令和6年予備試験憲法 再現答案

1.答案

第一 (1)
A集落のA町内会は同集落の住民が自治的に組織した任意団体であるところ、地方自治法260の2(以下「地自法」)の「認可地縁団体」にあたり、町内会費として一世帯当たり年額8000円を徴収している。そのうちC神社祭事挙行費として年額約1000円を徴収しているが、これは許されるか。
1まず、同挙行費が「公金その他公の財産」(憲法89条)に該当し、これを「宗教上の組織」に「支出」ないし「利用に供」させて、憲法89条に違反していないか問題となる。
(1)A町内会は地自法260の2による「認可を受けた」団体に該当し、同条6項によれば「当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものとして解釈してはならない」と規定されているので、A町内会は公共団体等の公の組織にはあたらず、町内会費は「公金その他公の財産」に該当しない。
(2)よって憲法89条に反しない。
2としても同挙行費を町内会の予算から徴収することはXの、自らが信奉しない宗教団体に金銭的授与を行わないという形の信仰の自由を制約し、違憲とならないか。
(1)まず、上記自由は憲法上保証されているか。「信教の自由」(憲法20条1項)として、特定の宗教について信仰することが同条によって保障されていると解すべきである。同様にして、当該信仰対象の宗教とは異なる宗教について望まない金銭的授与をしない自由も同条によって保障されると解すべきである。宗教的信仰を示す行為の一形態として、金銭を宗教的施設に授与することが社会通念上認められるからである。
(2)上記自由は、特定の宗教を信仰する者にとって、それ以外の宗教に対して信仰しているかのような行動を取らないことは信徒としての自己を実現するにあたって極めて重要な精神的自由といえる。
(3)確かに、A町内会はあくまで任意的団体に過ぎず、Xは加入しなければそのような制約を受けることはないと言えるかもしれない。
しかしながら、A町内会は生活道路、下水道の清掃、ごみ収集の管理祭事挙行への協力を行っている。その目的としては①清掃、美化等の環境整備に関すること、②防災、防火に関すること、③住民相互の連絡、広報に関すること④集会所の管理運営に関すること⑤その他A町内会の目的を達成するために必要なことを事業として行うことにより会員相互の親睦及び福祉の増進を図り、地域課題の解決等に取り組むことにより、地域的な共同生活に資することを目的としている。こうした活動は公衆衛生の保全、住環境ないし心身の健康の維持に不可欠な影響を有する。
また、A集落は人口が約170人に過ぎずA町内会の加入率は100%となっている。このような状況並びに同町内会の活動の重要性に鑑みてA町内会は実質的に税理士会のような強制加入団体になっていると言える。
(4)とすると町内会費8000円のうち1000円と1/8に過ぎないとしても、自らの金銭を支出することを強いられるのであるから祭事挙行費を町内会の予算から支出することは「信教の自由」(憲法20条1項)を制約し認められない。

第二(2)
1町内会費8000円を一律に徴収することは許されるか。(*)
(1)確かに一括して徴収する方法は簡便である。しかし、A集落の人口は170人に過ぎず、個別的な要望に応じて徴収額を決定することはさほど困難とは言えない。
(2)また、任意団体故その方針決定は団体の自治に委ねられているようにも思える。しかし、第一で検討したように8000円のうち祭事挙行費1000円の徴収には「信教の自由」(憲法20条1項)を制約する側面があるので、認めがたい。
(3)祭事は、何百年にも渡り集落の氏神を祀るC神社を中心に生活が営まれてきたA集落の重要な年中行事という側面も認められる。
しかし、C神社は平素から人々の交流や憩いの場となり集会所としての実質を有し、神職が常駐しておらず、日々のお祀りは集会所の管理と併せてA町内会の役員が持ち回りで行っている。
としても住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と認識している。
(4)そこで、A集落の規模等に鑑みて一律に8000円徴収するのではなくXのような憲法上保証された利益などを理由に徴収がふさわしくない特段の適切な事情があれば個別的に徴収するという手段であれば一般条項に反することはなく憲法上問題とならない。
(*)”町内会費を一律に徴収することは許されるか”の後(1)の前(実際の問題では行数を指定(筆者注))に以下の文章を挿入する。
1まず憲法は対国家的性格を有するので、このような憲法をXとA集落民という私人間の争いに適用できるか問題となる。
これについては上記性質から直接適用はできないと解する。
そこで、民法1条2項や90条といった一般条項を通じて間接的に適用することができると解する。
具体的には、両者の利益の比較考量によって、一般条項に照らして利益に対する制約が過度でなく当該条項に反しないと言えるなら憲法上問題とならないと解する。
以上。


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