もともと旅行回数は多かったが、ここにきて怒涛の旅行生活は止まらない。

次は急ぎ黒部アルペンルートに行けとのこと。顔を引きつらせていると、
「立山に登る実力がないから、ツアーで回れる程度でいいと仰っているんじゃないか。」
と怒られた。富士山は日本で一番高い山だけど、一番登山が難しい山ではない。他にもっと難しい、恐ろしい山が沢山ある。私のようなド素人が行って登れない。立山なんて一生登れるようにならない。
「神社に寄るように。」
との指令だ。黒部アルペンルートの案内をみても、神社が見つからない。
「木札を集めた袋も持っていくように。」
とのこと。もはや、私は何をさせられているのか分からない。会社の上司からは、
「本当に旅行好きだね。でも、女性が一人旅なんてかわいそう」
と半ば呆れられているし、旅行先では、グループや、家族、ご夫婦でいらしている人達に
「いつも一人なの?一緒に行ってくれる人,居ないの?一人旅なんて普通なら無理だけど」
と、憐れんだ目で見ながら、マウントを取られる。姫神様と一緒なんですとも言えないし、こんなめちゃめちゃなペースで旅することに、誰かに寄り添ってもらうのは申し訳ないし、一人で回るしかない。しかも、今は、姫神様と龍とオオカミが一緒なのだ。正直、全く淋しくない。

立山駅から美女平駅まで立山ケーブルカー。
美女平駅から室堂駅まで立山高原バス。
室堂から大観峰まで立山トンネルトロリーバス。
大観峰から黒部まで立山ロープウエイと黒部ケーブルカー。
黒部ダムから扇沢まで電気バス。
次から次に目まぐるしい。これを一人で来て、手際よく出来る気がしない。添乗員さんに感謝だ。

 室堂でみくりが池を散策する。絵にかいたような気持ちのいい景色だ。せっかくなので、室堂の駅にある山頂郵便局で自分にはがきを出す。誰かの住所を控えてくれば、手紙を出せたのにと、自分の準備不足をちょっと後悔する。上に展望台があるよ、と言われて、階段を登っていくが、見つからない。誰も居ない、ちょっとさびれた階段に、雄山神社総本社旧社殿展示室と、書いてある。そこを抜けたら、展望室かしらん?などと、思いながら階段を登っていく。誰も居ない。雄山神社の今は使われてない祠が展示してある。
「よく来たね。」
と、綺麗な姫神様が祠から出てきて、声を掛けてくれる。

いつも一緒の姫神様の似顔絵を描けと言われても描けない。ふんわり感じている。コノハナサクヤヒメ様は可愛い、ピンクな感じだ。白山に行って木札を集めてからは、白山系の姫神様も感じる。ククリ姫様?と聞くと、そうではないとのこと。漆黒の美しい黒髪を長く伸ばしている。山吹色とえんじ色のお召し物をまとっているイメージだ。今回の祠から出てきたお姫様は、金髪碧眼。紺と白のシンプルな服をまとい、背の高い美人だ。姫神様、三人、富士山、白山、立山の姫神様が、嬉しそうに抱き合っている。

階段を登ってくる靴音が聞こえて、我に返る。木札を集めた袋を鞄にしまい、その場をそそくさと立ち去る。

今日の目的が果たせたので、ほっとして、普通に電車旅を楽しむ。黒部ダムでは、お約束のダムカレー。普通にカレーとして美味しい。

振り返ると、立山の姫神様が手を振って見送ってくれている。
「一緒に行くわけじゃないのですか?」
と聞くと、
「大丈夫、用事は済んだから。」
とのこと。結局、何がなんだか分からないままだ。
「じゃ、来週中に、また、靖国神社に行って頂戴。」
と言い出した。
「平日に?」
と聞くと、
「そう、平日に。そうしないと間に合わないから。」
と言う。
「何に間に合わせないとなのですか?」
「金曜日に決戦がある。」
と言い出した。来週の金曜日。なんだろう?ネットで調べると、オリンピックの開会式だ。
「決戦?なんですか? 随分、危なっかしい表現ですけど。」
姫神様たちは顔を見合わせて、ため息をついた。


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