令和6年予備試験行政法 再現答案

第一 設問1(以下行政事件訴訟法は条数のみ)

1Xに原告適格が認められるか。Xが「法律上の利益」(9条1項)を有するか問題となる。本件申請はBC間になされたものであり、Xに対し直接なされていないからである。
(1)ここで「法律上の利益」の文言の意義が問題となるも、当該処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害される恐れのあるものをいう。法律上保護された利益といえるかは当該処分の根拠法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含むと解されるか否かによって決するものと解する。
(2)アXはY県A市の郊外において多数の農地がまとまって存在する本件地域内に甲土地を有し、甲土地の北東部分に本件住宅を有しそこで暮らしつつ本件畑にて根菜類を栽培し生計を立てていた。
イ一方Bは本件地域内に複数の農地を有していたところ、そのうちの甲土地南側に接する乙土地について宅地として売り出すことを検討し土木建築会社Cは本件造成工事に着手した。本件造成工事は乙土地の本件畑に接する部分の地下にコンクリートの基礎を築き、コンクリート製擁壁を設置、擁壁の上端まで造成土を入れるもので、乙土地の地表面は本件畑のそれより40cm高くなった。
ウその後Xの復旧の申し入れによりY県の行政指導がなされ、Bは丙土地上に水路を設けたが本件畑は冠水し、排水障害が著しく根菜類の栽培が困難な状況になった。
(3)アBCは農地法(以下「法」)5条1項に基づきY県知事に対し乙土地にCの「賃借権」(法3条1項)を設定する旨の本件申請を行っている。これは上記行為は乙土地を宅地として売り出すための前提行為であり「農地を農地以外のものにするため」といえ、法5条が3条1項に規定する権利の設定に際して「都道府県知事等の許可を受けなければならない」とする場合に該当するからである。
イ同条2項4号は「申請に係る農地を農地以外のものにすることにより」、「土砂の流失又は崩壊その他災害を発生させるおそれがあると認められる場合」、「農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼす恐れがあると認められる場合」、「周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には許可をすることができないと定めている。
ウ上記条項の趣旨は、同条項の規定するような農地に対する農業を困難にするような態様での土地利用によって引き起こされる悪影響を未然に防ぎ、農家の営農による経済的利益を保護し、ひいては土地利用者の財産身体生命までも保護する点にあると解される。
エ(2)のような状況下においてXは根菜類の栽培が困難になり、それを販売することによって経済的利益を獲得することが困難になった。また、本件畑の冠水被害を改善するためXは盛土によるかさ上げを行い工事費として120万もの出費を強いられた(本件費用)。
また、法3条1項は農地についての権利設定について農業委員会の許可を取るよう定めており、土地の農業利用に限らず広く農地について、周辺の土地についての影響の大きさに鑑みて、周辺地の利用者を害するような利用を未然に防ぎ、周辺土地利用者の保護を図る趣旨を有すると解される。
オイ、エでみたような法の趣旨からして農地法は当該処分の根拠法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含むと解される。

(4)Xは根菜類栽培が困難になったのみならず、本件床下が浸水による被害を被るおそれがあり、乙土地の周辺土地たる甲土地に居住するXの生活が脅かされるおそれがある。
Xの経済的利益は法律上保護された利益であることろ、(2)でみたように侵害され、また浸水の恐れは甲土地に居住するXの財産身体生命という法律上保護された利益が侵害されるおそれを招くといえる。
2以上よりXは原告適格を有する。

第二設問2(1)


1「違法」について
(1)公務員の当該行為が「違法」(国家賠償法1条1項(以下条数のみ))か否かは、基準の明確性から、客観的な見地からみて職務上の義務に違背したかどうかによって決するものと解する。
(2)BCは第一で見たように宅地利用目的でY県都道府県知事に対し本件申請を行った。提出された許可申請書には土地造成及び工事の着手時期が記されるばかりで、付近の土地等の被害を防除する措置について何ら記載がなかった。
(3)第一(3)で見たような農地法の趣旨に鑑みて同法5条2項4号に規定するようなおそれが生じる事態を防除する措置を申請者BCが行っているかを確認する義務をY県知事は負っていたというべきである。
(4)ところがY 県知事はなんら措置を講ずることなく本件申請を許可した。これが「違法」である。
2「過失」について
(1)Xは令和5年11月20日本件造成工事により本件畑の排水に障害が生じる恐れを理由にY県の担当部署に復旧を求めた。
(2)ア確かにY県担当者DはBCに排水障害を防ぐ措置を講ずるよう行政指導を行った。それによりBは丙土地上に本件畑の南西角から西に向かう水路を設けた。
イしかし、この水路は実際は排水に十分な断面が取られず、勾配も不十分であったのにDは目視による短時間の確認を行っただけで十分な措置が取られたと判断した。
(3)上記の点が「過失」を構成する。

第3設問2(2)(行政事件訴訟法は条数のみ)

1「行政庁」たるY県知事は本件処分を撤回等(「一定の処分」)すべきなのに「これがされていない」(3条6項1号)として、これによって「重大な損害を生ずるおそれ」があり、「損害を避けるため他に適当な方法がない」として義務付けの訴えを提起する。
(1)Xは甲土地に住居を有し排水障害(第一参照)によって床下が浸水するおそれが生じてる。これによって経済的損失等の「重大な損害が生じるおそれ」がある。
(2)Xは申請権者ではないため、37条や37の3条に基づいて権利救済を求めることができない。また実際に床下浸水等の侵害は生じていないので取消訴訟等によることもできない。よって「損害を避けるため他に適当な方法がない」といえる。
2法51条によれば同条各号に該当する者に対し都道府県知事は「土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認める場合」、必要な限度で許可の取り消し、条件の変更、付与、工事等の停止命令原状回復措置等を命ずることができる。
(1)本件造成工事によって第一(2)のような状況に陥っている。これによって乙土地周辺の農地利用者Xの農業が著しく困難になっている。
(2)一方BCの賃借権設定は乙土地を宅地として売り出すための前提行為といえる。
(3)(1)(2)の土地利用の確保と関係人の利益を比較すると得られるBCの金銭的利益に対してXの被る損失と乙土地周辺の農地への深刻な影響に鑑みると「特に必要がある」として原状回復命令をすべきである。
以上。



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