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パトカーで事故を起こすと…

元警察官で、数回の転職を得て、現在はバス運転手をしている傍ら、講演講師として活動をしている者が、思ったことを書くつぶやきです。
私個人の見解であることをご理解の上、読んでいただけると幸いです。

先日、福岡県で覆面パトカーを装った乗用車による事故がありました。
覆面パトカー装い「交差点に入ります」 事故で4人けが 危険運転疑いで20代男2人逮捕 - 産経ニュース (sankei.com)

この事故を通じて「緊急自動車」とは何か、
緊急自動車で事故をするとどうなるのか、
今回の事故はどうなるのか、
等の視点で見ていきたいと思います。


法令による「緊急自動車」の定義

道路交通法第39条で、緊急自動車を「消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のものをいう。」と定義しています。
詳しくは道路交通法施行令13条1項で、12項目に定めています。
そのうち消防は13条1項の
1消防機関その他の者が消防のための出動に使用する消防用自動車のうち、消防のために必要な特別の構造又は装置を有するもの
で、警察は、
1の7警察用自動車(警察庁又は都道府県警察において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、犯罪の捜査、交通の取締りその他の警察の責務の遂行のため使用するもの
で定めています。
言い方が難しいですが、法律はこんな感じです。
他にも自衛隊や医療機関、電気・ガスや道路管理等について定義されています。

緊急自動車の装備

道路交通法施行令14条において、
道路交通法施行令13条1項に規定する緊急自動車は、緊急の用務のため運転するときは、道路運送車両法第3章(自衛隊用自動車については自衛隊法114条2項の規定による防衛大臣の定め)及びこれに基づく命令の規定により設けられるサイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない。
と定めており、赤色の警光灯(赤色灯)を付けることになっています

緊急自動車の走行

緊急走行の際は、道路交通法第39条に
  追越しをするためその他やむを得ない必要があるときは、第17条第四項の規定にかかわらず、道路の右側部分にその全部又は一部をはみ出して通行することができる。
  法令の規定により停止しなければならない場合においても、停止することを要しない。この場合においては、他の交通に注意して徐行しなければならない。

とあり、(渋滞している場合など)状況に応じて道路の右側にはみ出して走行(逆走)ができる。
交通信号機の信号ほか法令の規定により停止すべき、進行妨害となる場合、横断等のため歩道等に進入する直前、停留中の路面電車後方、踏切の直前、横断歩道等の直前、横断歩道等付近に停止中の車両の側方通過時、一時停止の標識、交差点等進入禁止など、の場合も停止しないことができるが、その場合は他の交通に注意して徐行しなければならない。乗員はシートベルトの着用義務も免除される。

緊急自動車の特例は?

道路交通法第41条により、13項目の特例が定められています。
詳しくはネット等で探してみて下さい。
数が多いのと、免許取得の時の試験問題みたいになってしまうので。
ニュース等で話題になっている、パトカー等が赤信号や一時停止等の交差点に進入する際は、赤信号や一時停止の標識の前で停止を免れるが、徐行して安全確認を行う義務 があるなど、緊急走行は交通規則の適用から除外されず、緊急自動車運転者は高度な安全運転を義務づけられていると解釈されています。

実務的にはどうなのか?

私が在職中に受けた訓練や言われていたことは、
交差点等では原則は一時停止をし、安全を確認してから交差点等に進入をする
ただし、追跡中は細心の注意を払い、徐行に近い速度で交差点に入り、交差点内の安全を確認しながら行く
と教わり、危険な状態な時は、無理な追跡をしないで、ナンバー等を控え、事後捜査に移行する、と教わりました。この辺は多少自治体によって違いがあるかも知れませんが、私が働いていた県では、この様な指導を受けていました。
パトカーの緊急走行については、各警察の中で訓練を受け、資格を得たものだけがすることができます。
さらにその中から推薦を受けた者が、茨城県にある「自動車安全センター」(通称:中研、ちゅうけん)と言う、国土交通省が所管する施設で訓練を受けることになります。
私もこの施設で訓練を受けたことがありました。

緊急自動車で事故をするとどうなるのか?

