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物々交換、1対0、そしてリソース管理の技術

はじめに

本記事はzyf氏によるbartering, 1v0s, and the art of resource managementの日本語訳になります。
翻訳にあたり掲載許可はいただいております。
日本のユーザーの反応も楽しみにしているとのことなのでコメント・Twitterなどで感想を頂けますと幸いです。
原文最終更新:2023年11月26日

前回の記事

シリーズ目次
 
0 :より賢くプレイする:戦術的思考を改善するためのガイド
 
1a:盤面管理入門
→1b:物々交換、1対0、そしてリソース管理の技術
 1c:キーポジション、ボックス、その他:ポジションの取り方
 2a:ゲームの状態のフローチャート:試合の流れのメンタルモデル
 2b:フローチャートを使ってゲーム内で考える
 3 :フィードバックのループ:実験、Vodレビュー、習慣作り


盤面管理の要点のおさらい

まず、これまでに確認した内容を振り返ってみよう:

  • 勝ちたい

  • 勝つためにはカウントを進めなければならない

  • 確実にカウントを進めるためには、カウントを進める際に、こちらに有利な状況があるか、高確率で成功する何かが欲しい

  • マップや盤面管理を活用することで、そのアドバンテージを確保し、カウントを進めることへと繋げることができる

盤面管理の話の最後に、キルやスペシャルが重要なのは、基本的に、マップの優位性を覆す機会を与えてくれるからだ、という考え方に触れた。 
今回は、そのアイデアをさらに広げ、物々交換システムのような形で、より一般的な「価値の理論」について考えてみたい。


盤面管理のための取引

まず最初に、マップ上のポジションAからポジションBに移動するには、常に何らかの「コスト」が伴うという考え方を紹介したい。この「コスト」は、AからBに移動する難しさを表すものであり、場合によっては「AからBにいる敵を排除する難しさ」と考えることもできる。

  • このコストは、通常、AとBが隣接する領域で、チョークポイント(狭い通路や障害物など)で直接分かれている場合に特に分かりやすい。他のケースでも、AがBに隣接し、BがCに隣接している場合は、AからCへのコストはおおよそ「A→Bのコスト + B→Cのコスト」と推測できるだろう。しかし、正直なところ、その部分は深く考えていないので、重要なのはAとBが近接しているケースに焦点を当てることだ。

毎回の状況でそのコストをどう評価するかについては、明確に説明するのが難しいが、これは自分で経験を積みながら直感的に理解していくものである。しかし、この概念をまず知っておくことで、自分なりに試行錯誤しながらそのコストを見極めていく助けになるだろう。

例として、海女美術大学のガチヤグラを取り上げてみよう。このマップは比較的シンプルでわかりやすく、多くのプレイヤーが経験しているだろうから、説明がしやすい。

わかりやすい高コストの例としては、敵陣の右奥[A]から敵のリスポーン地点[B]への移動が挙げられる。唯一のルートは、リスポーン地点に続く塗れない細いスロープで、ここを突破するのは非常に困難である。

図1:高コストの移動:海女美術大学・リスポーン地点への移動

直感的に、敵のリスポーン地点まで入り込むには多大な労力が必要だと感じるだろう。しかし、それが不可能というわけではない。例えば、敵が全滅している場合や、ジェットパックやショクワンダー、あるいはスロープに使えるグレートバリアなどがあれば、敵陣右奥からリスポーン地点まで侵入することは可能だ(ただし、実際にそれをすることが戦略的に正しいかどうかは別の話だが)。

盤面管理の「通貨」

いずれにせよ、これによってポジション移動の「コストを支払う」ために使用できる最初の2つの「通貨」が紹介されたことになる。それは、人数有利とスペシャルだ。
しかし、これは「物々交換システム」だと言ったように、敵チームにも発言権があり、さらにそのポジション自体も第3の「通貨」として機能している。

