というテーマで実施した本イベントでは、講師の会田大也(YCAMアーティスティック・ディレクター)のレクチャーと、参加者のグループワークで進行しました。オンラインホワイトボードツールの「miro」を使いながら、アート鑑賞にまつわる「わからない」を深く探究していく、そんな内容でした。

(アドベントカレンダーに参加している方々もお越しくださいました。ありがとうございました😭)

「わからない」と一言で言っても、いろんな種類があるよね、という話

type2. 展覧会の鑑賞イベント

YCAMで開催される展覧会をより深く鑑賞してもらうための関連イベントとして、ギャラリーツアーや対話型鑑賞のイベントを行っています。
コロナ禍の影響もあり、オンラインを活用した実施形態にもチャレンジしてみました。

◇見ないほうがよくみえる (2020~2021)

この「見ないほうがよくみえる」は、山口県立美術館で開催される展覧会の鑑賞イベントをYCAMが共同開発したものです。
特徴はなんと言っても「オフライン×オンライン」というハイブリッドな開催形態。実際の美術館の会場と、オンライン会場を繋ぎながら展覧会の作品をじっくり見ていくという内容です。

進行役は美術館ではなく、オンライン上に登場します(撮影:谷康弘)

仄暗い照明の美術館で、ガラスケース越しに見る実物の作品と、
明るい画面でじっくり拡大して見ることのできるオンライン画像。

いったいどっちが「作品を深く鑑賞した」と言えるのだろう?
という、ちょっと攻めたテーマのワークショップでした。

オンラインに集まった参加者と美術館に集まった参加者とでは、その体験にはいくつか違いがあります。どちらが有利というわけではなく、お互いのいい部分や得意なことを補完しあって作品の解釈を協同で作り上げていくことのできるワークショップを目指しました。


◇サンカクトーク (2021年4月~)

「サンカクトーク」は、作品と自分と他者を三角形で結ぶように行ったり来たりしながら作品を鑑賞してみよう、というコンセプトの鑑賞イベントです。
YCAMで今年の4月〜7月に開催されたホー・ツーニェンの展覧会「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」の関連イベントとして開発されました。

展覧会会場の様子(撮影:三嶋一路)

YCAMで対話型鑑賞を取り入れようとするときに苦戦するのが、
扱う作品が映像、音響などを駆使したインスタレーションで、かつデカい、あと会場が暗くて喋りづらい
という点です。
加えてこの展覧会がテーマとしたのは第二次世界大戦中の日本について。
鑑賞者の意見は複数の人の前ではなかなか語れないような思想的な話題や死生観といった、センシティブなものになる可能性もありました。
このような環境の中で、どうやったら作品について参加者同士が意見を交わせるだろうか?
そこで生まれたのが「サンカクシート」という紙を使ったコミュニケーションでした。参加者はまずこのシートを持って会場の作品を鑑賞し、気になったことや疑問を書いていきます。一通り鑑賞が終わるとそのシートは一旦スタッフが回収し、シャッフルして配りなおします。それを受け取った参加者は、前に誰かが書いてくれた疑問に返事を書く、という手紙のようなやりとりを通して、作品の観察や解釈を深めてもらうという狙いがあります。

サンカクシートを記入する参加者(撮影:谷康弘)

また、もう1つ重要なのは、このシートは匿名でやりとりされるということです。センシティブなテーマを取り上げるからこそ、誰がその意見を書いたのかをあえて不透明にしておくことで、安全に意見が言える場を設計することもできます。

最後は匿名のシートをみんなで見ていきます(撮影:谷康弘)

このような形式は、普段行っている対話型鑑賞のやり方とは異なりますが、参加者の作品に対する観察(ディスクリプション)や解釈をできるだけ損なわないように鑑賞の形を工夫することもできるのではないか、と思ったりもしたのでした。


type3. 一般向けがっつり研修

これまでは、対話型鑑賞を一般の幅広い層の方へ向けて普及させていくという狙いのもと企画したイベントをご紹介してきましたが、この「鑑賞ナビゲーターキャンプ2021」は、どちらかというとファシリテーターを目指す人向けの研修でした。

◇鑑賞ナビゲーターキャンプ2021 (2021年8月)

