53.母の教育方針 2

   母は行事を大切にする人で、お正月とお雛祭りは着物を着せられた。
寒い時期に、冷たい着物を着るのが嫌だったな。

1月の私の誕生日は、鏡開きに重なるので、鏡餅がご飯代わりとなり、夕食のあとケーキでお祝いをしてくれる。
クリスマスと誕生日、そしてお雛祭りはデコレーションケーキを買ってお祝い。
今のような生クリームの美味しいケーキではなく、バタークリームのケーキだったので、私はとても苦手だった。

節分は、豆まきをした後に食べる豆の数は年の数。
豆好きの私はナイショで食べていた。

お雛様は7段飾り。
毎年少しづつ、母が組み立てる。
私が手伝うと、壊したり汚したりしてはいけないと、手を出すことを許されない。

11月になると年賀状書き。
字の汚さをとにかく叱られて、何度も書き直しさせられた。
11/15までに出すように言われていたから、必死で書いた。
担任の先生、親戚、お友達。
おかげさまで癖が治らず、今も毎年150枚くらい書いている。
楽しみにしてくれているお年寄りも多いから。

入学式、卒業式、七五三…
節目には必ず写真と八ミリカメラで撮った映像がある。
七五三…大抵はここまでのお祝いで、その後は20歳の成人式までない。
でも、本当は十三祝いというのがあり、母はそのお祝いをしようと着物を縫ってくれていた。
その着物は、私が結婚した後に見つかった。
躾糸がつけられていた。

熱を出す度に激怒されるが、冷たいものを買ってきてくれたり、寝ずに看病してくれたり、心から感謝している。
母に逆らうと、いつも叩かれたり蹴られたりしたけど、それは私が悪いからで、いうことが聞けない悪い子だといつも言われていた。
私はそれが当たり前と思っていた。

親から叩かれたり、蹴られたりするのは私が悪い子で、叩かれたりしない子は親に逆らわないいい子。

「素直に『はい』と言いなさい」

素直に返事ができないのは、悪い子だから。
いい子になるためには「はい」とだけ言えばいいのに、それが私には言えない。
素直じゃないから、どうしても自分の言いたいこと、半分くらい言ってしまう。
残りの半分は飲み込む。

これ、全部言ったらもっと怒らせるんだろうなぁ…

「ママは怒ってるんじゃない。
あなたを躾けるために叱ってるのよ。」
と、よく言っていた。

あれは…
“叱る” というより “怒る” という表現の方が合ってる。
今は私も親になり、そう思う。

以前に、巣鴨のとげぬき地蔵の話を書いたが、あれからとげぬき地蔵には、行かなくなった。
あんなに何度も行っていたのに。
ふと気づいたら、お地蔵さまの話もしなくなって、頭やお腹が痛い時に飲む “お札” もなく、普通に薬を飲まされるようになった。

何か変…

と思っていたある日、小学6年の初め頃だったか…
母に連れられて行った先は、何か会館のような建物。
中に入ると広い広い畳の部屋。
奥の方には何か祀られていて、そこに向かって母は何やら拝んでいる。

名前は思い出せないが、宗教団体の施設だった。
男性の教祖さまのような人と母が話をしていて、その人は私を見るとニコニコして私の頭を撫でた。

「よく来たね。」

それ以来、何度か母に連れられて行き、行事にも参加した。
その宗教に誘ってきたのは、同じクラスの男の子のお母さん。
一度だけ、その子の家に行き、手作りのおやつをご馳走になり、飼われていた大きい茶色い犬と遊んだ。
“はなぐろ” と名付けられたその犬は、とてもおとなしく、すぐ懐いてくれた。

ご両親共に信者で、その宗教の行事に参加した時、施設内にはその子もいた。
学校でも、彼とは宗教の話をしたことはない。

私には受験勉強があったので、あまり行かなかったが、母は頻回に通っていた。

その頃からだろうか、母はよくお金の話をするようになった。
「うちにはお金がないんだから。」
「これは我慢しなさい」
いつもなら買ってくれるものを、文房具さえもなかなか買ってもらえなくなった。

ある土曜日、学校から帰ると
「今日は外でご飯食べましょう。」
と母は言い、斜向かいにあるレストランに連れて行ってくれた。

母は食べなかった。
「ママはもう食べたから。
まさえちゃんが好きなものを食べなさい」
私は外食が嬉しくてスパゲティとコーンスープを選んだ。

お店の中には水槽があり、熱帯魚が泳いでいる。
明るく広い店内、丸いテーブルに白いテーブルクロス。
一度来たかった洋食のレストラン。

お店の中に小さいSnoopyのぬいぐるみが売っていた。

欲しいなぁ…

と言うと、
「買ってあげようか。」
と、Snoopyの小さなぬいぐるみを買ってくれた。
いつもならダメと言うのに。

元々、ぬいぐるみやお人形は買ってくれるような母ではない。
唯一、赤ちゃんの時から持っていた “さくらちゃん” という名前の布で作られた人形があった。
小さい子が抱っこできるくらいの大きさ。
30cmくらいだろうか。
幼稚園に入った時に、汚くなったからと捨てられてしまった。

その後、父の会社の同僚が遊びに来た時。
同僚のおじさんは
「好きなもの買ってあげるよ。」
と、田無の駅前のおもちゃ屋さんへ連れて行ってくれた。
私は母がいないのをいいことに

これが欲しい

と、動く犬を指差した。

「こんなのでいいの?
可愛いお人形もあるよ。」
と言われたが、犬の方がまだ捨てられる可能性は低い。
しかも動く犬。
本物は飼えないけどこっちの方が楽しいかも…と思った。

これがいいの。

そう言って買ってもらったが、
それを見た母は、おじさんが帰った後、激怒して誰かにあげてしまった。
家で、犬と遊べることは一度もなかった。

流行ってたリカちゃん人形ではなく、“チューリーちゃん” を買ってくれた母。
おねだりしたものは買ってくれず、なぜ今、Snoopyの小さなぬいぐるみをすんなり買ってくれたのか、今でも不思議に思う。

…続く……🐕

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