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HappyFirst公開インタビュー#1 女子プロサッカーL史上初四冠達成した石原孝尚監督の『準備力』は、想像以上に深かった。


2022年10月27日、初めての公開インタビューを行いました。
そもそもどうしてこのインタビューをしようと思ったかというと、
とあるお仕事で長野県から横浜に車で行こうとしていた時のこと…
13時の待ち合わせで、Googleで調べると、片道4時間の道のりだったで多く見積もって、午前8時にでれば余裕で間に合うだろうと思っていました。
ですが、石原監督は一言・・・

中央道が止まるかもしれないので、
下道で行ったとしても間に合う時間に出た方がいいと思いますよ。
できたら、前泊した方がいいですよ。

・・・台風の予報があるわけでもなかったので、驚きました。
きっと、これまでも監督として試合時間に遅れるわけにはいかなかったのだろうな、最悪の状況をどうするかをずっとずっと考えてきたのだろうと思いました。
そして、これまでどんな風に準備に取り組まれてきたかを聞かせてもらいたいとお願いしたところ、公開インタビューにしてみようということになったのです。

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◾️石原監督は「準備」と「本番」を分けて考えていない。

ーーーー今日は初めての公開インタビューなのでいろいろすみません。
まず、石原さんにとって「準備」とはなんでしょうか?

(石原孝尚監督:以下省略)
このテーマで話をもらってからずっと考えていて…
準備ってなんだろうなってこの数日考えていて・・・。
準備ってなんだろう(笑)
準備にまつわる話をすると、準備を概念的にとらえるということでなくて、なんか、要は、物事がいい形になるためにしておくことなんですけど…。
すごく思うのは、皆が準備って計画みたいに思っていて。
準備が計画になっていて。
その計画を本番で実行するっていう感覚なのかなって思うんですけど、
僕にとって準備って計画通りにやることではなくて、
本番で解放される感じががあるんですよ。
わかりますか?
なんか、計画をたててその通りに進むようにするって
するかもしれないんですけど…。
そうではなくて…。
なんて言ったらいいんだろう。。。


ーーーーー「準備」と「本番」があるとして、それで石原さんは、監督時代、一生懸命夜遅くまで準備したことを、次の日の本番で全部変えてしまうということがよくあった、と講演でもよく仰っていますよね。どういう基準で計画というか準備したことを変えようと思うのでしょうか?


仕事だったり会議だったり試合だったりっていう本番っていうものに対して、スムーズに行くように、いくつかシュミレーションするじゃないですか。あーなったら、こうなったらって。結構細かくするんですけど…。
例えば、選手が元気だったら、元気なかったら…
この練習はうまくいったらいかなかったら…
思ったより疲れたら、疲れなかったら…
天気がよかったら、悪かったら…
って、いろんなケースを想定して、こうなるな、あ~なるなっていうシュミレーションをいくつかします。そんな風に考えているので、一個に対して一個しか準備していないっていうことがまずないです。
こうなるかも、あ~なるかもの準備をけっこうしていて。
サッカーでなくてホストとしてゲストをお招きするときとかも、こうなんじゃないか、あーなんじゃないかっていう分裂するパターンを考えるんですね。皆に喜んでもらわないといけないから、この人があっちをリクエストしたらそれを叶えるし、この人がこっちをリクエストしたらそれも叶えるし、ってことをずっと考えているっていう感じなんですよ。
僕はよく、高梁までツアーに行くじゃないですか、その時も、このツアーだから皆さん合わせてください、はやらないんですよね。みんなの意見を聞いて、それを叶えるためには、をずっと考えています。
サッカーでも、ケガした選手をどうしたらよいか、スタッフの数をどうしたらよいか‥。こっちの練習にスタッフを呼ぶと、あっちのスタッフと選手がちょっと困るからとか…。この練習の時はトレーナーはリハビリの方に行っててもいいけど、この練習の時は戻ってきてほしいと言った場合は、トレーナーが戻った時の選手のメニューちゃんと考えておいてもらわないと、とか…。そういうことを全部、シュミレーションをしておくんですね。

