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「進化するインド・インシュアテック動向」

<インド保険市場の現状>
インドの保険加入率は3%程度と低く、加入内容は非生命保険の自動車保険がもっとも大きな割合を占めており、生命保険や健康保険に対する意識はそこまで高くなかったと言えます。
それでもインドの保険業界は過去20年にさかのぼって目覚ましい成長を続けており、インドの保険規制開発庁(IRDAI)によると、2021〜2023年は年17%のスピードで市場が成長し、2030年には年間780億ドルの売上規模にまでなるとのことです。現在はスマートフォンから加入できる保険が増えており、保険料が安い掛け捨ての定期保険が人気を集めています。
インドの保険業界成長の追い風となっている要因の1つに、政府の規制緩和が挙げられます。2017年4月、IRDAIがオンライン保険販売代理店に対する規制を緩和したことで、より幅広いラインナップの保険商品にインターネットから加入できるようになりました。
また、それまでは、年間保険料の支払い最大額が5万ルピー(約85,000円、1ルピー=約1.7円)までと定められていましたが、上限が15万ルピー(約255,000円)に引き上げられ、さらにオンラインの保険販売による収益が認められたことから、保険セクターでの自由競争が活発になりました。その結果、さまざまなスタートアップが保険業界に参入し始めました。
 
<インシュアテックとは?>
インシュアテックとは「Insurance(保険)」と「Technology(テクノロジー)」から成る造語で、テクノロジーを駆使した保険商品の開発やイノベーションを意味しています。加入プロセスの自動化やAI・機械学習、ビッグデータ分析や分散型台帳技術を駆使することで、データの収集・管理・分析等プロセスを高速で処理し、人件費を削減することで、結果的に保険料の値下げを実現しています。
コロナによって、インド国内の保険加入率が大幅に向上し、さらにその大半のユーザーがオンラインで保険に加入したことがわかっています。
また、インド政府もインシュアテックを推進する動きを見せています。
2019年7月、IRDAIは、インド保険規制開発局2019年版仮規則の通知を出しました。これは、保険におけるイノベーションの促進・実施を推進する制度です。保険商品の販売や契約・クレーム処理など、IRDAIが指定する保険関連の分野の革新的な提案を実験する制度で、2021年7月まで延長されました。
 
<存在感が増すミレニアル世代(※1)
若い世代は「シンプルで短く理解しやすいポリシー」と「加入手続きの簡便さ」を求め、従来の保険代理店に出向いたり、セールスマンと話したりすることを好みません。つまり、比較検討することなくモバイル上で簡単に保険を選び、手続きをオンラインで完結させられる便利さを重視します。労働人口の約半数を占めるミレニアル世代の需要を、保険業界は見過ごせません。 
実際、インシュアテックを導入し、彼らのニーズにいち早く対応したスタートアップ企業への支持が高まっています。インドのフィンテック企業のPhonePe社は、送受金アプリ上で加入できる999ルピー(約1,700円)の保険プランを提供しています。同社のプランは初めて保険に入る若い世代を対象としており、入院やICUの治療、デイケア、救急車、Ayush治療(アーユルヴェーダ(※2)やヨガなどの伝統治療)の費用を補償します。インド国内7,600の病院で利用でき、補償上限は100万ルピー(約170万円)です。手軽さ・安価というニーズに的確に応えた結果、PhonePe社は保険プランの提供開始5か月で50万件の販売を達成したとのことです。

【出所:PhonePe社のホームページより】
https://www.phonepe.com/insurance/

(※1) 誕生年が1981年以降、かつ2000年代で成人または、社会人となる世代のこと。
(※2) 世界3大医学の一つ。インド・スリランカで 生まれた5,000年以上の歴史を持つ世界最古の伝統医学。

(インド・チェンナイビジネスサポーター 田中啓介)

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