幽体離脱で結構、身体がギシギシいってきていた。しかも、日本全国あちこちをマメにクリアリングして歩いていると、どうしても毒を浴びる。高熱が出たり、あせものような出来物がでることもあるし、咳が止まらなかったりすることもある。それでも、そんなのお構いなしに次々、いろんな姫様からの色んな指令がくるので、体調を整える暇がない。
  そんな折、旅行好きの年配のご夫婦が、私の体調を心配して、お勧めの温泉に一泊二日で連れて行ってくれることになった。東京から新幹線で一本、新花巻駅で下車。無料の循環バスに乗って、大沢温泉へ。歴史も古いし、湯治の人が多いと聞いていたので、もっとひなびた旅館を想像していたら、立派な旅館。ネットで予約したら平日、一人一泊二食で1万3千円くらい。あまりに安い。コロナが終わってからは、どこもホテルの値段は跳ね上がった。一泊二食付きで、この値段は安すぎる。予約したものの三人でとても不安になった。夕飯のおかずが品数が少なくても仕方ないよね、なんて、話ながら宿に向かった。夕飯に期待できないから、新花巻駅でわんこそばでも食べていこうか、なんて話してたら、とんでもない。わんこそばは3日前には予約して欲しいとのこと。準備も大変だし仕方ないなと思う。地元の方々と、こういう話もギスギスすることなく、穏やかに話が出来る。地元の方々の根本的な人の温かさが沁みてくる。言葉遣いも穏やかで柔らかい。日本古来のサービスってこんなだったね、なんて言いながら、優しさに癒される。
 湯治の人が長期に泊まれる所は違う棟で、本館の宿泊者は、そちらのお風呂も入れる。早速、お風呂に入ってみてびっくり! 全身に浴びていた毒が引き剥がされるように、削ぎ落されていく。頭がぐわんぐわんする。湯あたりしているというより、急な解毒に身体がついていかず、面食らっている感じだ。私が、この温泉は凄い凄い!と騒いでいると、彼らは、それほどは温泉の効能を感じたことは無いという。私が毒にまみれていたので、効果がてきめんだったのかもしれない。彼らに、私の不思議な話はしてない。たまたまツアーで一緒になり、その後も、年に一回一緒に旅行している。お二人に子供は居ないので、子供のように可愛がってもらっている。お二人が最近、読んだ本とか、昔行って良かった温泉の話とか、ずっとペチャクチャ喋っていられて楽しい。
 5つあるうちの3つ目の温泉に入るころには、すっかり汗疹も治っていた。湯治棟の宿泊に食事は付かないが、一泊3千円ほどで泊まれることもあり、平日なのに満室だった。老若男女、いろんな属性の人がいた。本館に戻り、ドキドキして夕食会場に向かうと、なんと、立派な料理の数々。とても美味しかった。朝ごはんもビュッフェでどれも美味しかった。部屋も綺麗だし、なんでこの値段なんだろう。
 朝早く起きて敷地内の神社へ参拝。参拝してびっくり。祀られているのは金勢様なのだが、ご本尊が、まんま男根。しかも大きい。めちゃくちゃ大きい。姫神様たちは女子高生みたくキャッキャッと騒いでいる。お祭りの時は、この木製のご本尊を入浴させる。女性がまたがりお湯を楽しむと子宝のご利益があるらしい。えらく盛り上がっている姫神様たちを引き連れて、展望露天風呂へ。夜は暗くてよく見えなかったダイナミックな自然を見ながらの入浴を楽しむ。
 この温泉は、かつて宮沢賢治も足繁く通っていたそうだ。

 せっかくなので、新花巻駅の近くの宮沢賢治にまつわる資料館などを回ってみる。私個人としては山猫軒が一番楽しかった。山猫軒で「食べられる」ことなく、美味しい食事を「食べて」帰った。
 
   大沢温泉の由緒書きには、坂上田村麻呂が身体を休めたと書いてある。蝦夷との戦いで疲れた身体を休めたそうだ。西日本から攻め込んでいる坂上田村麻呂が、敵地で、こんな良い温泉を自力で見つけられるのだろうか? 征服したあとでも現地の人が教えないのではないだろうか。 大沢温泉に入っていると、坂上田村麻呂と阿弖流為が一緒に入っている情景が目に浮かぶ。阿弖流為の案内無しに、この温泉にはたどり着けないと思う。彼らがどのような話をしていたのだろう。

 姫神様とあちこち行って、いろいろなことを教われば教わるほど、モヤモヤする。姫神様たちの伝えたいことを私がちゃんと受け取っているかどうか、悩ましく思ってしまうからだ。
 例えば、タイムマシンがあって昔の人を今の東京に連れてきて、ATMの使い方を一週間で習得させて、元の時代に送り返したとする。その昔の人は、元の時代に戻って、何を周りの人に伝えるだろう。今の東京の何を理解していくだろうか。ATMの操作だけでなく、その背景にある貨幣経済への理解は出来るのだろうか。出来ないだろう。
  そう考えると、姫神様たちが私に教えて下さっていること、伝えたいことのどのくらい受け止められているのだろうか。ちゃんと受け止められてないな、と申し訳ない気持ちになる。せめて、頭を柔軟にして、先入観なしに、彼らの言っていることを真摯に受け止めていきたいと思っている。


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