たとえば、ジェットパックを使って海女美術大学のリスポーン地点に挑む場合、敵チームはこの交換に同意してエリア・ポジションを諦めることもできるし(「君のジェットパックはこのリスポーン地点と同等の価値がある」)、同意せずに戦うこともできる。しかし、もしこちらの評価が正しければ、彼らが挑んでくることで自滅し、結果的にそのポジションを得ただけでなく、追加でキル(人数有利)まで得ることができる。これでより多くの利益を得たことになる。

試合が進むにつれて、このような取引は絶えず行われており、プレイヤーはその取引に巻き込まれたことを認識し、できる限り有利な条件で交渉することが重要だ。この例では、ジェットパックを使って交渉を仕掛けたわけだが、もちろん、敵にとってはリスポーン地点前のポジションだけを諦める方が、ポジションと命の両方を失うよりも良い。しかし、彼らはポジションと自分の命の価値がジェットパックよりも高いと判断するかもしれない(つまり、そのポジションを守り切り、ジェットパックを撃破できると考える)。もし彼らの評価が正しければ、こちらはジェットパック(と命)を失い、何も得られないという結果になり、これが敵にとっては最高の結果となるだろう。

何が成立するかは状況次第だが、自分がこのような取引に参加していることを認識し、その限界をしっかり理解して交渉に臨むことが大事だ。

中には、複数のスペシャルと人数有利のアドバンテージがなければ確保できないほど強力なポジションも存在する。私の経験では、海女美術大学のヤグラルートの上側の高台[1]がその典型例だ。ここは守りが強固だとほとんど突破できない。しかし、実際の試合では状況に応じて容易に突破できることもあるだろう。同様に、このポジションにアプローチ可能になる要因は、単に敵が人数不足で重要な地点すべてをカバーできていない場合もある。再び海女美術大学の例で言えば、人数有利を得たときに中央から敵広場[2]に進行するのが容易になるのは、たいてい敵が右ブロック、左スロープ、高台へ繋がるインクレールをすべて守ることができなくなるためだ。

図2:海女美術大学ヤグラの高台[1]と敵広場[2]、およびその入り口の一部

物々交換の成立(時間の影響)

ここまで、マップ上で有利なポジションを取るという最終目標のために、お互いにやりとりする3つの主要な通貨/リソースについて説明してきた。

  • スペシャル

  • 人数/プレイヤー

  • ポジション

これらを理解する上で重要な最後の要素は「時間」である。時間自体は通貨とは言えないが、時間によって3つのリソースの相対的な「価値」が決定される。確実に前進し、ポジションを制圧するためには、人数、スペシャル、ポジションのいずれかのアドバンテージを組み合わせ、確実にそのポジションでの戦闘に勝利する(あるいは敵をうまく排除する)ことが必要になる。

これまでの盤面管理の議論からも推測できるように、強ポジを確保することが最も安定した通貨の形となる。人数のアドバンテージは一時的なもので、プレイヤーは最終的に倒されるし、スペシャルのアドバンテージも一時的で、スペシャルは必ず使い切ってしまい、スペシャルを再度溜め直すにはリスポーンよりもずっと長い時間がかかる。

このため、ある意味では、マップ上のポジションこそが最終的な成功の指標であり、交換後に「保持」できる通貨ということになる。したがって、人数有利を最大限に活用するか、スペシャルを使ってポジションを有利に交換することが重要である。最終的に本当に保持できるものは、交換後に得た(または守りきった)ポジションだけだからだ。

つまり、物々交換の最終的な結果/成果は、数的有利やスペシャルが消えた後に、各チームが明確に管理下に置いているポジションで決まる(それは3秒くらいの短時間で決まるかもしれないが、本質は変わらない)。
また、取引が成功した後に「報酬を受け取る」ためには、実際に確保したポジションまで自分達が入り込む必要があるということだ。
たとえば、海女美術大学のガチホコで、スペシャルを2つ使って敵を高台から追い出したのに、その後自分たちが高台に入らずに放置したら、復帰した敵がスペシャルが終わった後にすぐ戻ってきてしまうだろう。
そうなると、取引自体が無意味になってしまう。


