15.教会

「とっても欲しいお人形があるの。
買ってもらいたいけどママがダメって。
お誕生日までなんて待てないから、ママの機嫌がいい時にお願いしてみようかな。」
と、友達が言った。

ママの機嫌がいい時…
私のママが機嫌がいい時なんて、いつなんだろう…
ママは私のことをいつも “悪い子” って言う。
“いい子にしなさい” って言うけど、“いい子” ってどんな子のことなんだろう。

いつも、『はい』と言うことを聞く子。
電車の中でもちゃんとお利口さんに座っている子。
足を閉じてお座りする子。
お勉強ができる子。
『お勉強しなさい』って言われなくてもお勉強する子。
学校から道草しないで帰ってくる子。

わたしは、どれもできないんだな、きっと。

小学3年生の時、田無から保谷へ引っ越した。
私は聞かされておらず、ある日学校から帰ってきたら、家の中に何もない。
状況が把握できてない私。

⁇どういうこと⁇
夢の中⁇
今朝は普通に私の家だったよねぇ…
でも今は家の中にな〜んにもない。
空っぽ。

今までのことが嘘だったように静まり返っている。

わたしは悪い子だから捨てられたの⁇

とても寂しくて寂しくて、寂しくて…
涙が出た。
みんな、どこ行ったの?
パパ…ママ…

みゆきちゃんのママが来て
「お引越ししたのよ。
まさえちゃんはパパがお迎えに来るから待っててね。」
と私に言った。

お引越し⁇
そんなこと聞いてない。
朝は、いつもと変わりない朝だった、どういうこと⁇

誰も居なくなった家で、ひとりぽつんとお迎えを待っていた。
暫くすると父が来て
「ごめんね。心配しただろ。」

当たり前だ。
わたしは捨てられたのかと思ったよ。

私は、みゆきちゃんやともみちゃん、やっちゃんにも、“さよなら” も言えないまま、保谷の家にお引越しした。

保谷の家は借家だけど一軒家で、目の前が新青梅街道。
今まではとても静かな家だったけど、今度は車の音が絶えない、車の振動で常に家が揺れる、そんな場所だった。

黒い小さな門があり、コンクリートの庭、玄関を入ると目の前に2階に上がる階段、右側にリビングがあって、奥に六畳の和室。
リビングの横、階段の下にあたる場所が浴室。
初めての内風呂。

私はお2階の、南側の八畳ほどあるお部屋をもらった。
初体験のフローリングに赤い絨毯が敷いてあった。
幼稚園の終わりくらいに買ってもらった二段ベッド(そういえば、どうして二段ベッドだったんだろう…ひとりっ子なのに)と勉強机、そして大好きなピアノが釣り上げられ、窓から部屋に置かれた。

元々はアパートの大家さんのお家で、二階建てのアパートの端っこに一軒家がくっついている感じ。

家の近くにキリスト教会があり、ある時母に言われた。
「悪い子だから教会に入りなさい。」
私は、教会の日曜学校に入ることになった。

教会には、K幼稚園と、そして神父さまの家がある。
私は神父さまの家に、母とご挨拶に行った。
神父さまは、絵本から出てきたような…
サンタクロースがそのまま神父さまになったような印象。
とっても大きくて、そしてとっても優しそうな神父さま。

「いい子だね。」
と神父さまは優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。

違うの。
わたしは悪い子だからここに来たの。

神さま、神父さま、わたしはいい子になれますか?

…続く……⛪️


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