【マンガ】「マイ・ブロークン・マリコ」感想 亡き親友と無力な自分を救う物語

マイ・ブロークン・マリコ
平庫ワカ

Comic BRIDGE online (KADOKAWA)
2019年7月〜12月


CYNHNの綾瀬志希さんがTwitterに感想を上げていたので気になって読みました。
このマンガはSNSで話題となった初連載作品で、2022年秋に映画化されるとのことです。

あらすじを先に知っていたら、もしかしたら思い込みによって、内容を勝手に推測して読めなかったかもしれません。何も知らないままこの本を読んで良かったです。

その観点から綾瀬さんの感想を改めて読むと、読んだ人には自分の良かったポイントをわかるように、なおかつ事前情報を極力少なくするように、すごく言葉を選んだのだろうなと感心しました。



全体を通してとてもマンガ的な、破天荒でデフォルメされた表現です。そこに不用意に入っていてハッとさせられるリアルな言葉や表現がありました。

個人的には2つのセリフが気になりました。


記憶は綺麗なもの

主人公シイノが、親友マリコの死を知って思い返した記憶は、とても綺麗なものでした。中学生の頃に貰った手紙はとても可愛らしい思い出です。

しかしシイノがその後、非日常で不安定な状態となった時に深層心理から出てくる記憶は、思い出したくない、というより忘れたい記憶でした。
始めはその忘れたい記憶を思い出さないようにしますが、形のある思い出が失われたことを実感した時に出たのがこのセリフです。

こうしている間にもどんどんあのコの記憶が薄れてくんだよ
きれいなあのコしか思い出さなくなる......
マイ・ブロークン・マリコ " 3.リメンバー・ミー"


記憶という自分に都合が良くて曖昧なものは、このマンガの大事なポイントだと個人的に感じています。

"どうしようもなかったことだし思い出したくない"。日々悩んでそれでも忘れて生きていく、人間らしさだと思います。



距離感と援助

私が良かったと思うのは中盤以降に出てくる"釣り人の男"。

シイノが困っている時に、最低限の援助はするものの見返りは求めず、近づかず離れず、客観的な事実を伝える。
そしてこのセリフ。当たり前ですが本当にそうです。

風呂に入って
よく寝て
ちゃんとメシを食わないと
人間ろくなことを考えられなくなります
マイ・ブロークン・マリコ "4.フリーフォール"


シイノが見た深層心理から出てくる記憶は、非日常で不安定な状態だからでした。(あの心理状態だから気づけたことも確かにありましたが)


言葉でいくら心配して注意しても他人は変わらず、問題を解決してもその人の根本は変わらないので同じことを繰り返す。
下手に手助けをすると手助けした人が共依存になったり、同じような過ちを繰り返す人に対して怒りや絶望を感じて、"こんなにお世話してあげているのに"とマイナスの感情を持ってしまったりします。

だから本人以外にできることは、本人の意思を無理して変えようとせずに環境を変えるくらいしか無いと思います。

安心してゆっくりと眠れる環境を作って、寄り添って見守る。見守るうちに自分で改善方法に気づいて、自分の考えで変わるのをじっくり待つしかありません。
人間が生きようとする限り、時間をかければ自力でやりたいことを見つけて復活できると信じます。私と私の妻の場合はそうでした。"釣り人の男"は本当にシイノ自身のためになることをしてくれていると思います。映画化される時には、これ以外の余計な要素を入れないで欲しいなと思います。


マリコが救われる道はあったのか?
マリコがシイノに何を伝えたかったのかは読者にはわかりませんでした。(シイノはマリコによって救われたと思いたいです)  その上で、当時のシイノには多分マリコを救うことができなかったと私は思います。

巻末のオマケエピソードに不動産屋の賃貸物件を見ながら2人で話をする場面があります。
幸せな2人を望む読者にとって、一緒に暮らす未来はパラレルワールドの分岐点になるポイントで、その世界線を感じさせる、救いの日常だったように思います。巻末にあるのが、とても良かったです。


綾瀬志希さんの感想を見ると、性別や年代の違いからか共感ポイントが違いましたし、何より感受性がとても豊かなことを改めて感じました。

それでも直情的でマリコのことだけを考えてひたむきに進むシイノの姿や言葉には、感情を強く引っ張られるものがあります。一区切りついた時にシイノがマリコに"くつろいでよ"という言葉は不意打ちすぎて泣けました。
普段の自分では恐らく選ばないタイプの物語に思いましたが、良いマンガでした。


#マンガ  #感想 #マイ・ブロークン・マリコ

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