令和6年予備試験商法再現答案

第1設問1(以下会社法は条数のみ)

1小問(1)
(1)甲社は創業者Aの親族Dの有する株式100株を総額1000万円で買い取った。この際Aは令和6年3月31日における分配可能額を1200万円と判断し、株式取得の承認を受けた株主総会でも同様の説明を行った。
ところが会計帳簿に過誤があり令和6年3月31日における実際の分配可能価格は800万円だった。
(2)甲社はすべての株式につき取締役会の承認を要する旨定めているのでDは「取得請求権付株式の株主」にあたり、Dが本件株式を売却し家計の足しにしたい旨述べたことは株式取得請求(166条本文)にあたる。
(3)ところが「財産の帳簿価格」は「分配可能額を越えているときは」同請求ができない(同但書)。
よって本件買取は無効となる。
2小問(2)
(1)Aの責任
アAは創業者で代表「取締役」であり、職務に対し善管注意義務を負う(330条、民法644条)。Aは甲社の分配可能額につき株主総会にて適法に確定した計算書類に基づき計算すると1200万円以上と評価し、1株当たり100万円で買い取る旨決定し、株主総会でそのように説明し承認を受けた。
イところが令和6年7月になって甲社の預金口座記録を照会していた取締役Bが上記の計算書類の基礎となった令和5年中の会計帳簿の過誤を偶然発見し、これは会計帳簿をほぼ単独で作成していた経理担当従業員Gが一部の取引につき会計帳簿への記載を失念していたことに起因するものであった。
Aは甲社の経理及び財務を担当しており計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行っていたにも関わらずその基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下に任せきりで関与しておらず、Gによる取引の一部についての失念に気が付かなかった。
ウ確かに代表取締役が全ての会社業務の書類等につき目を通して精査することは困難かもしれないがAは甲社の経理及び財務を担当しており計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行っていたのに基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下に任せきりで関与していなかった点につき善管注意義務となる任務懈怠(「任務を怠った」)となる。
エよって「株式会社」甲社に対し「生じた損害を賠償する責任を負う」(423条1項)。
(2)Dの責任
Dは甲社の「役員等」ではなく、責任は生じない。
(3)Fの責任
Fは甲社の「監査役」であり、「役員等」にあたる(423条1項)。Fは「取締役の職務の執行を監査する」職務上の義務を負う(381条)。それにも関わらず2(1)イのような事情につきFによる会計監査は例年会計帳簿が適正に作成されたことを前提に計算書類と会計帳簿の内容の照会を行うのみで会計監査では過誤が発見されなかった。Fは会計帳簿の適切性の検討も監査業務の一環として行うべきであったといえ、この点につき「任務を怠った」といえ「株式会社」甲社に対し「生じた損害を賠償する責任を負う」(423条1項)。

第2設問2

1Aは相続によって株式が分散して管理が困難になったという話を聞いて甲社全株式を自分で保有することを考え、税理士Hから甲社株式の評価額が1株当たり6万~10万であるとの意見を得た。そこでAは令和6年7月31日までに甲社の取締役会の承認を受け、BCDから保有する株式を1株当たり10万円で取得し名義書き換えされた一方で、同年8月以降Eに対し特別支配株主の売り渡し請求がなされ、その対価は1株当たり6万円とされた。
2(1)まずEは甲社株式1000株のうち100株を有し「百分の三以上の数の株式を有する株主」にあたるので「会計帳簿又はこれに関する資料・・・の閲覧」請求ができる。これにより甲社株式の評価額が6~10万が適切か否かということについて調査をすることができる。
(2)取締役会決議の瑕疵につき明文の規定がないが、法の一般原則により無効となると解する。そこで甲社株主BCDの有する株式の評価額を10万とした一方でEの有する株式評価額を6万とすることは株主平等原則(109条)に反し、取締役会決議の無効事由となると主張することが考えられる。





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