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松本隆の別れ歌、聴き比べ

どうも怪しい、彼には私以外に誰かいるらしい?
そんな時、女はどうするのか?
松本隆は、詞を書く相手(歌手)によって、見事にその展開をファイン・チューニングしている。この稿では、3つの歌を聴き比べて、彼の作詞の妙を感じてみようと思う。

九月の雨 太田裕美

さっきの電話であなたの肩の 
近くで笑った女(ひと)は誰なの?

彼氏に電話してみたら、女の笑い声が聞こえた。それで、別の人とつきあっていることがわかってしまう。でも、彼のことは好きで簡単には諦められない。だから、思わずタクシーを拾う。

くちびる噛みしめタクシーの中で
あなたの住所をポツリと告げた

彼の家に行こうとするのだ。でも、車窓から9月の雨に濡れた渋谷の街を眺めていると、愛の辛さ、悲しさだけが募るだけで、彼に会ってこの恋を決着させる気力が薄れてしまう。
だから、ラストで、こんな歌詞になる。

愛が昨日を消して行くなら
私明日に歩いてくだけ

「木綿のハンカチーフ」でもそうだったが、松本隆の太田裕美に対するイメージは、どちらかというと受身(うけみ)的だ。自分から離れていく恋人を思って涙する。
都会から帰って来ない彼に対し、ハンカチーフでその涙をぬぐう。別の女性と恋愛してしまう彼。悲しく辛い想いから溢れ出る涙を、9月の雨が流してくれる。
そんな可憐な女性像を太田裕美に求めたわけだ。


リップスティック 桜田淳子

この歌も、彼氏に電話したら女が… という発端は同じだが、主人公の女性は少し意地を見せる展開だ。桜田淳子の頑張り屋のイメージに相応しい歌詞となっている。

おせっかいな噂聞いた三日前
「つきあっている女が他にいるよ」って
昨日電話した時さえぎる声
あなたはいないと 冷たい返事に
私 青めました Ah

直接女が電話口に出て来るという最悪の展開。
こちらの歌では、ヒロインは山手線に乗る。外はやはり雨が降っている。

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