浜松で出会ったホピ族に詳しいおじさんが、
「オオカミさんたち、疲れてるみたいよ。」
と言うので、返しに行かないといけないなと思った。三本鳥居で蛇に追いかけられてるとき、オオカミさんたちは、私が逃げる方向と逆に走って、私を全力で守ってくれたのだ。本当に頼もしいオオカミさんたちだ。急ぎ、三峯神社に行って、眷属をお返しした。普通は一年、お借りして、返して、また、借りるということだったが、私には、この傷ついたオオカミさんたちを治せないので、急ぎ、お返しした。
「また、借りなくていいのですか?」
と聞かれたけど、借りなかった。お返ししたオオカミさんたちは入り口の鳥居のところまで見送りに来てくれた。本当に可愛い可愛いオオカミさんたちだった。

 浜松で出会ったおじさんは歴史に詳しいようだったので、祖母が言っていた空海の墓について聞いてみることにした。
「空海の墓が山口にあるかもって話ね。九州の人にきいたことある気がする。福江島と大宰府に行ってみれば。」
とアドバイスされた。

 また、三角と月の関係も聞いたが、それは知らないようだった。でも、対馬にも三角鳥居があったはずと言われてしまい、また宿題が増えてしまった。

 眷属の有難さをしみじみ感じて、それを友人に話したら、彼女は毎年、正月に王子の狐行列に参加するらしい。狐のコスプレをして行列して年越しを楽しむらしい。普通は白い狐の面をするのだが、一度、黒い面をした人をみてカッコよかったから、黒い狐の面をみたら買っておいてと頼まれていた。残念ながら、あまり狐関係は回らないので、黒い狐の面を見たころはない。彼女が王子の狐行列のあと、四国の友達の所に遊びに行こうと思ったのだが、なぜか乗る電車をミスったりして、どうしても辿りつけなかったらしい。彼女の四国の友人曰く、四国は狸がいるから、狐と行列してる友人を拒んだのではという見立てだったそうだ。そんな見えない世界でのルールは分からないが、とても腑に落ちた。それぞれ眷属にもエリアがあるのかもしれない。

 父方の祖父母の墓は山口にあるのだが、しばらく行っていなかった。小学生の時に、祖父母と従兄弟に連れられて、まずは、近くの寺のお墓に行き、手を合わせた。そのあと、家の裏山に登って、山の上にあるお墓に手を合わせた。私にとって、お墓は二つあるものだった。しかし、それは常識ではなかった。一生懸命調べてみた。柳田国男が、「両墓制」について説明している文章を見つけた。書籍にはなっていない。そこに書いてあるのは、普段、お参りする墓である参り墓と、遺体を埋めてある埋め墓があるという文化の地域があるということだった。しかも地域が限定されている。その当時は火葬でなく、そのまま遺体を埋めるため、石室を作って埋葬したようだった。
 祖父母に連れていってもらった山の上のお墓は、淡い記憶でしかないが、忘れられない。家の裏の道を歩き、川を越えると、そこからは聖域だ。祖父母がまめに手を入れていたので、歩きやすい道を、どんどん登っていく。途中から、道の両側にユリが咲いているのに気が付く。白いユリだ。
「足元きちんと見て歩きんしゃいよ。蛇ふんじゃいかんよ。」
と言われ、急に足元が気になる。堂々と、蛇が道を渡っていく。怖くて声も出ない。蛇の方はこちらを気にするでもなく、茂みに消えていく。途中から、ユリが赤いユリになる。もしかしたら違う花だったのかもしれない。花が急に赤くなってびっくりする。
「土の色が変わったところは入っちゃいかんよ。」
と年長の従兄弟に言われて、立ち止まる。花が赤くなったエリアは、土の色が違う。そこに埋められてるから踏んじゃ駄目だということらしい。従兄弟皆で、各々、手に持たされてたものをそこに置いて、手を合わせ拝む。
「ご先祖様が喜んじょる。」
と祖父が言い、なんか、凄いことを成し遂げた気持ちになった。
 祖父母が亡くなると、全く行かなくなってしまったが、あれが、両墓制だったのだと思う。

 空海さんも、山口の両墓制のしきたりに従い、山の上に墓を設けたということなら、理解できるのではないかと思った。石室があれば証明になるのか、なんか文献や、口伝を探し当てれば証明になるのか。途方もないことに首を突っ込んじゃったなと思ったが、祖母の顔がちらつくから仕方ない。この雲をつかむような話を頑張って調べていこう。祖母は私の学費を全部出してくれた。制服も買ってくれた。祖母の援助が無ければ、勉強することは出来なかった。何とか探しあてたい。

 久しぶりに会った従兄弟が宮島に連れていってくれた。弥山という山に登った。ここにも空海伝説はある。父方の従兄弟だったので、空海の話をしても、はて?という顔をされてしまった。まずは高野山に行かないと話が始まらないのではと言われてしまった。弥山で買えるだけ、資料を買った。厳島神社も参拝して、祖父母の話をした。夏にしか集まれなかったが、井戸で冷やした、スイカを、縁側に並んで食べたこととか、夜、家の裏の川にホタルが沢山出て来て、びっくりしたこと、五右衛門風呂だったから、交代で風呂の薪をくべねばならず、結局、汗びっしょりだったこととか。思い出話は尽きなかった。


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