令和6年予備試験選択科目国際公法再現答案

第一 設問1(以下ウィーン条約法条約は条数のみ)

1A国とB国は租借条約を締結しているところ、「当事国」であるB国は同条約に「拘束」され、「誠実に履行しなければならない」こととなる(26条)。
とするとB国にはP島を50年間租借し利用する対価として毎年1億米ドルの支払い義務が生じる(租借条約1、2条)。ところが支払い後1か月後巨大地震が発生しP島全体が低潮時においても水中に没することとなり当初予定していた利用が困難な状況になった。しかし、依然としてB国には毎年1億米ドルの支払い義務が生じている。そこでB国は以下のような主張をすると考えられる。
2まずB国は租借条約の「当事者」同士であるA国の「同意」により「条約の終了」を主張することが考えられるが、A国は長年にわたる経済政策の失敗により極端な財政難に陥り国家財政再建のためにP島をB国が利用できるようにしてその対価を得るよう策を講じるに至っている。とするとA国が同意することは考え難い。同様に「合意」による「改正」にも応じないだろう(39条)。
3B国はP島は「条約の施行に不可欠である対象」にあたり、これが巨大地震が発生し全体が低潮時においても水中に没することとなったことが「永久的に消滅・・・又は破壊」にあたりその「結果条約が履行不能になった」としてB国が「条約の終了又は脱退」を主張することが考えられる。

第2設問2

1B国は、A国が外交交渉の過程でP島には未開発な貴重な鉱物資源が埋蔵されている旨を公式に通告し、それを基に租借条約を締結しB国は1億米ドルの支払いを毎年しつつ多額の費用をかけて鉱物資源探査を行ったが全く発見されず、租借条約発効から3年経過時点でP島には鉱物資源が埋蔵されていないことが明らかになったことにつき以下のように主張することが考えられる。
2(1)P島に鉱物資源が存在するとの事実は「条約の締結の時に存在すると考えていた事実」に該当し、1億米ドルもの大金を無人島であるP島を利用できることの対価として毎年支払うという条約はP島に未開発の貴重な鉱物資源が埋蔵されているとの通告がありその開発によってB国が利益を得られると考えたからこそ締結したので「条約に拘束されることについての自国の同意の不可欠の基礎をなしていた事実」である。
(2)P島には実際は鉱物資源は埋蔵されていないにもかかわらず、A国の通告によって存在するものとB国は誤信し「錯誤」に陥っている。
(3)上記錯誤は(1)の「事実・・・に係る」といえ「自国の同意を無効にする根拠」であると主張し、条約の履行義務を負わないと主張するだろう。(48条)
3また、B国はA国の上記通告は「詐欺行為」に該当しこれに「よって条約を締結」したとして同様に「同意」の「無効」を主張できるだろう。(49条)

第3設問3(以下海洋法に関する国際連合条約は海洋法条約とする)

1B国は「P島は無人島であるため、P島を起点としてB国の排他的経済数域及び大陸棚を設定することは国際法に違反する」と主張するC国に対してまず排他的経済数域(以下EZZ)につき「領海に接続する水域であって」(55条)海洋法条約5部に定める制度によって規定され(56条~)、同条約の規定上無人島を起点にEZZを定めることはできない理由はなく、C国の主張は妥当しないとの主張が考えられる。
2また同様にして「大陸棚とは、当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であってその領土の自然の延長をたどって大陸周縁部の外縁に至るまでのもの」又は「大陸棚周縁部の外縁が領海の幅を測定するための基線から二百海里の距離まで延びていない場合」で「当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であって当該基線から二百海里の距離までのもの」をいう(76条)。そのため、無人島であるP島を起点に定められないとの主張は妥当でないとの主張が考えられる。
3またB国はP島は「岩」ではないのでP島を起点にEZZや大陸棚を設定できる(121条3項)との主張が考えられる。(AB国は主権移譲条約を締結しP島に関する権利は完全にB国に移譲されているところ、確かにP島は無人島であり「人の居住又は独自の経済的生活を維持」できないように思える。しかしAB両国は租借条約の内容としてB国にP島の利用を規定し対価として1億米ドルの対価を要することからP島が「人の居住又は独自の経済的生活を維持」できない「岩」に該当するとは考えにくい。よってP島は「岩」に該当せずEZZや大陸棚を「有」することができる。よってC国の主張は妥当しない。)
以上。




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