ーーーーーわぁ・・・。それはすごいですよね。何パターンぐらいになるんでしょうか?選手のかずの分だけ必要なのでしょうか・・・


何パターンじゃないんです。
時間が許される分だけ、ずっとずっと、考えています。
なんなら、試合の最中も、会の最中も、ずっと考えています。
ホストの時は、会がはじまって、自分もゲストもお酒を飲んでも考えています。練習中も考えてるんですよね。ず~~っと、考えています。
だから、本番も準備中っていうか、次に起こることの準備中って感じかなって今思いました(笑)。
サッカーってそういうことなんですよね。
練習メニューが決まっているから、こなせばいいってわけでなくて。
「一個目の練習がうまくいかなかったら次どうしよう」ってず~っと思っているんで。
常に本番であり、準備であり、繰り返しているって感じが、僕の中の準備の概念かな~。


◾️「飽きないようにモチベーションを保つこと」が「勝ち続けるため」の準備

ーーーーーーーー石原さんはINAC神戸で、リーグ戦全34試合中30勝2分2敗という圧倒的な結果を出していますよね。時々、結果を出すことと出し続けることは違うよっていうことを仰っていますが、1回の試合で勝つのと、リーグ戦でずっと勝ち続けるためにすることは、やっぱり違いますか?

あ~、それでいうと、準備の意味みたいたところだと思うんですよ。
目的に近いのかもしれないんですけど…。
例えば、「お祭りをします」や「飲み会をします」って、なんかこう、一発じゃないですか(笑)。だから、パーティーなんで、エネルギーが一発で弾くように、あえてお祭り盛り上げちゃうっていう準備の仕方をします。そこで一番楽しいように、演出するというか。
だけど、飲み会が毎日続いたらさすがに楽しくないじゃないですか。別の例えだと、毎週ねぶた祭りに行けって言われたら行きたくないじゃないですか(笑)。リーグ戦っていうのは、それとおんなじで。
試合に勝つとか、毎日練習していくっていうところって飽きないような準備が必要になるっていうか…。会社でお仕事している人たちもそうですよね。おいしいもの食べさせてパーティーしてもモチベーションって続かないから、モチベーションが続くように準備をしていく。だから、飽きないようにするにはどうしたらいいかっていう準備になるんですね。
単発の仕事や試合はエネルギーを「ガッ」って入れて、仕事を継続的にしてもらうって時は、飽きずに関わり続けられるように皆さんの準備をするっていう感じです。
準備の考え方のところで言うと、サッカーって34試合であったから、どこにエネルギーをもっていくかっていうと、「毎日の練習に飽きないための準備」なんですね。あえて難しい課題設定をするとか…。
仕事も、当たり前の仕事を毎日させられちゃったら飽きちゃうじゃないですか(笑)。そう思うので僕は、チャレンジングな仕事をふるとか、あえてみんなで難しいことをやって達成した喜びを感じられるメニューとか、より難易度の高い戦い方に挑戦していくっていうことをします。
不思議なもので、選手たちは「相手に勝てばいい」っていうだけだと飽きちゃうですよ。勝っていたとしても、それでOKではなくて、そういう時ですら、さらに挑戦をしていこう、もう一個背伸びさせてっていうのがいるかもしれない。
・・・
みたいなことを考えていますね。
準備の意味、みたいなところで言うと…

ーーーーーーーーありがとうございます。石原さんの準備に対するあり方というかスタンスが少しわかった気がします。そこで、皆が聞きたいことが具体的にどう準備をするかっていうところだと思うんですね。いつから始めるか…?っていうような…

