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マラッカから持ち帰ったもの

旅行には3段階の楽しみがある。どこに行こうか、何をしようかと考える計画を立てているとき、当然ながら旅行そのもの、そして帰国後に思い出を味わうことだ。旅先で選んだ自分へのお土産は、楽しかった旅行の断片をいつでも蘇らせてくれる。

ニョニャウェア

マラッカ海峡周辺に移り住んだ中国を出自とした人々をプラナカンというらしい。彼らはマレー系女性と結婚するなど、地域のコミュニティに馴染みながらも、独自の文化を築いていたようだ。商売で成功をおさめた人が多く、プラナカンの文化はとても華やかだ。そのひとつにニョニャ・ウェアといわれる食器がある。ニョニャとは、プラナカン文化を持つ女性のことで、奥さんとかお母さんといった意味のよう。ニョニャ・ウェアは、ピンクやエメラルドグリーンやイエローなどのパステルカラーをベースとし、蝶や鳥、花などの中国文化において、縁起が良いとされる細やかな図柄が描かれている。中華系の図柄だけど、色味はパステルで優しく、マリーアントワネットのドレスみたいな雰囲気もある。ちなみに、青と白のシンプルな食器もあり、それも素敵だったが、亡くなった人用のものだとのこと。

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ヒーロン通りで

ニョニャ・ウェアはお土産屋さんでも売られているが、カラフルさも相まって、少し安っぽい印象を与える。昔のプラナカンの邸宅を改装した美術館に飾られている本物(?)のニョニャ・ウェアは、売り物ではないが、とても素敵だ。少しでも本物に近く、手の届く価格のものがあれば、是非持ち帰りたいと思っていた。強い午後の日差しに照らされたヒーロン通りで、ふと入ったお店の一番奥のガラスケースの中にそれを見つけた。店構えはお土産屋さんというよりは骨董屋のような風情。仏像や大きな家具が売られており、一見、そんなに買えるものは無さそうだった。最初は遠慮がちに入り口付近を覗いていたが、店主と思われるシャキッとしたおじさまが笑顔で非常に感じよく迎えてくれたので、ショップハウス特有のうなぎの寝床のような細長い店の奥へずんずんと進んで行った。ガラスケースの一番下に重ねられたお皿を見つけ、思わずしゃがみこんだ。淡い色合いがとても繊細に感じ、連れて帰りたいとすぐに思った。見ていた店主は、しゃがんでいては疲れるでしょう?とお皿をテーブルに並べて見せてくれた。お皿は1940年代に中国で作られた手描きのものだという。色はグリーン、ホワイト、ブルーの3色で蝶と花が描かれている。グリーンを2枚買うことに決め、どの組み合わせにするかを選ぶ。手描きだから完全に同じものはないよ、と言われ、目の前のお皿がさらに特別なもののように感じる。旅先のマラッカで出会った、同じものが二つとない、美しいお皿。自分へのお土産としては最高だ。色味が近いグリーンのお皿を2と、醤油入れに箸置きが付いているような食器を購入した。

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連れて帰ってきたニョニャウェアは、昔からそこにあったかのように、自宅の食器棚に並んでいる。それでも、この2枚の美しいお皿を取り出すと、強い日差しに照らされた気怠い午後を、いつも海に向かって吹いていた風を、そしてそこに確かに自分がいたことを蘇らせてくれるのだ。

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