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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑥ AIにはわかるまい


かつて、 “にゃんとーく”というネコ語を翻訳するアプリが話題になった。ちょっと面白そうだなあ、と思ったけれども、人様のネコがしゃべっている様子を見ると、{パパ..スキ}「ママ….どこ?」など訳される言葉が単純でボキャブラリーが少ないし、それぐらいは翻訳アプリを使わなくても飼い主ならわかろうというものだ。しいちゃんも「ごはん!」「おかわり!」など言葉というより単なる注意喚起として声をだすこともあるけれど、飼い主の私が聞くと「ルチアがぼくのごはんをたべちゃったから、ぼくおなかすいちゃうよ。ねえ、まゆり、ぼくにチュールビーをちょうだい」などのやけに理屈っぽいことを言っている時があって、逐語訳はできないけれど何となくわかる。ネコ語一般に対する普遍的理解ではないだけだ。

ルチアはうちでの生活に慣れてくるとお転婆そのものだった。まだ背の届かないキャットタワーの頂上に飛びついて懸垂で登り切り、雄叫びを上げる。ご飯の時は自分がもらえるまでミャーミャーわめきながらリビングを行進して黙らない。貴族のようにおっとりして争うことを知らない雑種の王子様しいちゃんに対し、血統証付きのはずのお嬢ルチアはとんでもないじゃじゃ馬娘だった。
私はルチアが来てからおもちゃは必ず二つずつ買ってくるようにしていた。「今日はお土産があるよ」というと愛され体質のしいちゃんはすぐに理解して「お土産、どれ?ぼくのお土産コレ?」などと買い物の袋を覗いたりして反応が大変素直で可愛らしい。ルチアはその様子をじっと見ている。ルチアにもお土産あるよ、という私の言葉には耳も貸さず、新しいおもちゃで遊んでいるしいちゃんを横目で見ながら、しいちゃんはイイナ、しいちゃんはイイナ、と思っている。しいちゃんが遊び飽きておもちゃをはなすとすかさず奪取する。
上がらないでと言ってもテーブルに飛び上がるし、洗面台に飛び乗って横から水をがぶ飲みする。こぼすばかりで対して飲めていないので、お水のお皿から飲んでほしいのだが、お水を飲みたいときには必ず洗面台に甲高い声で私を呼んだ。私はルチアのことも大事に思っていることを伝えたかったので、呼ばれると必ず洗面台でお水を飲ませてあげていたのだが、夏が近づいて夜明けが早くなると、ルチアは4時ごろから「オミズ―オミズ―」と騒ぐようになった。私はいったん起きてルチアにお水を上げまた寝なおすのだが、毎日これでは体がもたない。ルチアが騒ぐ声は夫にも不評だった。何とかしなければルチアが夫に嫌われてしまう…。
私は何人かの友人に対策を相談したが、答えは2通りだった。1.我慢してルチアの成長を待つ。2.罰を与えてわからせる。私は、暴力で動物を教育するのは嫌だった。ルチアが無茶な時間に騒ぐのは、こちらの愛情をためしているのだ。仮に体罰を与えてルチアの行動を制限できたとしても、きっと心のひねくれた子になってしまう。
今年1年は辛抱するか…と思いながら私はしいちゃんと二人の時ににかなり具体的に窮状を声に出して愚痴った。しいちゃんはそれまで、喧嘩はしないまでもルチアのお転婆ぶりをちょっと引き気味にみていた。
「しいちゃん、ルチアがお転婆でしいちゃんにも迷惑かけてごめんね。私もルチアが毎朝起こすから、寝不足で疲れてきちゃったよ…どうしたらいいんだろうね…」しいちゃんは黙って聞いていた。

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