そうなんですよね(笑)
皆さんからの質問も事前に確認させてもらいました。
すると、みんな「いつから」、とか「どうやってっ」ていう話にすぐなっちゃうじゃないですか(笑)
でも、状況によって全部違うっていう前提をもつから準備だと思っているんですよね。こうやったらこうなるっていうのはたいして準備しなくてもいいと思うんですよね。

ーーーーーーなるほど~。確かにそうですね・・・。

想定外というか、想定していないような状況ですね、なんというか、
こう・・・カオスな状態を想定するから準備が必要で。
例年通りっていうのは計画通りだと思うんですよ。
僕にとってはそれは準備じゃないんですよね。

だからその、すごいなんていうかアーティスティックな話になっちゃうんですけど、いつからやりますかっていうのも、仕事の内容によって、いつからやりますかっていうのは絶対違うし、どんな風にやりますかも、子どもと遊ぶ時だったらそんなに気合いらないじゃないですか(笑)。
本当にゲストが来るみたいなときはすごい自分もナーバスになって準備しているし、その、ゲストが来てくれた時は笑顔だけど、裏ではめっちゃめっちゃシュミレーションしてるっていうか…。
だから、いつからどういう準備をするかって状況によっていつも違うんです。

う~ん・・・そうだな・・・。
僕が学生の時に「ツーロン国際トーナメント」っていう21歳以下の代表のスタッフをやった時にフランスに行くことになったんですね。でも、フランスってそれまで行ったことがなかったんです。何があるか、現地で何を売っているかわかんないわけですよ。その時の仕事はパソコンを使う仕事だったので、パソコンの部品が壊れたらアウトじゃないですか。壊れたら仕事にならない。だから、僕は全部2つ持っていったんですよ(笑)。壊れたとかっていう言い訳をしたくないから、全部2つ持ってて。何から何まで2つもっていて・・・。だって、壊れたからごめんなさいって、絶対言いたくないから。

ーーーーーーーーー言い訳をしたくないから・・・

そうなんです。サッカーの会場で行ったことのない会場で大会がある時は、ロッカールームは絶対に自分で行くか、グラウンドも自分で行くようにしています。特に、ロッカールームはマネージャーに100%行ってもらっていました。
広さはどうだとか、電源があるかとか、ないかとか、夏のゲームだったらエアコンってあるのかないのかとか、電話で確認できることはさせるんですけど、電話で確認できない時は現地まで行ってくれ、ってお願いします。
昔、一回見に行ってもらった時に、ロッカールームが暑くてエアコンがない、と報告を受けて。それで、扇風機あるか確認してもらうと「ない」というので…。購入もできないとのことだったので、こちらから持っていくしかないな、と、バスに扇風機を3つ4つ乗せていく、みたいな感じです(笑)
準備をいつからって言うとなんとも言えないんですけど、こんな風に考えて「後からこうしておけばよかった」がないようにする。そのためにはいっぱいあるんですけど、イメージ出来うるものは頑張ってやるっていうのが準備かなって。それも、学生の頃より今の方が色んな失敗もあるし、やれるようになったんですけど、そんなことをず~っと繰り返しています。
何をしても、「もっとこうしておけばよかった、こうしておけばよかった」なんだけど、「こうしておけばよかった」がないように。


◾️時間がなくて準備ができない時は・・・

ーーーーーーー皆さんからの質問で、『準備は大事だとわかっているけど、時間がなくて・・という人も多いと思います。準備にあたってのスケジューリングの仕方が気になります!私は本番と準備時間をセットで確保するようにしています。』という質問があるのですが・・・

この質問、すごく難しいんですけど、僕で言うと、時間の限りなんじゃないかなって思うんですよね。それは他の仕事もあるし、家族との時間もあるし、寝る時間もあるから。だけどその件に関してできるだけのことをするっていう…。
結局どれだけ準備してもず~っと、満足できないじゃないですか(笑)
常にもっと良くなるって思うんですよね。ワーカーホリックみたいになっちゃうんですけど(笑)っていうスタンスなんです。
だからどれぐらいの「要求」というか、「期待値」というかでやるのかなっていうことも大切な要素かなと…って…。ちょっと難しくなっちゃいましたね(笑)。

