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ワンス・アポン・ア・タイムinダイアリー 10

10、改変

 父親の話によると、由紀ちゃんに会いに行った夜、僕が眠った後に由紀ちゃんは僕の頭を花瓶で殴りつけ包丁で腹部をメッタ刺しにし、出血多量で僕は死んでしまったのだと言いました。
 「え、死んだ?」と僕は自分のお腹をさすってみると包帯のようなものがぐるぐるに巻かれていて、ズキリと重い痛みがしました。

「最初はな。だから俺が止めに入った。」

父親はそう言って日記帳を取り出して見せました。

「俺は日記を使って過去にメッセージを送ることができる。たぶん、お前にもできる。というかもうやってるな?」

僕が頷くと父親は話を続けました。
 それによると、この日記の力は代々筆まめだったご先祖達も持っていたようで、死んでしまった爺ちゃんや曾祖父さんも同じことができたそうなのです。
 そして、この力を持った人間だけは、過去が書き換わったことを認識できて、書き換わる前の記憶も持っていられるということなのでした。

 つまり父親からすると、前日まで元気にしていた僕が過去にメッセージを送った結果、「僕が由紀ちゃんに刺されて死んだ」と過去が書き換わってしまい、朝起きたらいきなり僕が死んだことになっていて、大慌てで過去にメッセージを送って僕を助けたのだということのようでした。

「由紀ちゃんはどうなったの?」

僕が尋ねると「殺人未遂で現行犯逮捕した。」と答えました。

「そんなことより自分の心配しろよ。母さんがどんだけ悲しんだ思ってるんだ。親にすっ裸の息子の仏なんか見せんな!」

父親も泣いてるような顔で怒ったので、僕は「ごめん。」と謝りました。

「だいたいお前由紀ちゃんになにしたんだ。腹をメッタ刺しなんてよっぽど恨まれてたってことだぞ。」

 そう言われても、恨まれるような心当たりはなく、むしろ久しぶりに再会して仲良く過ごしていたくらいだったのに、そのあとで殺されるなんて想像もつかないことなのでした。
 あるとしたら、銃乱射事件のあとに直樹と由紀ちゃんを助けられなかったことかと思いましたが、それだって当時の僕は一生懸命だったのに二人の方から距離をおかれて泣く泣く諦めたことでした。

「事件のあと、二人を助けられなかったから。」

僕がポツリと呟くと、父親も「はあ。」とため息をつきました。

「あの事件はなあ。俺もあいつを現場に行かせないようにしたんだけど、あいつ真面目だから休暇もとらないし、当番も変わらないし。」

どうやら父親も直樹の親父が犯人を射殺しないように、日記を使って過去を変えようとしていたのですが、何度繰り返しても失敗してしまったのだと話しました。

「せめて直樹と由紀ちゃんが不良の道に進まないようにできれば、今もちょっとはマシになるかも。」

僕が言うと父親も頷き、「これ。」と言って紙袋から僕の日記を取り出して手渡しました。

「今度はしくじるなよ。」

父親はそう言って僕の肩をつかみ、看護師さんから面会時間が終わったことを告げられると、部屋を出ていきました。


 僕は日記をめくり、あるページを見つけました。僕が中学2年生の時、久しぶりに話した直樹が「先輩に誘われて暴走族の集会に行く。」と言っていた日でした。

「直樹を暴走族に入れるな。絶対止めろ。」

そう書いて日記を閉じた僕は明かりを消し、眠りにつきました。
 そして一つの夢を見ました。


つづく

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