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かあちゃん


肩に止まって

母の白髪を抜いた

一本抜いたら 一円だった

十本で 百円だった

それから先は 悲しくて

おまけした

かあちゃん かあさん おふくろ

呼び名は 変わるけど

もう今は 呼ぶこともない


氷のなみだ


恋のままで 愛のままで

凍てついた 季節

誰も 泣かない

悲しむ人も ない

風穴は ほほえみ 春を誘|《いざな》う

すべて すべて すべて

氷の中に 閉じ込めて


氷とウィスキー


わたし 色白なので

俺 火灼けしてるので

いいですか ご一緒に

氷とウィスキー

わたし ソフトに  俺 ハードで

ハイボールと ダブルのロックで

見つめ合う

氷とウィスキー


ファーストストライク


どまん中に  投げた

ファーストストライク

力一杯 脇目もふらず

見事に 打ち返された

もう一度 投げた どまん中に

あっさりと 遠くへ 運ばれた

ゆるい球を覚え 逃げる球を覚え

のけぞらせる悪術を 磨いて

生き延びて 年老いた

もう一度 どまん中に 投げてみよう

ラスト スローボール


車窓


いやされる 車窓の風景

横浜線 長津田から 八王子へ向かう

車窓に映る

美しい街 八王子みなみ野

日本文化大学の 瀟酒|《しょうしゃ》な建物

電車のドアが 開く

さわやかな春風が

つれてくる 水玉のワンピース

住んでみたい この街に


水玉のワンピース


美しい みずいろの空を

いくつも いくつも 浮かべ

風につれられて

もしかして 風を誘って 乗ってくるのかも

声をかけては いけない

拳ひとつ分

そっと 席を空ける

おもいやりの 美学



堕天使の恋


ルシフェル

うぶで可愛い あの頃

知っているでしょう

お金持ちの娘だった 少女の頃

知っているでしょう

今は 貧しい わたし だけど

ルシフェル

どうして神に逆らい 降臨したの

わたしが 心配だから

ずっとずっと 詫びていたの

羽根を 脱いだから


ルシフェル


あかときの 泣き砂浜を

ルシフェル

あなたが歩く まさぐりながら

キュッキュッと 砂が哭く

わたしは 見える

あなたから わたしは 見えない

もう 天使じゃない

羽根を 脱いだから




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