ーーーーーーーーーーーなるほど…。あらゆる状況を想定して、時間の限り準備するっていうか、シュミレーションしておくっていうことですね。

そうですね。シュミレーションをすることが準備なんだと思います。
質問に答えられていますかね?充分に時間がない時の準備をどうしますか?っていうことですよね。もしかするとね、だからね、どうするかな~。
だから・・・本番中も準備してるって感じかな。(笑)
本番中にも変えていけるものはどんどん変えていくっていう。
うん。気付いたら変えておくっていう。本番中に変えれるように準備しておくっていう。だから僕、講演とかだと、スライド余分に作ったりするんですよね。その場の雰囲気で変えれるように、この話しないかもしれないし、するかもしれないし…って。そして本番で変えたりとか。だから練習メニューも、そんな感じです。準備ができれば練習しやすいんだけど、できない時はこう、みたいに、融通がきくようにざっくり構える、みたいな。そういう感じにしたかなって思いました。

◾️「世界」で活躍するための準備とは…

ーーーーーーーーーーーなるほどです。そのシュミレーションの数が、石原さんはすごく多いんだと思いました。もう一つ質問なのですが…、世界基準の準備とは、何でしょう?

僕パッとこの「世界基準」って考えた時に2つあるなって思いました。
ひとつは競争の激しい世界基準、もう一つは、カルチャーのある世界基準っていうのを思って…。カルチャーで言うと、アメリカとか、時間にルーズな国の基準の準備って結構ルーズでいいじゃないですか(笑) 
他にも絶対に時間が遅れられないわけでもないし、じゃぁそろそろやろうかっていう国もあって。そういう時の準備はやっぱりルーズですよね。
でも、しっかり時間を守る文化でコーチをする時は、時間に遅れずスタートしたいって思っているんですよね。なんでかっていうとその選手たちも準備してそこにいるから、時間がずれてスタートすると困る選手もいるわけなんですね。だからなんていうか…、選手やスタッフたちのカルチャーによって許される範囲が変わるっていうことが世界では結構あります。
 

あと、各国の代表選手が集まるハイレベルな競争の世界というのがあって、そこは、めちゃくちゃみんながこだわってるんですね。なので、そこに応えていかないといけないんですね。INAC時代、ワールドカップ組の練習はコートが10cmとか20cm広すぎたりすると、未来が変わってくるんです。なんというか、練習しにくかったりしやすかったりが、たった10cm でも違うんです。ハイレベルな選手たちはその違いさえもわわかるんですね。でも子どもだったら、その10cmってわからないんです。だから、世界基準=ハイレベルと考えると、その準備ってやっぱり違うんですよね。
カルチャーの違いだと、他にも、結構ゆるしてくれている人たちと、ゆるしにくい文化の人たちがあるなって思っています。厳しくし過ぎると嫌がる国の選手たちもいるし、厳しく決まってないと不安になる国の選手もいるし…。う~ん。準備しすぎると違和感のある国もあるのでそこら辺を相手に合わせるという世界基準があるかな?
だから準備し過ぎることがいいというわけではないというか…。
準備してるんだけど、してるって思わせないっていうか。
準備してるっていう感じで練習すると、窮屈なんですよ、選手たちが。
だけど、僕は裏でめっちゃ準備とかシュミレーションしてるんだけど、選手たちには全然見せないって感じかな。

◾️相手に「準備している」と感じさせない「準備」を理想としている。

ーーーーーーーーーー次の質問です。石原さんと準備のイメージが結びつきません。石原さんの準備はいつから、何をゴールにして、どんなプロセスでどんな手段を使ってされるのでしょうか?という質問ですが…。
石原監督はとても寛容というかおおらかなので、細部にこだわらないイメージがあるというか、そういうことだと思いますが…

