令和6年予備試験実務基礎科目【刑事】再現答案

第1設問1

1小問(1)
(1)ア現場の写真撮影やフェリーのチケット半券の押収は証拠物の発見を目的とする「捜査」(刑事訴訟法189条2項)にあたり、更に「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項但書)(明示又は黙示の意思に反し、重要な権利利益を実質的に制約する処分)にあたるならば法定されている手続きでないならば違法となる。
イAはレンタカーを返却期日を経過しても尚利用を続けていたところ、同車両にて交通事故を起こし逃亡している。そのようなAが自らに捜査が及ぶような行為を承諾するとは考え難いので少なくとも黙示の意思に反し、同意なく車内の様子を撮影し、半券の占有を取得しているので重要な権利利益に実質的に反するといえ「強制の処分」に該当する。
ウ写真撮影は原則として「検証」(刑事訴訟法219条)に当たり、半券の「押収」(99、212条)とともに法定された強制処分として原則として令状なくしてすることができない。
(2)しかしAが事故を起こした本件車両については、貸し出したTレンタカー丙営業所従業員Vが返却を数回にわたり催促するもAが応じることはなく電話に出なくなったことから丙警察署に被害届を提出し、車両借り受け名目で車両をだまし取ろうとし、返却する意思がないのに借り受けを申し込み従業員 Vに借り受け期間経過後返却されると誤信させ(「人を欺き」)本件車両という財物の交付を受けた旨の詐欺(刑法246条1項)の被疑事実により逮捕状の発布がなされている状況であった。このような状況下で上記の事故の通報を受けた司法警察員Kらは事故車両のナンバーから詐欺の被害届が出ている車両であると把握したうえで上記行為に及んでいるので「第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合」にあたり、「必要があるとき」に例外的に令状無くして詐欺の被疑事実に関連する証拠物の存在する蓋然性の高い「逮捕の現場で、差押」としての押収と「検証」としての写真撮影ができる(刑事訴訟法220条1項柱書、1項2号)。
2(2)
(1)身体検査令状と鑑定処分許可状を併用すべきである。
(2)ア強制採尿と同様に身体検査令状に関する218条5項を準用し、医師をして医学的に相当な方法によならければならない旨の記載をした捜索差押許可状によることも考えられる。
イしかしながら体外に自然と搬出される無価値な尿と身体を構成する血液を同視すべきでないし「物」(219条1項)と解することは難しい。よって採尿と同様の令状によるべきではない。
ウそこで身体検査令状と鑑定処分許可状を併用すると考える。併用することにより、身体検査令状では血液の採取まではできない。一方で鑑定処分許可状は直接強制ができない。(225条4項の準用する168条6項は139条を準用していない)これらを併用すれば上記問題を解決できる。

第2設問2

1小問(1)
(1)アAは逮捕後司法警察員、検察官の弁解録取手続きにおいて一貫して車両のレンタルを1週間延長を申し出てそれが承諾されていると主張している。Aの主張する通りならば2月11日までAは本件車両をレンタルすることができ、逮捕された10日時点で本件車両を所持していることは適法となる。
イまた、同月4日午後7時丙島発乙市行の本件フェリーの車両用チケットの半券から推測されるAの意図も欺罔行為により不法に取得し車両を返却する意思はないというものではなく、一旦乙市まで運び利用したのち11日までに返却するという何ら犯罪を構成しない意図であった可能性も考えうる。
(2)通常計画的に旅行に必要なチケットを予約する場合場当たり的に購入するのではなくまとめて入手すると考えられる。そこで本件フェリーの半券の購入日を調べ、車両用のチケットの購入がA自身が乙市に戻るチケットと同時でなく、それ以後であれば、丙島に上陸後突発的に車両を借り受けて違法に入手しようとしたと考えられる。
(3)よってフェリーチケットの半券は、Aの行為が詐欺罪ないし横領罪の「罪を犯す意思」(刑法38条)に基づいていることを示す証拠となりうる。
以上の理由からPは③の指示をした。
2小問(2)
(1)積極的に働く事実
Aは返却する意思がないのにVからの催促に対し「これから返しに行く」「今、丙島にいる。もう少しで営業所に着く。」などと述べ、返却する意思を偽っている。これは「人を欺いて財物を交付」させる故意(38条1項本文)の存在を推認させる。
(2)消極的に働く事実
Aが本件車両を領得したのはTレンタカー丙営業所で昔から欲しかった車種であることに気が付いたからであると考えられるところ、Xに対し「昔から欲しかった車種だ」と述べている事実はAに「人を欺いて財物を交付させる」故意ではなく、「横領する」(不法領得の意思(委託信任関係に背き、自己の所有物でないのに、所有者でなければできないような行為をする意思)の発現行為)故意で借り受け契約を結んだことを推認させる。
(3)よってPは単純横領で公判請求をした。
3小問(3)
(1)横領罪は委託信任関係に基づき「自己の占有する他人の物を横領した」ときに成立するところ、本件車両はTレンタカーの所有するものでAが利用者として借り受けているので「自己の占有する他人の物」にあたる。そのため「横領」がいつなされたか問題となる。
(2)本件車両の返却期限は4日午後5時となっていた(㋐に該当)。ところが返却期限を経過してもAが返却しないことを受け午後6時にVは電話を掛けたが「これから返しに行く」と答えた後は何も答えず一方的に電話を切った(㋑に該当)。その後Aは午後6時45分に本件車両とともにフェリーに乗り込んでいる(㋒に該当)。
(3)Aはフェリーで乙市に移動したのちXに対し本件車両が「昔から欲しかった車種だった。」と述べており、乙市に移動後10日にいたるまで売却などせず運転に利用していることからも、返却せずに他人の所有物であるにも関わらず自己物のように利用を継続する意思を有していたと考えられる。
(4)㋐の場合は返却が延滞しているに過ぎない可能性があり、㋑ではAが説明を十分に尽くさなかっただけで返却に向かっていた可能性も考えうる。ところが㋒の場合は乙市と丙島は約30kmも離れており、一度移動してしまえば車両を元に戻すのは容易ではなくなる。よってこの時点で3(3)のような不法領得の意思の発現行為(「横領」)をしたと考えるべきだ。

