見出し画像

7-1 アルケミー新環境の幕開け

8月の予選ウィークエンドに向けて大人気フォーマット()アルケミーの新環境を確認していく。統率者用に販売されたセットをアルケミーで調整するという荒業により実装された「アルケミーホライゾン:バルダーズ・ゲート」。既に7月の予選ウィークエンド、アリーナオープンのフォーマットであるリミテッドにおいても中々の盛り上がりを見せていることは何ともアルケミーらしいが、構築面における影響はどうだろうか。

本稿執筆時点で環境を窺い知れるイベントである有名配信者クローキー(crokeys)主催の大会(Crokeyz Alchemy Baldurs Gate Tournament)を確認していく。

大会の参加者は153名。使用率トップのデッキはエスパーミッドレンジ(24名)、次点でジャンドコンボ(15名)、ラクドスサクリファイス(12名)、ジェスカイ日向(11名)、エスパーコントロール(11名)、緑単アグロ(11名)、ナヤクレリック(7名)と続いている。

本大会では1日目のスイス上位16名により2日目ダブルエリミネーションが行われており、その結果が以下のとおり。

最多入賞はジャンドコンボで6名(4位のジャンドアグロはデッキ内容がジャンドコンボ)。エスパーミッドレンジが5名(6位のエスパーコントロールはクリーチャー19枚採用しているためエスパーミッドレンジとみなした)と続き、残るはジェスカイ日向2名、イゼット天啓(!?)、ラクドスサクリファイス、ナヤクレリックが各1名となっている。

以下、入賞者数が多かった順にデッキを見てみよう。

1.ジャンドコンボ


今回の勝組とも言えるジャンドコンボについては、その原型となったAlthMTG氏のツイートを見てみよう。

具体的なコンボの仕組みについては、自作した上図をご確認頂きたい。クソエンチャとも言われる《舞台座一家のお祭り騒ぎ》が目の敵にされやすいが、コンボそのものの核は《ゆすり屋のボス》、《語りの神、ビルギ》から赤マナor宝物を生み出しつつ、手札に戻るクリーチャー2種《不吉な旅人》、《アーチリッチ、アサーラック》を無限回キャストすることを目的とするもの。

アルケミーホライズンからの新星として《ゴブリンの罠探し》が採用されており、《ゆすり屋のボス》や《語りの神、ビルギ》といったコンボパーツをマナコストを軽減して引っ張ってくれる。中でも無限回のキャストを目指す《不吉な旅人》、《アーチリッチ、アサーラック》を抽出した際の効果は強く、《不吉な旅人》は0マナ(!?)、《アーチリッチ、アサーラック》には黒1マナでキャスト出来ることになる。これら抽出したクリーチャーカードに《ゆすり屋のボス》で宝物を付与してあげれば、無限マナの生成も容易となる。

ピン差しされている《裕福な亭主》と《魂浸し、ダイナ》についても、揃った際の強さはもちろん、前者はあと数点を目指すアグロデッキに対して絶望的なゲインを生み出す存在となり、後者については相手がなかなか死亡させてくれない《ゴブリンの罠探し》を能動的にサクることができたりと、いぶし銀の活躍を見せる。そもそもピン差しではあるが、どちらも2マナのクリーチャーであるため、《舞台座一家のお祭り騒ぎ》が場に出ている状態で《アーチリッチ、アサ―ラック》を何度もキャストしていれば、いずれ場に出てくるカードになる。

まだ意識されてないコンボデッキということもあって、本大会では大活躍の結果となった。

2.エスパーミッドレンジ


続いて上位16名のうち5名の入賞を果たしたエスパーミッドレンジについて、最も成績の良かったデッキリストを確認していく。

画像が出てないカードについて、メイン左上から2、4、1枚を以下のとおり補足する。

なお、サイドについて画像が出てないカードは上記カードのうち《復讐の伝令》、《守秘義務》各1枚となる。

エスパーについてはニューカペナの街角にて実装されたアルケミーカードにより大幅に強化されたアーキタイプである。中でも特筆すべきは《運命の占者》というクリーチャー。それ以前の神河アルケミーまでの環境は《街追いの鑑定人》や《地底街の略取》といったハンデスが満載の環境であった。

《運命の占者》はディスカードによるリソース差を埋めてくれるクリーチャーであることに留まらず、複数枚場に出た際は1枚捨てることで複数枚の抽出を行う等、アドバンテージに変えてしまう強さがある。もちろんスタンから実績十分の《策謀の予見者、ラフィーン》についての相性も良い。

その《運命の占者》とのシナジーをさらに意識した新カードの採用も目立つ。

《ジンの皇帝、カリム》は2マナで手札から捨てることで、山札の上から7番目に自身を創出しながらキャントリ付のタッパーとして運用可能。その「捨てる」動作に《運命の占者》が加われば、別のクリーチャーカードを抽出することができる。もちろん《ジンの皇帝、カリム》の本来の能力として、捨てる能力を使った後に墓地に3枚《ジンの皇帝、カリム》がいれば、2枚追放の後、1枚を場に出すこともできる。

もう1枚はリミテでボムとして名を馳せる《ギスヤンキの戦士、ラエゼル》。 アルケミーホライズンの新ギミックである「専門化」により、手札のカードを捨てることでその色にあった別のクリーチャーへと変身するもの。お察しのとおり、「専門化」により捨てられたカードは《運命の占者》で別のカードへ抽出できるため、リソースを失わず強化が可能。自身のスペックも二弾攻撃付の高タフネスクリーチャーである他、1度限りではあるがスペルに対する除去耐性があり、伝説という点も専門化により別カード扱いされることで克服する等、見た目以上に器用なカードとなっている。