いつから何をっていうのは、その場の空気というかその人たちに合わせてってことですね。僕と準備のイメージが結びつかないってことなんですけど、要は、準備の目的の話になるんですけど、何のために準備をするかというと、関わる人たちがやりやすい方がいい、と思って僕は準備をしています。ってことは、サッカーで言うと、選手たちがストレスのない状態を作れることがいい準備なんですね。実はめちゃくちゃ準備されてるんだけど、それを感じさせないような…。
例えば、レストランで食事するときに、全然違和感なく座れて、違和感なく食事が開始できて、違和感ない光で、違和感なく帰って行けるっていうのが一番いい準備なんですよ。なんかこう、照明が強すぎたり、椅子がずれていたり、窮屈だったり、窮屈じゃなさすぎたり、席が遠くて話しづらかったり、隣が近くてうるさかったりとか、っていうのが気にならないっていうのが一番いいっていうか…。
準備してくれてるなっていうのがいいんじゃなくて、準備されていることに意識がいかない準備が僕の理想で、そういう準備がしたいって思っています(笑)。そういう感じです。
だから多分、僕の場合、今日とかも、何気なく皆さんが参加してくれていると思うんですけど、そんな風に『タカさんって準備してるのかな』って思われてるのが一番いい準備っていう感じですよね(笑)。


◾️いつも、「もっとこうできたのに」って思ってきていて、今もずっと思っている。

ーーーーーーーーーーーすごく深いです。もう少し、進めてみますね。
今までで価値観が大きく変わったと思う出来事があればどんなことですか?
過去を振り返って『やり直したい』、もしくはその時の自分に伝えたい出来事はどんなことですか?という質問がありますが‥‥

う~ん…。い~っぱいあるんじゃないですかねぇ。なんか、う~ん、毎試合そう思ってますよね。毎試合、勝っても負けてもやり直したいって思いますよね。あ~やっとけばよかったなぁって。INACでは日本代表選手が多かったので、そうした、さっきの話にもあった「世界基準」の選手たちとだと、後悔の連続でした。やっぱり、力不足もあったし、そういう毎日のところで、ちょっとずつジャブをいれられて変わってきたんだろうなって(笑)。これがあってスパーンと変わったっていうのは思い出せないですけど。日々挑戦してきました。今、話してて思ったのは、「ちゃんとやろうとしてたんだろうな~」って。ちょっとでも、ちょっとでもよくって思って準備をして挑戦をして、でも、「あ~…」「あ~…」ってなる(思ったようにいかない)っていうのを繰り返してきましたね。だからまぁ、その場その場で真剣にはやってきたのかなとは思います。


◾️「皆にとって一番いい方法」をいつもギリギリまで粘って考える。

ーーーーーーーーーー関連していいですか?石原さんはすごく引き出しが多いと思うんです。講演でも、この人に響いてないと思ったら即座にその場で内容も変えれるし、何より質疑応が終わらないぐらいに盛り上がりますよね(笑)。その質問に対する回答は全然用意してきてないはずなのに、なんならみんな立って拍手しちゃうぐらいまで盛り上がったりするじゃないですか。それってすごいなって思っていて、普段から準備っていうか勉強されていると思うんですけど、とはいえ、引き出しが少なかった時もあっただろうと思っていて。準備がたりなかったな~、とか、引き出しがたりないな~とかって、思われたことはありますか?その頃はどんなふうにされてたか、聞いても良いですか?