報道等でパトカーや救急車等が交差点を赤信号で進入し事故を起こした、
パトカー等の信号は赤だった、原因を調査中や緊急走行は適正だった等をみたことがあるかも知れません。
緊急自動車が事故を起こしてしまった場合、通常の事故と同じ処理をすることになります、当然ですが…。
事故処理の他に、緊急走行の必要性等も併せて捜査をしていきます。
事故処理にあたっては、どの事故でも言えるのは「道路交通法」が基本になります。
緊急走行中の事故とは言え、赤信号で進入した場合、緊急走行をしていた運転手が悪い方として、捜査をしていきます。
緊急走行をしている正当な理由があるとは言え、赤信号で入ってくる方が悪いって解釈するのが、道路交通法であります。
他にも緊急走行の必要性や妥当性等も捜査していきます。
事故捜査が終わったら、事故は検事に通常の事件と送られ(書類送検ってやつです)、場合によっては検事から直接取調べを受け、起訴されれば被告人となり通常の裁判となり、有罪となれば刑罰を受けることになります。

今回の事故は…

偽物の覆面パトカーに乗っていた2人は、自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の危険運転致傷罪で逮捕されています。
おそらく法2条の危険運転致死傷罪の「信号殊更(ことさら)無視運転」の適用が予想され、刑罰は致傷(怪我だけなので)15年以下の懲役の刑罰になると思います。
また覆面パトカーを無断で改造し、走行していたので道路交通法等の法律も適用されるかと思います。

余談ですが…

緊急自動車として使えるためには…

緊急自動車として使用する場合には、道路交通法に基づき、公安委員会(警察署)に届出をしなければなりません。公安委員会から緊急自動車として指定されると、緊急自動車指定証が交付され、車検証と同じように備え付けられることが義務付けられています。
私は警察官として在職中、某署で刑事として働いていた経験があります。その時に配備されていた覆面パトカーが新車になることがあり、交通課からの指示で、公安委員会に申請をしたことがありました。
申請書の他に、赤色灯と付けた状態で前後と左右両側の写真を撮影し、申請書に添付しました。
当時は先輩刑事と記念写真として覆面パトカーと写真を撮ったんですが、昔の事なので、その写真は残念ながら私の手元にはありません。

緊急自動車の運転訓練は…

先に述べました、茨城県にある「自動車安全センター」と言う所で、訓練を受けたことがあります。
自動車安全センターのHPには、緊急自動車の訓練内容が掲載されおり、誰でも申し込めるようになっていますが、実際は各警察からしか申し込みを受け付けていません。
訓練内容は、自動車の基本的構造から運転の確認、模擬事故の体験や緊急走行等、さらには運転の心理学等を学びます。初級コースは3泊4日、上級コースは10日間の訓練を受けることになります。
私は初級コースを受け、北は北海道から南は九州まで各地の警察から選ばれた人と一緒に訓練を受けました。訓練が終わった後の夕食時には、一緒に食事を食べ、お互いの県の状況等を情報交換し、他の県の警察官と交流できた貴重な機会になりました。
この施設は周りに何もない所にあり、車で行かないと外食や居酒屋等もないので、夕食に限り食堂でお酒も飲むことができる施設であります。

今回の事故のニュースをみて

事故時の動画が出てきましたが、被害者が警察に通報し、「パトカーとぶつかった」と言ったところ、警察が「パトカー?パトカー?」と言っていました。なんでこんなことを言うんだろうと思う方がいたかもしれません。
詳細なことは言えませんが、警察本部の通信指令室では110番通報の受理や警察署・パトカー等へ無線で指令を出すところであります。
通信指令室では、パトカーの位置や動き等が分かる仕組みになっています。通常走行・事件事故対応中・緊急走行中等全てわかる仕組みになっています。
今回の事故では、通報の場所付近で動いているパトカー等がいないことが分かっている中で、ありもしないパトカー(偽物)が事故を起こしたので、110番通報を受理した警察官も「パトカー?パトカー?」という事になってしまうんです。

パトカーではありませんが、交通事故は起きて欲しくないですし、仕事中の交通事故であれば、通勤労災等も考えられ、安全管理にもつながります。
私をはじめ、私が所属している「日本刑事技術協会」では、安全大会の講演ができる講師が多数在籍し、警察官在職中のエピソードや事件事故からみる安全管理等について講演をしています。

7月からは安全週間となり、安全大会を実施しなければならないと思います。
安全大会を考えている担当者の方、ぜひ元警察官による安全大会の講演はいかがでしょうか? ご連絡、お待ちしています!!

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河野博紀 自己紹介
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