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#002 アマガエル

 小学生の一時期、アマガエルを飼っていた。郊外にある小学校だったので雨になると校舎の周りの茂みで捕れ、それがまたうじゃうじゃいるわけでも滅多に見ないわけでもないほどよい稀少感であったために探すのが余計面白く、背の低い雑草の葉を足で揺らし飛び跳ねる影が見えた際のあの心躍る感覚は今に忘れ得ないのだが、ともかく当時は雨になるとカエルのことばかり考えていた。初めはキャッチ&リリースの精神、というか恐らくは単に飼うという発想がなかったために、その場で逃がすかあるいは虫かごに入れその日の午後いっぱいくらいは教室の後ろの棚らしき場所に置くなどしていたが、何のきっかけかあるとき家に持ち帰り飼育することになった。
 最初は一匹だったのがまもなく細身の個体も加わり二匹に、ニコニコの「ニ」とケロケロの「ケ」をベースに〈テニケ〉〈ハニケ〉と命名、ギリシャ語的/哲学的な典雅な響きもなくはない、とは無論大人になってからの照れかくしにすぎず何のことはない、私にはこの手のセンスがまるでないのである。餌はハエ、虫取り網を振りまわして捕った数匹をカエルのいる虫かごの中に入れるとあの長い舌で食べるのだが、ではハチは食べるのだろうかと興味本位でミツバチを入れてみれば何か刺されながらも最後には丸呑みしていた記憶がある。子どもとは残酷なものだなあとつくづく反省させられるのはほかにもお尻の部分を押すと飛び跳ねるのが面白くいじくりまわして遊んだりもしていたからで、しかし基本的に私はあの黄緑色が好きなのであって現在でもポトスライムを水耕栽培しパステルグリーンの付箋を使いレタスが好きなのもきっとあの色のせいである。
 そういえばおたまじゃくしから育てた記憶もある。近所と言うには距離があるが家からそう遠くないところに紅葉狩りや自然散策に適した広い公園があり、その中を横切る浅い川の中に生息するおたまじゃくしを確かつかまえてきたのだったと思う。成体のカエルにまで育てられたかどうかは定かではないが脚が生えるくらいまでには至った記憶があり、といってそれ以降はそれまで与えていたカツオ節か何かそうした餌が適さなくなったのか、ともかく弱るか何かしてもとの公園に放しに行ったようにも思う。
 小学校の三、四年生のころの話である。その後六年生への進級とともに我々の小学校は新校舎へ移行、カエルの姿も見かけなくなった。

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