1対0:試合を有利に進めるための基本単位

これまでの話を踏まえて、ポジションを制圧するための具体的な方法について話そう。人数有利やスペシャルを使ってエポジションを制圧することの本質は、何らかの形で1対0の状況を作り出すことにある。
つまり、1対0こそが戦闘における「確実な有利」の基本単位である。
どういうことか? 手始めに、典型的な例について説明しよう:

文字通りの1対0

前のセクションの最後に触れたが、もしエリアに誰もいない場合、そのエリアは何もせずに制圧できる。(実に間抜けな話だが、敵チームがどこにいるのかをよく把握していれば、これは案外よく起こるものだ)

強制的な1対0

次に簡単なのは、強制的に1対0を作り出す場合だ。
たとえば、テイオウイカを使えば、文字通り無敵になるので、敵ができることは生き延びることしかない。
また、トリプルトルネードやナイスダマを投げた場所には、敵が立つことができない明確な範囲ができるので、そのポジションの戦いに自動的に「勝利」となる(少なくとも一時的には)。
また、グレートバリアも同様で、誰もその中に立っていない場合、そのポジションは確保できる。

「理不尽な」1対0

次に説明するのは、戦闘が非常に不公平な場合に発生する1対0だ。たとえば、ウルトラショットやジェットパックを使うと、敵に対して一撃で倒せる脅威を持つことができる。しかも、敵は反撃できない距離からほぼいつでもそれが可能である。こうなると、敵ができるのは生き延びることだけなので、実質的に1対0の状況を作り出していることになる。

2対1の戦闘を1対0に変換する

もう一つの1対0に変換できるケースは、(数的有利により)2対1から始まる試合である。ここで理解しておくべきポイントは、2対1が常に有利とは限らないということだ。もし二人が隣り合って立っている場合や、一人ずつ順番に戦ってしまう場合、相手が勝利する条件はほとんど変わらず、味方と自分が火力を高めただけにすぎない。

2対1を確実に有利にするためには、まず1対1を強制し、1対1に入っていない味方が相手の注意を引かずに実質的な1対0を作り出すことが必要だ。
これが少し厄介になるのは、相手がターゲットを切り替えてきた場合だ。その場合、1対0でキルを狙っていたプレイヤーは逆に、生存する/戦闘を長引かせるように動きを切り替えなければならない。要するに、スレイヤーとスカーミッシャーの役割を交換する必要が出てくるのである。
(スレイヤー/スカーミッシャーについては流動的な優先順位と役割を参照)
ここで肝心なのは、2対1によるアドバンテージをうまく活用できるのは、最終的に2対1を始めたプレーヤーが2人とも生きている場合だけだということだ。 なぜなら、1−1交換になってしまった場合、最終的に両チームが物々交換できる「通貨」の量は変わらないからだ。

  • ここで補足しておくが、より高いレベルの経験を持つプレイヤーにとっては、これはやや単純化しすぎた説明であり、1対1の交換が良い結果を生む場合もある。ただし、この点についてはあまり深入りする必要はないと思う。

まとめると、2対1を効果的にするためには、相手の注意を分散させ、誰かが1対0の状況を作り出せるようにする必要があるということだ。

疑似2対1を作り出すスペシャル

いくつかのスペシャルは、疑似的な2対1を作り出すことができる。
たとえばマルチミサイルもそうだが、ナイスダマやトリプルトルネードのように捉えれば相手はその場を離れないといけないし、逆に相手がポジションを維持しようと戦うことを選ぶのであれば、こちらはミサイルという無敵の味方とともに戦うことが出来る

効果的な1対0のセットアップ

しかし大まかな考え方として、これらのケースに共通するのは、スペシャルを使って意味のある1対0を作り出す必要があるということだ。もしナイスダマを意味のない場所に使ったとしても、それは1対0にはならない。人数有利があるのに、一人で突っ込んでしまえば、実際には有利ではない。味方が別の角度から攻めたり、敵を奇襲できるような状況を作らなければ、その戦闘は確実に勝てるものにはならない。

