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日本の「失われた20年」と「政治は三流」の製造元の論説…朝日新聞2011年6月11日(土)4面より

政治の鍛え直し狙う仙谷氏 
編集委員 星 浩
「ポスト菅」政局のキーパーソン・仙谷由人官房副長官は連日、与野党議員との接触を重ねながら堅い本を持ち歩いている。
友人の政治学者・佐々木毅氏の「政治の精神」(岩波新書)。
ボールペンでびっしり線が引かれ、小さな付箋が付いている。
「政党政治の鍛え直し」を説く本をめくりながら、仙谷氏は政党の将来に思いを巡らせている。
公明党と共産党は強固な組織を作り上げた。
自民党は高度成長以降、富の分配を得意としてきた。
国会議員を中心に地方議員、後援会という系列ができあがった。
では、民主党はどんな政党をめざすのか。
菅直人首相は市民運動型を思い描いたが、政権を運営するにはひ弱だ。
小沢一郎氏は、自民党時代からの「カネと数」の発想を引きずっている。
結局は、民主党が「統治の技」を身につけ、自らを鍛え直していくしかないー。
仙谷氏は民主、自民両党などによる大連立の道を探っている。
内閣に各党の政策通をそろえ、震災復興策や原発事故への対応、税・社会保障の一体改革などの懸案に集中的に取り組んで速やかに解決していく。
それは民主党が「統治」を学ぶ上でも、貴重な経験になるはずだー。
もっとも、大連立がすんなり進む保証はない。
まず誰を首相にするか。
仙谷氏の頭には野田佳彦財務相ら次世代のりーダーが浮かんでいるが、民主党内がまとまるとは限らない。
自民党には「首相を渡せ」という意見もある。
大連立の期間でも、意見の隔たりは大きい。
政策はどうか。
民主党内ではマニフェストの修正を巡って対立が起きそうだし、全面撤回を迫る自民党が簡単に妥協するとは思えない。
大連立が頓挫したら、仕掛けた仙谷氏の責任を問う声が高まるだろう。
菅首相は、仙谷氏が先回りして次の政権作りに動くことが不快に違いない。
小沢氏の周辺でも「脱小沢」を進めてきた仙谷氏への恨みは根深い。
自民党でも、参院で宣房長官の問責決議を可決した仙谷氏の復権には不満がくすぶる。
敵の多い仙谷氏だが、そんな批判は承知の上といった風情だ。
学生運動の闘士、労働問題の弁護士、がんを克服した医療問題の論客……。いろいろな顔を持つ。
本人は「徳島商人の血が流れている」という。
リスク覚悟で交渉も妥協もできるという意味だ。
大連立によって民主党が立ち直り、自民党との対立軸を作り上げることができるか。
政党政治の鍛え直しをめざす仙谷氏の試行錯誤が続く。

2024/3/10 in Tokyo

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