おそらくこの記事を読む方のほとんどは、対話型鑑賞のファシリテーターをすでに実践されている方々かと存じます。また他のアドベントカレンダーの記事でもよく目にする京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターのセミナーに参加された方々も多くいらっしゃるかと思います。
この「鑑賞ナビゲーターキャンプ2021」もそれと同じような目的を持った方々に参加してもらうために企画しました。
講師はACOPセンタースタッフの伊達隆洋さん
YCAMでこのようなセミナーを行う意義を伊達さんと何度か打ち合わせをする機会がありました。ACOPセンターが主催するセミナーは、基本的に最低でも3日間の日程が組まれるように、ステップを踏みつつプログラムを行なっていくと思うのですが、今回の予定は2日間….。

「時間が限られているセミナーは、ファシリテーションが上達する方法のようなものだけを伝授する機会になってしまう。」という伊達さん。
どちらかというと、深い鑑賞や深いファシリテーションに到達するにはもっと多くの時間をかけることが必要だし、「できる」と思って参加した人が「もっと高い山があるのか…!!」といい意味でショックを受けるような内容にしようということになりました。

レクチャーをする伊達さん(撮影:谷康弘)

イベント終了後、参加者のアンケート結果を見た伊達さんが「こういう結果は、今までにないよ!」と驚いていました。
以下、少しだけご紹介します。

まだ、頭の中がぐるぐる回ってますが、簡単にできる、わかる!みたいな内容でないので、それで当然なのかなーと思っています。特に2日目の午後、聞くワークがダメダメでした〜。 考える、話す、聞くのバランス?が取れなかったから…?でしょうか。 考えます。話します。聞きます。(30代男性)

対話型鑑賞というと、今まで子ども向け・易しいといったイメージを抱いていましたが、実際にはかなり論理的に考えることと、他者の話を傾聴することが求められることを体感し、これはコミュニケーション全般に求められることなのだろうなあと思いまし た。同時に、コミュニケーションや対話には単に仲良くする、といったようなことだけでなく、自身の足下を崩されるようなラディカルな可能性があることを知りました。(20代女性)

認識が甘かった… 
対話型鑑賞はただ自由に想像を巡らせるのが楽しい単発のプログラムだと思っていました。長い時間をかけて,ドキリ・ギクリを繰り返して参加者側も痛みを伴いながら、成長を楽しんでいく育成プログラムなのだなと感じました。 対話型鑑賞もナビゲーターキャンプもとても価値のあるものだと感じたし、そういった活動に取り組むYCAMが好きになりました。 (20代男性) 

今日のナビゲーターキャンプで得たことと、これまでの経験をリンクして二学期以降の授業に活かしていきます。 ゴールはまだまだ見えませんが…。ありがとうございました。(40代男性) 


type4. スタッフ向け長期研修

◇サポートスタッフ研修(2019年〜)

YCAMでは、サポートスタッフ(サポスタ)という有償ボランティアさんたちが、作品制作や展覧会の運営や安全管理などに携わり、私たち職員と一緒に活動しています。近隣の大学生さんや、主婦の方、また定年退職されたお父さん世代の方など、その層も幅広いんです。
彼らの業務の中に「展示ナビ」というものがあります。展覧会の会期中、会場の中で来場者を案内したり、ときには安全管理を行ったりするのですが、彼ら曰く、「展示ナビはアートに詳しくないと出来ない」そうで…。
つまり、知識や自信のある方だけが勤務できる、エリート職のように捉えられていることがわかりました(笑)。
私も対話型鑑賞をかじってきたので、「アートは高尚なもの」とか「難解なもの」という苦手意識のようなものを解きほぐせたらと思い、毎月サポスタさんに向けた対話型鑑賞の研修をしています。
研修といっても、「最近どう?」という雑談をして、私が持ってきた作品の画像で対話型鑑賞をやってみて、、というものです。
ところが今年に入って「気になる作品があるので、ナビしたいです」と、自ら作品を持ち寄ってくださるサポスタさんが増えてきました…..!!!!
あとは、現在開催中の展覧会の「展示ナビ」の業務が楽しくなったという声もよく聞くようになりました。作品に対して萎縮する気持ちがなくなり、また来場者ともコミュニケーションが取れるようになってきたという方もいらっしゃいました。


さいごに

長く書いてしまいました。。汗
なんだか良いことばかり書いてしまいましたが、
もちろん課題も多くあります。
例えば、インスタレーションのような大型の作品や、映像や音などが流れている作品は、これまでACOPで培ってきたスキルでは太刀打ちできないことが多いので、色々と試行錯誤をしていく必要があります。
例えばこれを読んでいる方の中で、映画や演劇、映像作品などを使って対話型鑑賞やってみたよ〜!という方がいらっしゃいましたらぜひ聞かせてほしいです!

おしまい✋


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