身体的変化、精神的変化

FtMのシンヤ。ホルモン注射の回数を重ねていくと、日に日に変化しているのがそばにいても感じ取れる。

声が注射を打つたびに低くなっていく。喉仏が目立つ。肩幅が広くなり、後ろ姿の背中の広さで男だと感じる。体毛も濃くなっていく。そのせいか体のあちこちが痒いらしい。
顔のニキビは出来にくい薬剤を医師が選んでくれたからなのか、気にして洗顔などケアしているからか、少ない。その代わり、背中やデコルテ(胸)にニキビがたくさん。
夜、お風呂に入る時間が遅い時に、鈍感なパパにも「髪の毛油っぽくなったな。ベトベトだな」と指摘されるように。

精神的な変化は?
サードオピニオンは初めて診るため心配していた。不安定になった時を考えてセカンドオピニオンに診ててもらおうと言われていた。
しかしセカンドオピニオンはGID認定医で数多くのホルモン剤治療の過程を診ている。

セカンドオピニオンが言うには、MtF(男性の体で生まれて女性ホルモンを打つ)の場合はメンタルが不安定になる人もいるが、FtM(女性の体で生まれて男性ホルモンを打つ)の場合は滅多に何も起こらない、といった内容の説明をしていた。
むしろ本来の自分にやっと戻れたような気持ちで自信に満ちてヤル気が出たりする人が多いのだとか。

で、シンヤはと言うと、セカンドオピニオンの言う通りだった。
注射が始まったばかりの時に生理が1回来たが、それ以降はほんの少し経血があったぐらいでもう止まってしまつた。それもまた、「体は女性」と突きつけられるので気分が落ち込んでしまうし、痛みの辛さと痛すぎて吐き気も出るので学校に行けないなど行動が制限されるのと辛い症状でさらにブルーになっていた。それが無くなったのだ。

また男性ホルモンにもヤル気がみなぎるような作用もあるようだ。中高生の男子が部活やバイト、休み時間もバスケやサッカーしたりと元気なのも納得した。

シンヤは15歳の誕生日を迎えた中学3年生、勉強のヤル気が全然なかった。学校生活、それどころではなかった。学校に行く事すら大変だった時期もあった。悩み苦しんで夜になると色々考えてしまい、眠れずに学校に行き、結果授業中ずっと寝ているという事もたくさんあった。生理痛のため、強い痛み止めを使っていて爆睡もしていた。

そんなシンヤがやっと受験勉強をするようになったのだ(信じられない)。
あまりにもどこの高校にも行ける気がしなかったので塾に通わせる事にしたのもあるが、塾のない休日もカフェなどで朝から昼まで、昼に1度帰宅して昼食後から夜まで、勉強するようになった(本当に信じられない)。

私服を着てもシルエットが女っぽい、喋ると声が高くて女じゃんと言われてしまう、トイレに行きたくなると男か女か多目的か、どこに入ったらいいのか考えてしまう。という、日常生活でいつもいつも悩んでいたのが取っ払えた感じだ。そうなると悩みを考えていて忙しかった頭は本来の学校の勉強にやっと使えるようになった。

中3の夏からどれだけ挽回できるかわからないが、せっかく出たヤル気には付き合おうじゃないか。

心配していたサードオピニオンも、本当にブルーになったり不安定になったりしないどころかこんなに明るく元気になるのかと思ってくれたかもしれない。
セカンドオピニオンが、リュープリンが打てなくても男性ホルモンは15歳から打たせてあげたい、なんとかします!と言ってくれていたのはこうなるのがわかっていたからなのだろう。

後日談だがシンヤに当時の精神面の揺らぎがあったか聞けるチャンスがあったので追記しておく。

実際には打ち始めは精神的にかなり不安定であったのは事実あったのだと言う。しかし、それを上回る身体的変化があった喜びで、何とかやり過ごせたような状態だったそうだ。

声が低くなる前は男友達と仲良くしているだけのつもりが、その相手の男の子を好きな女子からライバル視されるような事もあったらしい。
それが声変わりすると「男だと言ってはいても結局女子なんでしょ」と思われていた部分が払拭されたのかもしれない、まったくライバル視されなくなったので普通の男友達として話していても女子に睨まれたりしなくなったと言う。

体育の時間はどうしても体力的、筋力的に不利なため、周りに追いつけない事ばかりで悔しかったらしい。
それが筋トレしていなくても筋肉が付いてきてチーム戦などでも周りに追いつけるようになり、チームの足でまといにならずに済むようになったので肩身の狭い体育の時間はなくなった。
卒業直前は授業もすべて終わっており、レクレーションや体育の時間は好きな運動を色々やらせてもらっていたそうだが、その時間がとても楽しくて「学校が楽しくて仕方ない」という言葉が出たのは卒業間近なこの頃になってからだった。

もちろん、受験が終わった開放感から本人も友達もストレスがなくなりギスギスした空気もなくなって穏やかに過ごせたのは大きいと思う。

辛かった中学生活も終わり良ければすべて良し。「卒業したくないよ〜」「もう1回中学やり直したい」

いや、もういいだろう。(ツッコミ)
次行こう、次!

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