令和6年予備試験刑法 再現答案

第一甲の罪責(以下刑法は条数のみ)


1Aが落としたAの有するコインケース(本件コインケース)を拾った行為1に窃盗罪(235条)が成立するか。
(1)本件コインケースは「他人の財物」に該当するか。
ア法律関係が複雑化した現代社会においてはひとまずその占有を保護すべきである。そこで「他人の財物」とは他人の占有する財物と解する。
イ本件コインケースは「他人」Aがズボンの後ろポケットに入れており、通常金銭を支払って入手するものなので「財物」といえる。
ウAは本件コインケースを占有していたか。
(ア)占有とは支配する意思と支配する事実が存在するかによって判断する。
(イ)Aは7月1日6時45分頃ズボンの後ろポケットから携帯電話を取り出した際に本件ケースを落とした。AはX駅に急いで向かっていたためにケースを落としたことに気がついていなかった。甲が本件ケースを取得したのはその1分後であった。Aはその時点で第一現場から道のり約100m地点におり同地点と第一現場との間には建物があり互いに見通すことはできないが交差点方向に約20m戻れば第一現場を見通すことができ、近接した地点にいたといえる。またAは6時55分と紛失から10分経過して第一現場から約700m離れたX駅において紛失に気づき、X駅から第一現場を経由して勤務先まで戻った。
とするとAは紛失時に近接した地点にいてわずか10分後に取り戻そうと捜索を開始していることから時間的場所的接着性が認められ支配の事実が認められる。
また、捜索しようとしていたことと、本件ケースが見当たらずすぐに警察官に紛失届を提出していることから支配の意思も認められる。
(ウ)とするとAは本件ケースを占有していた。
よって本件ケースは他人の占有する財物に該当する。
(2)甲はこれを「窃取」したか。
ア「窃取」とは意思に反する占有移転をいう。
イAは(1)イでみたように落とした本件ケースを取り戻そうとする旨の占有する意思を有するから甲による行為1はAの意思に反する占有移転にあたる。
ウよって甲は本件ケースを「窃取」した。
(3)ア明文はないものの軽い毀棄隠匿罪との区別から①権利者を排除して他人物を自己の物として②その経済的用法に従い利用処分する旨の不法領得の意思を要すると解する。
イ甲は本件ケースはAが所有する財物であるのに、Aが落としたことに乗じて、自己のものにしようとしている。これはAを排除して他人物を自己物としようとするものである(①)。
甲は本件ケースが自己の好みであることを理由に行為1に及んでおり、そのことからコインケースとして利用する意図であったと考えられる。とするとコインケースの経済的用法に従い利用処分するものといえる(②)。
ウよって甲に不法領得の意思が認められる。
(4)また、行為態様から故意(38条1項本文)も認められる。
よって行為1に窃盗罪が成立する。
2Bの自転車を持ち去った行為2に窃盗罪が成立するか。
(1)本件自転車は「他人」Bの「財物」であるがBの占有が認められるか。1(1)アの判断基準で検討する。
アBはコンビニエンスストア利用後X駅付近の書店に向かおうとしたが有料駐車場の料金の支払いを免れるために同店舗前の歩道(第二現場)に同日午後6時15分に自転車を駐輪したが施錠を失念していた。
甲は第二現場にて同自転車を発見し午後6時50分に持ち去った。
Bは甲の上記持ち去りの時点で書店におり午後8時ごろ第二現場に戻り紛失に気が付いたため盗難届を出した。
イ第二現場と書店は約500mしか離れておらず、Bが紛失に気が付いたのは持ち去りから1時間10分程度経過した時点だった。
とすれば支配の事実は認められる。
ウまたBは施錠を失念したに過ぎず、紛失に気が付いてから盗難届を提出していることから支配の意思も認められる。
とすると本件自転車は他人の占有する財物にあたる。
(2)甲は「窃取」したか。
アBは盗難届を提出していることからも、甲が自転車を持ち去った行為2は意思に反する占有移転といえる。
よって「窃取」した。
(3)また甲は居酒屋まで歩くのが面倒になり本件自転車を利用後乗り捨てようとしていたので他人の物を自己の所有物のようにその経済的用法に従い利用処分したものとして不法領得の意思は認められる。
(4)行為態様から故意も認められる。
よって上記行為2に窃盗罪が成立する。
3Cに対する暴行行為3に傷害罪の共同正犯(204、60)が成立するか。
(1)まず、甲はCに注意されたことから逆上しCの顔面を拳で数回殴打し腹部を数回蹴った。Cは顔面を殴られたことで全治1週間の顔面打撲を負い、生理的機能に不良変更が生じているので行為態様から故意も欠けず単独で「傷害」したと言える。
(2)甲は乙がたまたま通りかかった際に「こいつが俺に説教してきたから痛めつけてやった。お前も一緒に痛めつけてくれ。」と言ったことを受け、乙は「分かった」と言いCの頭部を拳で数回殴り腹部を足で蹴った。この行為に甲乙で共同正犯が成立するか。
ア共同正犯は共謀とそれに基づく実行行為があれば成立すると解する。共謀は共同実行する意思と正犯意思が認められれば認められると解する。
イ(ア)甲はCに注意されたことに逆上して上記のように乙に加担するよう申したてているので自らの犯罪として主体的に実行する意思があると言え正犯意思が認められる。
(イ)乙が上記のように了承して暴行行為に及んでいるので、甲は様子を間近で見るに留まり乙と共同して実行行為を行っていずとも共同実行する意思が認められる。
(ウ)よって共謀が成立し、上記のように共謀に基づく実行行為がなされた。(共同実行行為も共犯の処罰根拠が実行行為を通じて因果性を及ぼした点に認められるので、直接実行行為をしていなくとも問題とならない。)
ウよって乙のCに全治2週間の頭部打撲を生じさせた暴行につき甲に傷害罪の共同正犯が成立する。
4Cに全治一か月の肋骨骨折の傷害を負わせた行為4につき、甲乙いずれの暴行によって生じたか明らかでないが207条によって共犯として処罰することはできないか。
(1)まず上記傷害は甲乙いずれによるものか不明なので「その傷害を生じさせた者を知ることができないとき」に該当する。
(2)「二人以上で暴行を加えて人を傷害した」といえるか。
甲は3(2)のように乙に申し立て乙も上記のように承諾して即座に暴行を加えているので「二人以上で暴行を加えて人を傷害した」といえる。
(3)よって207条が適用され上記行為について傷害罪の共同正犯となる。

第2 乙の罪責

1Cに対する暴行行為について甲との傷害罪の共同正犯が成立する。
(1)第一3(2)で検討した基準で共同正犯の成否を決する。
(2)乙は勤務先で解雇されストレスが溜まっておりCに逃亡抵抗の気配がなかったことからこの状況を積極的に利用し暴行を加えてストレスを解消したいとの思いを抱いたので正犯意思が認められ、第一で検討したように共同実行意思、共同実行事実も認められる。
(3)よってまず乙に頭部打撲について傷害罪の共同正犯が成立する。
(4)また第一4より肋骨骨折についても傷害罪の共同正犯が成立する。

第3 罪責

甲につき行為1と行為2の窃盗罪については保護される法益侵害対象が異なるので吸収解消されず併合罪(45条前段)となる。
甲乙共に行為3と4の傷害罪の共同正犯について併合罪となる。



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