エジプトから帰ってきて、戸隠神社に行くバスツアーに乗った。
結構、朝早く集まったので、皆さんバスの中で思い思いに朝食をとっていた。
私の隣に、肌が陶器のようにつるつるの美人が乗ってきた。
彼女はタッパーに詰めたフルーツをつまみながら、水筒のコーヒーを飲む。水筒の蓋を開けるたびにコーヒーのいい香りが漂ってくる。
「コーヒー凄くいい匂いですね」
と声を掛けると
「そうですか、褒められると嬉しい。私のこだわりのオリジナルブレンドなんですよ。」
とコーヒーの説明を始めた。一通り、こだわりのコーヒーについて話を聞いてから
「もしかして、よく旅行いらっしゃるんですか?」
と聞くと
「来月セドナに行きます」
とのこと。
私にも予定を聞いてきたので、
「実は、先月エジプト行って来たんです。次はどこにするかまだ悩み中です」
と答えた。するととても驚いた顔をして
「私、アメンホテプ4世というかアクイアテンの妻のネフェルティティなんです」
と言い出した。どうりで美人な訳だと変に納得しながら、私も何故か
「私はアメンホテプ3世の妻なので、じゃあ、私たちお嫁さんとお姑さんなんですね。今日は一日、よろしくお願いします」
なんて言葉が出てきてしまった。言ってる自分が一番驚いている。
「ティさんですね」
なんて言われて、またもやびっくり。ティなのか。あれ?イシス神殿でもティって呼ばれてたけど、なんて、もやもやした回想が頭をぐるぐるする。
外から見た私は、一人なんだけど、私の顔と声のまま、一緒にいる姫神様が勝手に喋る。普段の私は絵にかいたような常識人でビビりで、変なことは言わない。でも姫神様は気にせず言うし、書くし、行動する。しかも、こっちは普通の会社員だから暇じゃないなんて言おうものなら、右肩に鋭利なものを突き刺されたような痛みが走る。姫神様の言う通りに行動するまで、痛みは取れない。今日も姫神様が戸隠に行けというから来ている。戸隠ツアーに申し込んだとたん、肩の痛みは消えて今日は快適だ。何の用事で来ているかは私には分からない。しかし開けるということは意識している。
開けるというとドアとかのイメージかもしれないが、私としては段ボールに入っている子猫が上蓋を開けて出てくるという感じの開けるなのだ。だから、両手を下から上にバンザイするみたいに上げる。すると開いたなという感じがある。人目が気になるので、心の中でそのポーズをしたりする。そのあたりにある結界を内側から開けている感じがする。

戸隠は鉄道会社のCMで有名になったので、ところどころに写真スポットがあり人だかりしている。そういうところに用事はないみたいで、さっさと通りすぎる。写真も基本的には撮らない。
本当なら家でゆっくり休みたいのに、何で旅してるんだろうと思う。すかさず、私の右肩に居る誰かにハリセンのようなもので頭を思いっきりはたかれる。容赦ない。そういうことなので、どうせ時間とお金を使って旅をするなら楽しもうと思う。
バスの中で聞いた添乗員さんおすすめの蕎麦屋に行く。本来なら、蕎麦を食べるのは
参拝してからだけど、バスツアーは時間が限られているので、配膳のタイミングが合わず、お昼を食べ損ねるということを知っているので、迷わず、昼前に早めの昼ご飯を食べる。メニューに一番大きい字で書いているセットを注文して、出てきたら、すぐ食べる。そして、すぐ出る。そんなの何が楽しいのと言われそうだが、私は、スタンプラリーみたく取り敢えず、気になることをコンプリート出来ればいい。質は問わないのだ。
私は一人なので、大抵、相席だ。今回も品の良いご夫婦と相席になった。戸隠にずっと来たかったんだけど、なかなか来れなくて、やっと来れて嬉しいということを楽しそうに話してくれた。そのあと奥様が、
「私は伊勢が好きで好きで仕方なくて、ちょっと遠いんだけど、伊雑宮というのがあって、そこが一番好きなの。ぜひ行ってみてね。」
と言ってくれた。私と一緒にいるお姫様たちがざわめく。
「そうか、伊雑宮に行こう!」
と口に出している自分がいる。もちろんお姫様が言わせているのだ。
伊雑宮を勧めてくれた奥様はたいそう嬉しそうにして、伊雑宮への行き方を丁寧に説明してくれた。こうやって、姫様方の行きたいところに行かされる人生が始まった。

戸隠の長い参道を歩きながら、凛とした空気によって、自分の悪い部分が洗い流されていく感じがする。夏なのにヒンヤリするのも気持ちいい。長い参道を歩き終えると、山道と階段だ。楽ではない距離の階段を登っていく。
本殿の上に大きな龍が見える。テレビのアニメ日本昔話のオープニングで坊やが乗っている龍と同じだ。私がイメージ出来る龍が、それなので、そういう形で出てきてくれてるんだと思う。龍に願い事をしている人たちばかりなのだが、私の見ている感じでは、別に願いを叶えてくれるところでは無い感じがする。悪いものが少ない、清められた空間で自分を鍛えるのに適している気がする。ここで、霊能力を使う練習をしても、その隙に変なものが入り込まれることがなく、安心して練習できる場なのだと思った。何度も開ける気持ちで両手を高く上げた。楽しかった。

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