う~ん、そんな風に足りていない時から、これを繰り返してたってことだと思うんですね。昔は準備が足りなかったと思うし、補助学生の立場でサッカー協会の仕事を手伝わせてもらった時とかも、いっぱい怒られたし。
当然、資料の作り方も含め、事前準備も含め、色んな人に怒られながらっていう時期もあって、準備が足りなかったことの方がすごく多いんです。
さっきお話した、試合で毎回凹んでるっていうのは、『もっとこうやってできた』『もっとできた』って終わってからいつも思ってるし、今だと、人と人をつなげることが多いけど、『もっとこういう風にできたかな~』とか、そんな風に思うことはいっぱいあって。そういうことを繰り返していくしかないのかなぁって、今日、話していて思いましたね。
何か得策があるわけでなくて、常にその状況で相手のために出来ることを精一杯考える。先日、とある企業研修があったんですけど、会場設営がすごく気になってしまって。これじゃ絶対講師やりにくいなって思ったんですね。オンラインとのハイブリッドだったので「ここ座って下さい」って言われて、座ってみたんですけど、座ると会場の皆さんが見えないんですよね。コロナ対策を優先しすぎて、会場の皆さんは講師の顔が見えてないんです(笑)。そういうのはやりにくいなって思うので、伝えたのですが、「でもカメラこっちからセットされているから」と言われて、いてもたってもいられず、ぼく、「立っても見える位置にあれ変えますね」って、自分で変えさせてもらいました(笑) 僕の前に講演をされていた方が、残って聞いてくれてたんですけど、その方も「めっちゃやりにくかった」って言ってて、その方は僕の前後にお話をされたのですが、その方も僕の後、僕とおんなじふうにやっていました(笑)。
何を伝えたいかというと、その…、一個ずつ妥協しないっていうか、「この方が皆さんにとっていいんじゃないですか」っていうのは絶対ギリギリまで粘る。そんな感じでいつも、関わるみんなのために、何とかしようとしてきたっていう感じかもしれないです。

◾️仮にチケットが取れなかったとしても、諦めない。そこからできる準備がある。

ーーーーーーーーーーーもう一つ、石原さんの古いご友人の方からで、昔、ワールドカップにチケットがないのに行ったことがあったそうですが、チケットをとるっていうことは準備に入らないのでしょうか?という質問ですが…

ははは(笑)。2002年の日韓ワールドカップの時に、チケットも持たずに韓国に行っちゃう、みたいなことがあったんですよ。
チケットの手配で言うと…、女子のワールドカップが2023年ニュージーランド・オーストラリアであるんですけど、昨日チケットの販売があって、僕、12試合買ってるんですよ~。実は、東京オリンピックの時も、抽選で11試合当ててたんです、僕。あの時、誰も「チケットとれない」って言ってたんですけど、僕はテニスも、陸上とかも当ててて、なんなら予約、結構してるんですよね(笑)。そんな風にチケットを取るのは結構得意というか、何ですけど、そういう努力をした上で、取れないチケットってあるじゃないですか。
それで、普通、チケットとれなかったら、要するに、準備できなかったら乗り込まないじゃないですか(笑)
普通は、試合のチケットがとれなかったら行かないんですけど、僕はまだ試合当日までに準備ができるって思うからとりあえず行くっていう(笑)。
2002年6月7日にワールドカップ、イングランド対アルゼンチンの試合があって、僕、どうしても見たくて。チケットはなかったけど、もしかしたら札幌にいけばダフ屋に行って何とかなるかもしれないって思って(笑)。
準備を「今しよう」としてもできないことってたくさんあって。今回のカタールでのワールドカップも、チケット当てて、コスタリカ対日本を持ってるんですよ、実は(笑)。それはFIFAの公式ページで第3次で午後10時からあるって聞いて。10時から6時間かけてとったんですけど(笑)
そんな風に頑張っても、手に入らないものもあって。それでも何とかできるんじゃないかなって思ってるのかな、って今思いました(笑)


ーーーーーーーーー今日ずっとお話を聞いていて、ほんとそこかもしれないって思いました。石原さんの常に諦めない心がいつも本当にすごいなって思うんですよね。7月に、ロンドンに行かれてた時も、この試合を観ると決めたらいかなる手段をつかってでも観に行きますよね。簡単に諦めないので、空路がだめなら、何時間かけても陸路でも行こうとされていて…。そこはご自分のためでもあるけれど、相手を思ってそうされているなと感じることもありました。