第3設問3

1(1)Aの友人Xは検察官Pによる2月14日の事情聴取にて同月1日にAから遊びに行く旨の連絡があったこと、同月5日にAがX方に来た際のXとのやり取りやそこで「昔から欲しかった車種だった。」と言ったことやその車両のナンバーを覚えていることについて供述し、検察官面前調書(以下P書)に録取された。
(2)ところがAの弁護人Bは公判期日においてP書を不同意としたためXの証人尋問が4月15日に行われた。しかしXは2月1日のAからの電話や同月5日のXの訪問について覚えていないこと、Aは地元の中学校の同級生でいつも怖い先輩とつるんでおり、傍聴席にいる人たちがその先輩たちだと思うと述べた。そして法廷の傍聴席にはAと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたりXの証言中に咳払いをしていた。以上の状況下でXからの証言は期待できなかった。
(3)そこでP書を証拠として採用することは原則として「公判期日における供述に代えて書面を証拠とする」場合に該当し原則的には証拠として認められない(刑事訴訟法320条1項)ので伝聞例外(同321条~)該当性を検討することになる。具体的には321条1項2号該当性が問題となる。
(4)アまず同号前段部分(「死亡・・・国外にいる」)が限定列挙か例示列挙か問題となるも例示列挙と解し、同号列挙事由に匹敵するほどに供述が困難であると認められれば同号前段部分を満たすと解する。
イ公判廷ではXは(2)で述べたような証言をしている。Xの抱いた傍聴人に対する印象と実際の外見やAと目配せをする様子から当該傍聴人らはAと付き合いのある”怖い先輩”である可能性が高く、10名と大勢といえる集団にXは証言のたびに咳払いをされて証言に対し威圧を加えられ、Aに不利な発言をした場合に報復される恐れがあるなど萎縮していると考えられる。
これは同号列挙事由に匹敵するほどに供述が困難であると認められる。
上記事実が考慮された事実にあたる。

第4設問4(以下弁護士職務基本規定は条数のみ)

1(1)
(1)「弁護士は、・・・依頼者の権利・・・を実現するように努める」(21条)よう要請されている。被告人は無罪を主張する権利を有すると言える。しかし弁護士の使命には「社会正義の実現」も掲げられ(1条)、起訴事実を認めている被告人の無罪を主張すべきでないようにも思える。
(2)しかし弁護士は依頼人の意思を尊重しなければならない(22条1項)し、被疑者被告人の権利利益を擁護するため最善の弁護活動に努めることとされている(46条)。
(3)よって無罪主張も可能である。
2(2)
(1)弁護士は真実を尊重し、信義誠実に職務執行をしなければならず(5条)、「廉潔の維持」も求められる(6条)。また「違法・・・行為を助長・・・してはならない」(14条)と定められている。
(2)Yが真実と異なり、返却期限の延長を了承されている電話を聞いていた旨の証言をすることは偽証罪(刑法169条)という違法行為に該当するため、14条に反する。
(3)よってYに虚偽の証言をさせるため証人請求することは問題がある。



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