逆に、自分が不利な状況にいるときやスペシャルを浴びているときは、できるだけ相手に有利な1対0を与えないようにする必要がある。通常、これには味方と連携して1対0を許さないようにするか、敵がポジションを征圧するだけで、こちらをキルさせないようにすることが求められる。


学んだことを応用する:試合の流れ

これらすべてのアイデアを念頭に置くと、試合の流れを理解する助けになるだろう。自分達があるポジションを支配しているが、他のポジションも支配したい。 行きたいポジションに行くには、まず数的優位を確保/活用するか、あるいは、欲しいポジションを確保するための「コストを支払う」のに十分な「価値」を持つスペシャルを揃え、そのリソースを使用して、欲しいポジションを確実に奪える1対0を作り出して実行する必要がある。

均衡・有利・不利

大雑把に言えば、試合中は次のいずれかの状況にある。
リソースのアドバンテージを確保しようとするか(均衡状況)、アドバンテージを活かして積極的な交換・物々交換を強要しようとするか(有利状況)、あるいは物々交換を強要されても損失を最小限に抑えようとするか(不利状況)ということだ。

均衡状況では、キルを狙うかスペシャルを貯めることが主な目的であり、使っている武器やギアに応じてどちらが得意かが変わってくる。どちらの選択肢も有効だが、武器の強みを活かしてプレイする必要がある。相手チームもこちらと同じように、リソースを蓄えて、あなたより先に十分な通貨を集めようとしている。

しかし、もしあなたがやっていること(キルを狙う、スペシャルを作るなど)の過程で、敵が先に優位に立った場合(例えば味方がやられた、相手がスペシャルを発動し始めた、後ろに回り込まれ安全だと思っていた場所を取られたなど)、その時点で自分たちが不利になったと認識する必要がある。相手がポジションを取るための通貨/リソースの「取引を始める」余地ができてしまったので、こちらは損失を最小限に抑えなければならない。特にスペシャルはこちらの人数が不利な場合でもそれを補えるだけの重要な役割を果たす。たとえば、ナイスダマやグレートバリアを使うことで敵の前進を妨害し、もし敵の人数が増えてもポジションを維持し続けることができる。

一方で、もし十分なリソースのアドバンテージを得たなら、その優位性が消えてしまう前に(相手が復帰してきたり、スペシャルを貯めきる前に)、出来るだけ速くそれを活かして有利な取引を強制し、重要なポジションを確保する必要がある。


結論

具体的な話になると、かなり個人の経験や意見による部分が大きいと思う。

たとえば、エナジースタンドは特殊なスペシャルだ。武器自体の性能を強化するだけでなく、敵と相打ちになった場合でも、超高速で復帰し、スペシャルゲージの保持ができるため、実質的に1対0を勝ち取ったことになる。理論上はゲームバランスを崩すようなものではないが、最近のハイレベルのプレイでは、このエナジースタンドが1対0を確実に作り出す最も信頼できる手段の一つとして使われている(これは、他のスペシャルが同じことをするのに弱いということの方が大きいかもしれないが、それはまた別の話だ)。

一方で、他のスペシャルはその柔軟性と効果の高さが強みであり、こちらがあるポジションに侵入する際にも、逆に敵の侵入を阻止する際にも強力な通貨となる。たとえば、カニタンクやジェットパックは、使い手が上手ければ、その強さが特に際立つ。

いずれにせよ、どのような状況でどのスペシャルが他のスペシャルに打ち勝つかを見極めること、ポジションを制圧するためにどれだけの人数有利が必要なのかを見極めることが大事だ。
これらの複雑な相互作用を、試合中に使えるシンプルな直感にまで落とし込む方法を見つけるには、リアルタイムで適切な判断ができるレベルまで洗練させるための実戦を通じた多くの経験が必要になる。
そのような具体的な方法を見つけ出す方法についての詳細な分析は、柱2(モデリング)のプロジェクトで取り上げる予定だ。
このドキュメントにより、試合の状態を理解し、それがどのように展開していくのかを把握するための不可欠な背景となる、物々交換と1対0についての概念の全体像を理解していただけたと思う。

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