令和6年予備試験刑事訴訟法 再現答案

第一 設問1(以下刑事訴訟法は条数のみ)

1刑罰の存否又はその範囲を画す「事実の認定」は適式な証拠調べ手続きを経た「証拠によ」り厳格な証明によってなされなければならない。(317条)
2刑事訴訟法は事件単位の原則を採用し、起訴状においては予断を生じさせうる事実の記載を排除する旨定め(256条6項参照)、前科を記載することは原則として認められない。
本問において起訴された公判中の事件①において甲と弁護人は犯人性を争わず金品奪取目的の犯行として強盗罪が成立する旨の心証を裁判所は抱いた。
そこで事件①において甲の犯人性が認められたとしてそれを別の公判中の事件②において犯人性認定の間接事実として用いることはできるか。
(1)確かに最小限の証明力は認められるものとして自然的関連性は認められうる。
しかし、上記刑事訴訟法の規定からして原則として法律的関連性は否定するべきであると解する。
(2)では例外的に許容されるか。許容するとすればそれはいかなる要件において認められるか問題となる。
この点について前科ではないが、それに準じるものとして顕著な特徴を有し、それをもって犯人としての同一性を強く推認させるならば例外的に間接事実として用いることができると解する。
3(1)事件①は令和6年2月2日午後10時ごろH県I市J町内においてAが背後から黒い軽自動車に衝突され路上に転倒するとその後男性が同車から降りてきて「大丈夫ですか」と声をかけ歩み寄り立ち上がろうとしたAの顔面を拳で一度殴りAが手に持っていたハンドバックを奪い取ったうえで直ちに同社に乗り込み逃走するというものであった。
(2)一方事件②は同年同日午後11時ころ同市K町内をBが歩いていたところ背後から黒い軽自動車に衝突され路上に転倒するとその後男性が同車から降りてきて「怪我はありませんか」と声をかけ歩み寄り倒れたままのBが持っていたセカンドバッグに手を掛けたが付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を放し直ちに同車に乗り込み逃走するというものであった。
(3)ア確かに事件①と事件②は同年同日同市において①が午後10時ごろ②が午後11時頃と時間的場所的に近接した時点でなされており、黒い軽自動車に乗った男性が背後から衝突して案ずるような声かけをしてきた点で共通する。
イしかし事件②において通行人に目撃されたことから犯人はセカンドバッグに掛けた手を放して逃走している点、またAは車のナンバーを目撃したがBはしていない点で①と相違する。
ここで事件②も①と同様に甲による犯行であり、甲はXに目撃されそこから捜査機関が人相等の情報を得て、捜査が進展し逮捕され、②のみならずひいては事件①についても明るみになることを避けるために逃走したとも考えられる。
ウしかし事件②の犯人が甲ないし他の人物のいずれであったとしても以下のように考えることもできる。
事件②は偶然の事故に過ぎず男はBを真摯に心配し声をかけただけであり、セカンドバッグに手を掛けたのも一度手に持ったうえでBを起こし手渡す目的しか有しておらず、そのタイミングで目撃されたことで傍からみるとひったくりの冤罪を疑われることを恐れてないしはひいたことが発覚することを恐れて逃走したとも考えられる。
仮に事件②の犯人が強盗目的で追突行為に及びセカンドバッグに手を掛けたのも奪取目的であったとしても、黒い軽自動車はありふれた車種であるし、背後から追突という行為も、心配しているかのような声かけも特異性に乏しい。
4以上からすれば顕著な特徴を有し、それをもって犯人としての同一性を強く推認させるとは言えず、原則通り法律的関連性は認められない。
よって甲が事件①の犯人であることを事件②の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることはできない。

第二設問2

1(1)事件②について甲と弁護人が軽自動車をBに衝突させたことは争わず財物奪取目的であることを否認している状況下で事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることは第一2と同様に原則的には許されないと解する。
では、設問1と同様の基準によって例外的に許容することは許されるか。設問1では犯人性という刑事訴訟の根本にかかわる重大な事実の認定に用いることができるかの判断であったのに対し、本問は甲が金品奪取目的を有していたかという、車でひいた行為が強盗罪(刑法236条)の財物奪取に向けられた「暴行」に該当するかという構成要件該当性の判断に関するものであり、これが認められなかった場合過失傷害罪(209条)ないし傷害罪(204条)の検討がなされると考えられる。
(2)とすると合理的な疑いを超えて社会通念上同一性が確実に認められるならば例外的に法律的関連性が認められる。
2(1)第一3(1)(2)でみた両事件の(3)アイで見た共通点と相違点を加味しても、同(3)ウでみたような強盗目的のない事故に過ぎなかったという認定も可能であるので合理的な疑いを超えて社会通念上同一性が確実に認められるとは言えず原則通り法律的関連性は認められない。
3よって事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることはできない。
以上。




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