【パンをもみ続けるおっちゃん】
ある日の午後、スーパーのパンコーナー
そのおじちゃんは手に持った袋入りパンをずっともみもみしている
連れのおばちゃんと立ち止まって何か話しながらもんでいる
そないもみ続けたらパンがくちゃくちゃになるやんかと心配してガン見する私にお構いなくパンをもむ手をやめない
袋入りのフォカッチャ
かわいそうなフォカッチャ
このままいくとおっちゃんの手の中で君はパン粉になってしまうのではないか?
君はパン粉になるためにそこに並んでいたのではないよな
イタリアから来たパンですっ!って胸を張って食卓にお出まししようとしてたんだよな
それがなぜ今、ちょっとあたまの薄いおっちゃんの手の中でもみもみされてるんや?
おっちゃん、ちょっと気持ちいいんやろな
なんか柔らかいしやめられなくなってんやろな
ていうか連れのおばちゃん、奥さんやん
一緒に買い物来てるんやん
何をそんなに立ち止まってしゃべることあるん?
家でしゃべれよ
パンもみながらしゃべるなよ
そう思いながら立ち止まる私の前でおっちゃんは思いもよらぬ行動に出た
突然、もみもみフォカッチャを棚に返そうとしたのだ
「おい、お~~~~~~いっ!!」
心の中で突っ込む私
それはないわ、おっちゃん
そないもんだパンを返すなんて
そこまでもんだんやったらおっちゃんとおばちゃんが責任もってそのフォカッチャ食べてあげなあかん
それにそんだけもみもみしたもん、他の人に買わせるんか?
おいしそうやなと思って手に取ったフォカッチャが、よう見たら袋の中でだいぶ崩れてて、もっとよう見たらなんかでこぼこになってんねんで
指の跡とかついてんねんで
いややろ?買わへんやろ?
ほんならそのフォカッチャ、もう誰にも買ってもらわれへんやん
気の毒なフォカッチャ
かわいそうなフォカッチャ
おっちゃんにそのフォカッチャの気持ちわかるんか~~~~っ!
私はすっかりフォカッチャの生みの親の気分になって心の中で叫んだいた
そう、心の声のはずなのに、きっとこの目が訴えていたに違いない
おっちゃんは私の顔をみて棚に戻したフォカッチャをそおっと自分の買い物かごに入れた
そうそう、それでよし!
もむなら買う
買わんならもむな~~!
変な標語を口走りながらすっかり安心した私は、自分のパンを買うのも忘れてパンコーナーを立ち去ったのでした
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