本リストのようなミッドレンジに寄ったものもあれば、神河チャンピオンシップで優勝をおさめたダンジョンギミックを搭載したアグロに寄ったものもあり、PW《邪なる大魔道士、ターシャ》や《放浪皇》等を積極的に採用したコントロール寄りのものもある。

3.ジェスカイ日向

現スタン環境のトップメタに君臨するジェスカイ日向のアルケミー仕様。基本的なギミックである《暁冠の日向》と《マグマ・オパス》はもちろん、色が合えば入るとまで言われる《表現の反復》や《鏡割りの寓話》といったパワーカードはアルケミーでも健在。《黄金架のドラゴン》はナーフをされてしまっているが、宝物からのマナを2倍にする能力や自身が攻撃した際に宝物を生む能力は依然として脅威となっている。 
気になるのはアルケミー仕様のカード。環境で最も優れている除去の1つと言っても過言ではない《溶鉄の衝撃》に加え、土地でないカードを2枚抽出し、手札から1枚山札の下に戻す《新たな知識の探求》をメイン4枚採用。その他クリーチャーカードに対しては《火消し》の若干の上位互換となる《簡略化の影響下》についても採用されている。


ジェスカイ日向は現環境最初期に実施されたメタゲームチャレンジの7勝デッキとしても見かけており、ジャンド、エスパーの2強環境とは言え十分な実力があることを証明している。

メタゲームチャレンジ7勝デッキ


4.イゼット天啓

みんなのトラウマことイゼット天啓。アルケミーでは合法的に使える《アールンドの天啓》を4枚採用する他、《マグマ・オパス》、《黄金架のドラゴン》についても4枚採用されており、肝心のコピースペルこと《感電の反復》については1枚に抑えられている。動き方としては《溶鉄の衝撃》や《ゼロ除算》で相手の序盤の脅威を退け、《黄金架のドラゴン》から《アールンドの天啓》や《マグマオパス》といった重量級のスペルにつなげるデッキのようだ。

正直このデッキについては、アルケミーラダーを何十戦としている筆者自身も見かけないデッキではあり、強さについては懐疑的である。ただ、大会においては入賞の実績を残しているため、侮れないデッキなのかもしれない。

5.ナヤクレリック

画像が出てないメイン4枚のカードはクソエンチャこと《舞台座一家のお祭り騒ぎ》である。アルケミー黎明期より存在するライフゲインを繰り返し《祝福されし者の声》や《月の踊り手、トレラッサーラ》をあっという間に破壊不能・飛行・警戒の恐ろしいクリーチャーへと育て上げるデッキ。
1マナクリーチャーが《月皇の古参兵》しかなく、2マナのクリーチャーを唱える度出てくるため、ゲインの下準備はあっという間にできてしまう。
横に十分に展開した後は《正義の戦乙女》や《宴の結節点、ジェトミア》により全体強化を行い、一斉に脅威となって襲い掛かってくる。いわゆる、点と面の両面で押すことのできるアグロデッキとなっている。

6.ラクドスサクリファイス

画像が出てないメイン2枚のカードはクリーチャーが死亡する度にクリーチャーをドラフトする《ザンダーの目覚め》になる。

《鬼流の金床》、《命取りの論争》によりクリーチャーを生け贄に捧げながら、さらなる追加のアドバンテージを得るためのエンチャントとなっている。トークンが死亡した際にも誘発できるのが強みと言えそうだ。
残りはアルケミー黎明期より活躍しているサクリファイスエンジンの《血塗られた刷毛》や《呪い縛りの魔女》を引き続き採用。

1点気になることと言えば《食肉鉤虐殺事件》のナーフによるゲイン能力の消失である。もとよりクリーチャーデッキに対しては、多く生み出される1/1トークンにより耐性が幾分あるとは言え、緑単のようなチャンプを許さないトランプルを多くもつクリーチャーを展開するデッキも残っているため、ゲイン能力の消失はそれなりの影響を及ぼすものと想定される。


以上、6種のデッキがCrokeyz Alchemy Baldurs Gate Tournament153名の参加者のうちトップ16に残ったデッキタイプとなる。

本大会の成績及び大会後にラダーを何十戦も経験している筆者個人の考えとしても、アルケミーのトップメタは本大会入賞者16名中合計11名を輩出したジャンドコンボとエスパーミッドレンジの2強と言える

最後に筆者自身の主観となるがトップメタ2強に対するそれぞれの相性について言及しつつ、今後の展望を見据えることとしたい。

エスパーミッドレンジがジャンドコンボを全く意識していなかった頃については明確にジャンドコンボの方が有利であると言える。メインの除去とも言える《消失の詩句》は《不吉な旅人》にはあたらず、そもそもミッドレンジという性質上、コンボ成立に十分な時間を与えてしまう。

ただ、エスパーミッドレンジ自身も《エメリアのアルコン》や《シルバークイルの口封じ》といったメタカードの採用により相性差を改善してきている。特に《運命の占者》によりクリーチャーカードを積極的に捨てていけば、数少なく採用しているメタカードでも引き当てられる可能性は高まる。

とは言えエスパーミッドレンジにおいても、非公開性で《エメリアのアルコン》や《シルバークイルの口封じ》を採用するリスクはそれなりにある。そこへ付け入るようにエスパー、ジャンド両者を睨んだ別デッキの台頭もありうるだろう。

大人気フォーマット()ゆえまだまだ開拓の余地は十分にある。本稿で少しでもアルケミーについて興味を持てたのであれば幸いであり、ぜひ予選ウィークエンドへ向け、プレイインからでもアルケミーの世界へと飛び込んでいただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?