確かに、今日、こうして話をしていて気づいたのですが、結構、急に変えることが多いから、皆さんからすると結構思い付きで動いているように思うんだろうな~、と(笑)。でも、これでも結構調べていて(笑)。飛行機がダメだったら電車がダメだったらとか、色んな状況のことを考えて調べていますね。
ロンドンの話で言うと、準決勝から決勝の間が3日間あって、最初はアムステルダムからヘルシンキ、フィンランド行こうと思ってたんですけど、飛行機のキャンセルのリスクがあって。キャンセルされたらユーロスタでアムステルダムから帰って来れるかな、とか色々調べていて、でもユーロスタが満席で、他の便がないかなって調べて調べて…。でもなかったとしたら帰ってこれない可能性があるから、アムステルダムは諦めようみたいなことはちゃんとやってました。じゃあ、その間、グラスゴーのセルティックまでは飛行機はあるっていうのも全部調べて、それで行っていました。
そういうことは皆さんには話さないので、何となく空いてるから「パッ」とスコットランドに行ってる!みたいに見えることがあると思うんですけど(笑)
あの時も、本当は、行きの飛行機一回捨ててるんですよね。セルティックの練習を見に行った時って。本当は飛行機持ってたんですけど、それだと間に合わなくなってしまうので…。それで、電車に切り替えて。で、電車でバーミンガムに移動して、っていうことをしていました。その時もいくつか選択肢をもってずーっと、ずーっと考えてるって感じです。


◾️僕にとっての「準備」は「計画通りにすること」ではなくて、本番でみんなが解放されるように整えておくイメージ。

ーーーーーーーーーーー常に、あらゆる状況に対応できるように考えているのは監督の時だけではないんですね。そろそろ時間なのですが、最後に、ここまでお話されて見て、準備について感じられていることをお話頂けますか?

実は今日も、ちゃんと答えられるようにたくさんメモ書きをしてきました。準備とはっていうことで、皆さん参加して下さっていて‥。
準備って僕なりに考えて来たんですけど、最初に言った通り、準備って一般的に計画通りすることになりがちだなって思っていて。
そうではなくて、「本番」って言われるものでみんなが解放されるように、動きやすいように、整えておく、みたいなイメージであるといいなって思っています。

◾️人とのご縁は調整しない。

あと僕、人とのご縁は調整しないようにしてるんですよ。だからあんまり早く人を誘わないっていう。飲み会とかご飯に誘う時って僕、「明日空いてる?」って感じでなんです。それって、あいてる人が集まった方が自然とタイミングが合ってる感じがして。
でも、みんな日程調整しようとするじゃないですか。
「この人に参加してほしい」みたいな。僕は僕が参加していてこの日程で合う人、みたいな感じで誘います。だから中にはその日来れない人がいっぱいいるんだけど、どっちかっていうとそういうスタンスでやってます。


◾️あえて余白を残す準備。思ってもないことが起こることを楽しむ。

あと、最近、「コミュニティってどうしたらうまくできるんですか?」ってよく聞かれるんですけど、「参加しやすくしない」っていうのをよく思っています。
よく、ハードルをどんどん下げて、参加しやすくしちゃうじゃないですか。そうすると、想いが低くてもそこにいちゃうんですね。簡単にこれちゃうんで。だからあえて、ハードルを高くする。時間的に不都合とか、場所的に不都合とか。それでも来てくれる人って場を作ろうとしてくれる積極的な人たちなんですよね。そうすると、めんどくさいから人数はそれほど増えないんだけど、本当に大切に想ってくれている人がそこに来てくれているっていうことがあって。
だからコミュニティの運営の立場から言うと「準備しすぎちゃダメ」って思っているんです。それは皆さんが乗り越えるべきものなので。
何かを主催するときに、準備をすると安心感はでるんですけどワクワクは減るっていうか…。もう想定して見えちゃう世界ってつまらないので。
なので、想定できないものを残しておいた方がいいなって思っています。
余白みたいなのをわざと残す。それは、思ってもないことが起こるっていう準備なのかなって。

