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されど、Je t’aime moi non plus

セルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)は、いろんな意味で人から勘違いされやすい体質を持っているアーティストだ。シャイなところを隠そうと強がりで、わざと悪態をついたり、奇をてらった行動をしたりする。
そういう意味で、彼の代表作とも言える "Je t'aime moi non plus" も誤解されやすい作品の一つだ。
ここで一つ、セルジュを弁護するために書いてみたい。

B.B.のために書いた

セルジュは、1966年にブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)から、「想像できる限りの一番美しい愛のシャンソンを作って。」と言われた。愛しのB.B.(ブリジット)のためなら、直ぐに書かねばならない。
それで、彼は、Je t'aime... moi non plus と Bonnie and Clyde の2曲を一晩で創作した。
Je t'aime... moi non plus は、伴奏をロンドンで、歌はパリでそれぞれ録音され、直ぐにラジオ(Europe1)でかけられたのだが、セックス中の会話を描いたようなその歌詞にブリジットの旦那さんが激怒し、裁判所に差し止めの訴訟を起こした。それで、ラジオ放送はその1回限りとなり、レコードもリリースされなかった。「ドイツ人(ブリジットの旦那さん)は、洒落がわからないから。」と悪口を言う人もいるが、B.B.の夫がたとえフランス人だったとしても、セックスを示唆するような歌詞を浮気相手と思しき男性と
デュエットされたもんじゃぁ、誰だって訴訟を起こすだろう。

セルジュのリベンジ

ただ、名作を反故にされたセルジュの方は、収まりがつかない。
ブリジットと別れた後で映画で出逢ったジェーン・バーキン(Jane Birkin)にお願いして、まったく同じ歌詞と曲で1969年に今度はリリースまで漕ぎつけた。
ジェーンは最初の夫と別れたばかりだったので、夫の拒否という障壁は存在しなかった。これがフランス人の女優、例えばカトリーヌ・ドヌーヴだったら、ブリジット・バルドーの後釜みたいな扱いにプライドが許さなかったことだろう。
このレコーディングで特筆すべきは、セルジュが録音に際して音程を1オクターブ上げたことだ。高音が魅力のジェーンに合わせたのかもしれないが、案外、別れたブリジットに対する宛て付けかもしれない。「お前に合わせて低いキーにしていたけど、本当はこうした高いキーの歌だったんだぞ。」と言いたかったのかもしれない。
ともかく、1オクターブ上げたことにより、若い女と男がセックスしている最中のようなエロティックな印象をより強くリスナーに与えることができ、頽廃さが増して、一部の国での放送禁止処分に繋がったのは確かだ。

ジェーンが承諾した理由

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