令和6年予備試験民法再現答案

第一設問1小問(1)(以下民法は条数のみ)

1Cの請求は所有権(206条)に基づく返還請求としての乙土地明け渡し請求である(201、202条)。これが認められるには①Cが乙土地を所有していること、②Dが乙土地を占有していることを要する。
(1)アCの父Aが機関長として搭乗するタンカー甲が令和3年4月1日太平洋上で消息を絶ち、令和4年6月22日甲船体の一部が漂流しているところが発見され、令和3年4月1日未明の火災で沈没したことが明らかになったがAの遺体は発見されなかった。
イ令和4年6月23日Bは家庭裁判所に失踪宣言の請求をし、同年8月1日失踪宣言がなされた。
(2)アAは「沈没した船舶の中に在った者」で「船舶が沈没した」令和3年4月1日から「一年後」の令和4年4月1日になっても「生死」が「明らかでない」ので「失踪の宣言・・・ができる」(30条2項1項)。
イそして「同条第ニ項の規定により失踪の宣言を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす」(31条)。
(3)よってAは令和3年4月1日に死亡したものとみなされ、子BCがAの乙土地を1/2ずつの共有持分で包括承継する(882、896、900条4号、249条)。法定相続分ではCは乙土地の1/2ずつの共有持分を有するにすぎず、完全な所有権を取得していない。
(4)ア一方Aは平成30年4月1日(1)乙土地をCに相続させる。(2)それ以外の財産は法定相続分に従って相続させる旨の遺言をしていた。遺言は「遺言者」A「の死亡の時」である令和3年4月1日に「効力を生ずる」(985条)。よってこの時点でCは乙土地の完全な所有権を取得する。(①)
イところが令和4年8月24日Bは遺産分割協議等の必要な書類を偽装して乙土地につき相続を原因とする自己への所有権移転登記手続きをしたうえでDに対し同月25日代金2000万円で乙土地を売り渡し(555条)登記をした。Dは乙土地を占有している(②)。
遺産分割協議等は偽装のものであり、効力を有しない。よって原則的にはCは上記請求ができる。
2しかしDは自身が「第三者」(94条2項)に該当しBへの相続を原因とする登記の無効を対抗されず、登記を有するDにCは所有権を主張できない(177条)と反論するだろうがこれは認められるか。
(1)まず、BCは通謀していないので直接適用はできない。そこで間接適用の可否とその要件が問題となる。
(2)ア94条2項の趣旨は虚偽の外観を作出した帰責性ある表意者よりも信じた第三者を保護する点にある。とすると①虚偽の外観②表意者の帰責性③第三者の信頼があれば類推適用されると解する。
イBは遺産分割協議等の必要な書類を偽装して乙土地につき相続を原因とする自己への所有権移転登記手続きをした(①、②)。Dはこれを信じて売買契約を締結した。(③)よってDに対し94条2項が類推適用される。
よってCの請求は認められない。

第二設問1(2)

1Aの請求は所有権に基づく返還請求としての乙土地明け渡し請求にあたる。Aが乙土地を所有し、Fが占有していればAの請求は認められる。
(1)失踪宣言が宣告されたAは実際は外国船舶により救出され帰国できない状態にあるだけだった。Aは令和5年6月24日住居地に帰来し、家庭裁判所は失踪を取り消した。これは「生存すること・・・の証明があったとき」に「本人・・・の請求」で「失踪の宣言」が取り消された(32条1項)。
(2)アよって乙土地の所有権はAに帰属するようにも思える。しかし「取消」は「失踪の宣言後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」(32条2項)ところ、「善意」の意義が問題となる。
イ取引の安全と法的関係安定性のため「善意」とは失踪宣言を前提とした取引の当事者の両方が善意であると解する。
(3)FはAの生存をBから聞かされており「善意」でない。よってAはFに対し失踪宣言の取り消しを対抗でき、Aの請求は認められる。

第3設問2(1)

1GはJに対し不当利得返還請求(703条)できるか。
(1)アGは令和6年3月1日取引関係にあるHに対する500万円の支払い債務を弁済する目的でI銀行に同額の振込依頼をしたが、誤ってHではなく何ら関係のないJの口座に500万を振り込んでしまった。
イこれはJがGHとの取引関係はおろか何ら関係性がないので「法律上の原因なく」Gの500万円という「他人の財産・・・によって」口座から自由に引き出すことが可能になるという債権を取得し「利益を受けた」と言える。JはK銀行の組み戻し依頼に応じず連絡がつかず、Gの回収が困難になっているので「他人」G「に損失を及ぼした」といえ、返還義務を負う。
2よってGの請求は認められる。

第4設問2(2)

1GのLに対する不当利得返還請求(703条)は認められるか。
(1)反論①について
Jは令和6年3月8日債権者Lのもとを突然訪れ500万円の弁済をした際、債務の返済が遅れたことを詫びている。返済が滞っていたということはJには弁済する資力がなかったことを意味し、500万もの大金を一度に弁済できた理由は、金額も誤振り込みの金額と一致すること、J名義の口座は数年間残高が0円であったことからもGの誤振り込みの500万円を引き出して弁済にあてたからだと考えられる。とするとJの一般財産からの弁済であるがゆえに因果関係なしとする反論は妥当しない。
(2)反論②について
Lの利得は弁済の受領で「法律上の原因」があるとする反論は認められるか。
アここで不当利得制度の趣旨は損害の公平な分担にある。よって利益を得た受益者と損失を被った者との比較衡量により、一方の被る損失が信義則(1条2項)上看過できない場合「法律上の原因がない」と認めるべきであると解する。
イGが取引相手のHでなくJの口座に500万の振込をしてしまったのは確かにG自身が誤って指定したことに起因する。一方でLが500万の弁済を受ける権利も法的に正当なものといえる。しかしJが500万円を引き出せたのは、K銀行が取引停止措置をとることもできたのに何もしていなかったことが大きな要因となっている。以上の事実関係からすれば「法律上の原因」があるとするのは一方の被る損失が信義則(1条2項)上看過できない場合であると言え、「法律上の原因がない」と認めるべきである。
よってLの反論は認められない。
2Lは「法律上の原因」なく「他人」G「の財産・・・によって」500万円の弁済という「利益を受け」「他人」Gに500万の債権回収ができなくなるという「損失を及ぼした」といえ返還義務を負う。
よってGの請求は認められる。







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