想定内で終わらせるって楽しいんですけど、印象に残らない会になるっていうか、練習もそうで。だからその、余白をの残しておくっていうのがいいなって。

◾️準備をし過ぎないことで生まれる「ライブ感」がある。準備をし過ぎないことも大切。

あと、準備をしすぎると「やらない」を選んじゃうなって思うんですよ。みんなで考えすぎると「やらないと、やらないと」って「難しいよね、難しいよね」って。だから辞めよう~、みたいになるっていうか…。
だから準備せずに乗り込んだらなんとか行けたはずのものが、準備しすぎて調べすぎてやめようみたいな(笑)。
後、準備しすぎると、スケールが小さくなっちゃうな、とも思っています。だから準備はいいものだって思いすぎると、なんかその逆になってるケースが多くて。だから準備っていいことでもある一方で、スケールダウンしちゃうしなんかこう、やらないっていうのも選んでることも多いから。
結局、準備って大切なようでしない方がうまくいくこともあったりとか。
準備してないから臨場感もってみんなでその場でなんとかしようみたいな…。そう、準備が整ってない方が皆が集中しているみたいな…。
オシム監督っていうサッカーの監督がいるんですけど。普通練習って、練習前にコーチ陣と打ち合わせするんですね。でもオシム監督ってコーチングスタッフと一切打ち合わせせずにグラウンドに出てくるんですよ。だから一番集中しているのがコーチ陣なんですよ。何が起こるかわからないから。
そうなるとコーチ陣がいちばん緊張するから、集中してやんないと、
何が起こるかわかんないぞ、っていう空気が伝わってくるんですね。だからオシムさんの練習ってめっちゃいい空気になるんですけど。
だから準備して打ち合わせしていることばっかりがいいことじゃないなってて思っています。

ーーーーーーーーー石原さん、貴重なお話、ありがとうございました。石原さんは、すごく準備もしますけど、それと同時にうまくいかなかったときにごめんなさいという潔さをもっているなっていうのは常々感じます。それができるから余白を残せるのかなって思いました。
(・・・・この後も、もっとこうできたんじゃないかという会議は続きました(>_<) そのお話は、また、番外編でお届けさせて頂きます。😊)
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最後までお読みくださった皆様へ。
石原さんが監督時代に読んでいた本を見せてもらいました。
たくさんのメモがしてありました。
その中の、1ページです。
『 練習が本番。その準備がオレの全て!』

これはほんの1ページで、
後は、「仲間を幸せにする」そんな言葉に溢れていました。
またどこかでご紹介させて頂きますね。😊

石原さんにファンがたくさんいる理由。
いつも心ここにあらずな感じがする理由。
結果を残してきた理由。
そんなことが少し、紐解けたでしょうか?
カタールワールドカップに向けて準備を始めた石原さん。
今日もまた、「もっとこうできたんじゃないか」と思いながら
最善の準備を尽くされていることと思います。
初めての公開インタビュー企画でした。
今回のお話の中に、より皆さんの毎日を楽しむために、取り入れられそうなエッセンスがほんの少しでもあればこんな嬉しいことはありません。
公開インタビューにご参加頂いた皆さん、この記事を読んでくださった皆さん、いつも支えて下さっている皆さん、いつも本当にありがとうございます。
(聞き手:HappyFirst note係 ののやまなおみ)


Happy Firstはサッカー監督の石原孝尚さんが
主宰されているコミュニティです。
石原監督の考えには下記の著書などで触れられます!

▶︎石原孝尚著「足りなくてありがとう」

▶︎Happy First及び石原孝尚の公式HP