ガザの美容室・その他

 昨日は朝から『ガザの美容室』を観て、昼間に『ジョン・レノン 失われた週末』観た。以前、アマプラでジョン・レノンとオノ・ヨーコの別のドキュメンタリーを観たけど、同じ期間が描かれているはずなのにジョン・レノンの過ごし方が全然違う気がした。どっちが真相なんだろう。
 そのあと、「黒いミルク」というインスタレーション作品を観た。作品を間近で観れて没入感があった。自分がこの黒いミルクに覆われた不穏な世界で踊り続けているということを体感した。そんな世界で自分にできることはまず『ガザの美容室』の感想を書くことだと思うので、書く。ジョン・レノンほどの影響力はもちろん、言うまでもなく、ないけど、書く。

大坪美穂 黒いミルク-北極光・この世界の不屈の詩- 武蔵野市観光機構(むー観) 武蔵野市(吉祥寺・三鷹・武蔵境)の観光イベント情報 (musashino-kanko.com)

ガザの美容室



ガザの美容室 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
 
 ガザのまちなかにある、ロシア人女性が営む小さな美容室の一日が描かれていた。あと若い女性スタッフが一人。お客も全員女性。会話は最初、アラビア語でなされていたが、美容師の女性が娘に注意したりするときは、ロシア語だった。美容師はロシアで結婚してガザに移住してきたらしい。ガザで自分のまっとうすべき仕事があるからロシアには帰らないという。

 十数人の女性が美容室内に座っているなか、27歳花嫁準備中の女性と脱毛中の40代後半と思われる女性がそれぞれヘアメイクと脱毛をしていた。なぜ27歳と分かったかというと映画の途中で40代後半と思われる女性が突然、「あなた、いくつ?」と聞いていたからだ。27歳女性は少し驚いていた。この会話デジャブ・・・どこの国でもこんな話するのか?ちょっと面白かった。
 皆おしゃべりし放題だった。美容師にも容赦ないコメントをする。美容師もひるまない。みんな強い。
  
 場面が変わって美容院の2階で緑のシャツを着た若い女性スタッフが恋人と別れ話をしているシーンになった。電話をしながら、窓越しに恋人と顔を合わせている。電話しながら泣いていた気がする。室内では女性はヒジャブはかぶっていないので、ここで美容室の物語なだけに自然と髪に注目できた。最初、この緑の女性はそのロングヘアをおろしていた。電話の途中で髪をハーフアップにまとめ、その後、カメラの女性を撮る位置が変わるのだが、おろしたときとまとめたときの雰囲気が全然違った。ハーフアップにしたら、顔の輪郭がはっきりわかって明るくなり、何か意志を固めたように強く見えた。

 恋人はライオンのような大柄でひげもじゃな男性だった。電話の後、1階の美容室の女性たちが騒ぎ出すのだが、それは緑の女性の恋人が本物のライオンを連れて店の前で見張りをしていたからだ。この場面でガザのまちなかを少し見ることになるのだが、街を歩いている人は男性ばかりで、服装は一見、とくべつ防備などしていないのだが、全員、大型の銃を片手に歩いていた。これ、日常なの?と信じられなかったが本当なのだろう。

 のちにこの恋人について、美容院内の裏の部屋で、ロシア人女性が緑色の女性に「その男とは結婚できない。でもそれは愛が終わるのではなく緩やかな死のはじまりよ。彼と別れなさい」というようなことを言っていた。喧嘩はしただろうが、一番許しあえたひとと結婚はおろか、もう会わないと決心しなきゃいけないことは、その人といるときの自分、それはおそらく自分の好きな自分の大きな一部分が永遠に失われることであって、嫌だろう。連絡が取れるならその自分の一部分が消える可能性をなんとしてでもなくしたいだろう。戦時下だから待ち続けていても帰ってくる可能性は低く、緩やかに時間をかけてその女性の一部分が死ぬのを見ているのは、美容師のロシア人女性にとっても耐えられないことなのだろうか。だからもっと現実的になれということなのだろうか

 後半、外の銃撃が激しくなると、美容院内の女たちの物語も大きく転換する。
 噂話好きの女性が女が政治を担当したらどうなるかという話をし、美容院内の女性それぞれに大臣認定をした。スマホばっかり見ている若い女性は通信大臣、27歳の花嫁準備中の女性はロシア文学を読むから文化・教育大臣など。いつか実現されることを願う。
 
 停電が起こるのだが、その中で美容師はさらに、27歳女性のヘアセットやメイクに力を入れる。ランプをつけた薄明りの中、エアコンも効かないから、すごく汗をかいている。この場面はとても、なんというかきれいだった。どんな状況にあっても自分の仕事をまっとうする姿が美しかった。意地でもやってやるぞという根気を観た。メイクされる女性の方も、とてもきれいだった。この状況で結婚式を挙げるのか否かというところだが、ウエディングドレスを着ていた。

 そして、妊娠中の女性もいたのだが、なんとこの状況で陣痛が始まった。
さらに、外の銃撃が激しくなるにつれて、美容院という小社会も暴力的になっていく。脱毛の女性が急に大臣を任命した女性に飛びついて殴り合いの喧嘩になる。服を引き裂いたりする音も聞こえた。それで、大臣任命した女性の背中に傷があるのを仲良しの女性が発見する。今回の殴り合いでできた傷ではなく、どうやら夫のDVらしい。夫と仲がいいと言っていたのに、なぜうそをついていたのだろうか。

 やがて、緑色の女性の恋人が戦争で負傷し美容院内に運ばれてくる。緑色の女性が必死になって看病するが、美容院のドアを大きくノックする音が聞こえて、急に男性たちが入ってくるという。「ここには女性しかいないし、だからヒジャブで髪も隠してない」というのにもかかわらず入室し、ライオンのような恋人を強制的に連れていく。

 最後は、意識朦朧としたライオンのような恋人と本物のライオンがトラックの荷台に積まれるところで終わる。


 映画館で映画を観るの久しぶりだったが(去年11月の「アメリ」リバイバル上映ぶり)やはり違うな…何が違うかってやっぱり音の質の良さや大画面で観れるということだと思うけど、パソコンで見るとSNSみたいに見てしまうようなところがある(それはそれでマイペースに見れるからいいけど)。

 SNSで思い出したけど、SNSの個人投稿でディープなドラマチックな小説のような内容を読むと、いろいろ困難あったけどうまくいったという、最後はなんだかいい子ちゃん風に「成功物語!」「逆転物語!」という感じでまとめられているような気がして、え?そんなうまくまとまることってある?といぶかってしまう。リアルな話が一番ドラマなような気もするけれど、書く側も読む側も時間が限られているから、やっぱりわかりやすい終わりがないと「いいね!」という共感が得られないから?成功しなかった話を書いたところで「いいね!」はそんなにもらえないだろうし(というわけであまりSNS上のドラマを信じ込みたくないという個人的ポリシーがある)。

 
 
戦争が未だ続いているように、『ガザの美容室』は成功も何もなく終わった。ある人は自分の一部分の緩やかな死を迎え、ある人は子供を産み、ある人はヘアメイクを生きがいとし…、日常は静かに続いていく。
 


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