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うんにゃとじゃっど

父は言った

ここは◯に十の字の薩摩藩じゃけん

都会に出て行く時に  

ふたつの言葉を持って行け


うんにゃは 相手が間違っている時

大きな声で うんにゃと言え


じゃっどは 敵が正しくて あっぱれな時に

嬉しい声で じゃっどと言え


わかったな


せんだんの木


父は言った

お前が正しい 正しいことを つらぬけ


中学校の校庭に せんだんの木があった

朝礼の前に みんなでぶら下がって 遊んだ

太っている子が ひょいひょいと 枝を飛び移り

お前もやれと わらった

僕が飛び上がり ぶら下がると

ぽきっと 木が 折れた

もうすぐ朝礼が始まる

急いで水路の砂を手にとり

白い幹に塗って 隠した

ほっとしていると

夏の陽ざしが ぎらぎらと照りつけて

風を誘い 砂が吹き飛んで

真っ白い幹が むき出しになった

隠しておいた 折れた枝を持って

風紀委員の先生が

誰が折った 出て来いと叫んだ

手を上げて 僕は言った

折れた時 ぶら下がったのは 俺です

でも もっと太い子がぶら下がって

すでにおれていた枝に

俺はぶら下がっただけです


校長室


折れた枝で 頭をなぐって

校長室へ 行って来い

風紀委員の荒武先生は言った


校長先生 折ったのは 私ではありません

折れていた枝に ぶら下がっただけです


そうか 信じよう 正しい事を言うことは

とても大切だ

でも 泥を塗って隠したのは どうかな


校長先生は 父だった


逆さ時計


あったらいいな

逆さ時計 昔へ戻れ

止まれと言ったら止まる時計

五つで止まれ

お下げの髪 愛ちゃんの三つ編み

ほどいて 可愛いままの

愛ちゃんと ずっと暮らそう

ずっと愛して



初恋


中学一年の春

恋をした

新任の清野先生 二十才

好きなのに 好きなのに

押しピンを 椅子に 置いたり

かえるをプレゼントしたり

レンゲのブーケを あげようと

摘んでると 蜂にさされた 痛いよ

ある日 飛松先生になった

石を蹴った 爪が黒くなった


ぬいぐるみ


つれて行って下さい 宇宙飛行士さん

うさぎのぬいぐるみ

きれいに 洗って あるから

眠れずに ほおずり 何度も泣いたから

母が 星になったから

近くまで 連れて行って

月の丘から 呼んであげて お母さん


うさぎのお目目は

赤いから

いくら泣いても 気づかれないね

うさぎの耳は 大きいから

遠い星から 月丘に届くよ

月丘から わたしに 届けて・・・



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