三峯神社は秩父の山の奥にある。絶対マイカーで行かない方がいいと言われた意味が分かった。山道を延々と行かねばならない。片側は山がせり出し、もう片方は、急に切り立った谷になっている。険しさでは白山も怖かったが、三峯に行く道は、ちょっとハンドルをミスると谷底に落ちるという怖さだ。バスの車内で声にならない溜息が聞こえる。ちょうどコロナの真っ最中に旅行に出たい欲のある人達が集まっている。登山中はマスクを外せるらしい。日々の鬱屈した気持ちを吐き出すための登山だ。私は違う。富士山登山に向けて靴を慣らすためなのだ。

しかし、久しぶりに外でマスクを外せるのは望外の喜びだった。もちろん、お互い人を見かけたらマスクをするのだが、登山中は酸欠になるので、マスクは外す。普段なら、登山中すれ違う人に必ず挨拶するが、今日は違う。お互いに下を向いて、一言も交わさず、黙ってすれ違う。ちょっと寂しい。しかし、空気を吸いたいだけ吸えるのが、こんなに嬉しいとは思わなかった。肺にある空気を全部、山の空気に入れ替えた。

とても歩きやすい道で、とにかく淡々と歩いていればいい。最後、少し鎖場があるものの、大変ではない。頂上の奥宮の周りは狭いので、参拝を済ませて、遠くまで見晴らせる景色を楽しみ、写真を撮ったら、すぐに帰路につく。誰も喋らない。静かな静かな登山だ。

 割と早く戻ってこれたので、バスの集合時間まで、かなりたっぷり時間がある。
せっかくなので、三峯神社を楽しんでみることにした。

まずは、奥宮の遥拝所の近くの公園に行って、ベンチに座る。公園の真ん中にヤマトタケルの銅像がある。しばらく見ていると、降りてきてくれた。姫神様たちは、喜ぶとかでもなく、挨拶をした。私の見る限り、ヤマトタケル様は、そんなに大きくないが、しっかりした体つきだ。元力士の舞の海に似ている。好みはあるとは思うが一般的に言うイケメンだ。私にも話しかけてきて
「そのうち、お世話になります。また、遊びに来て下さいね。」
とのこと。恐れ多くて、ペコペコしてしまう。

温泉がお勧めと聞いていたのだが、コロナのために入れず残念。お腹もすいたし、食堂に行ってみる。シイタケ丼がお勧めとのこと。私は、シイタケが大嫌いなので、ちょっと遠慮しようと思ったが、ツアーで一緒の人たちが、こんな美味しいシイタケはない、食わず嫌いしないで食べたほうがいい、シイタケへの気持ちが変わる、と勧めるので、食べてみた。まんまシイタケ。シイタケの味しかしない。やはり、シイタケ嫌いな人はやめたほうがいい。ビタミンDのもとを沢山とれて良かった、と自分に言い聞かせて、水で流し込むように食べた。

本殿や、その前のご神木も素晴らしい。沢山の摂社末社が並んでいて、一通り、回るだけでも時間がかかった。それでも、まだ十分に時間はあった。添乗員さんが
「オカリヤも行ったほうがいいですよ」
と言う。
「ゴケンゾクを拝借するのです。」
???言ってることが分からない。
「三峯の神様は、強い男性の神様で、いつもオオカミを連れていらっしゃいます。そのオオカミを一年間、お借りすることができるのです。そこの社務所でご眷属拝借の手続きをして、御仮屋神社に行ってみてください。」
ということだった。
「え、オオカミを連れて帰るんですか?」
と聞くと、
「そうです。心強いですよ。」
と満面の笑みで返されてしまった。ちょっと、オオカミは、なんて思っていると、姫神様たちが、兎に角、まずは御仮屋神社に行こうとせっついてくる。
仕方がないので、また、山道を登り、御仮屋神社に行く。もちろん誰も居ない。少し開けた所で、ぼーっとしていると、私のエメラルドグリーンの龍が嬉しそうに駆け回っている。よくみると、何かを追いかけている。白いオオカミだ。鬼ごっこで遊んでいるような、楽しげな追いかけっこだ。しばらく見ていたら、女性がやって来て、祝詞を唱え始めた。龍もオオカミを不快に思ったらしく、そこを離れることにした。龍と並んで参道に戻ると、白いオオカミが4匹も付いてきている。
「うちまで来るの?」
と聞くと、こくんと頷く。白くて綺麗で、とてつもなく可愛い。龍にも懐いているようで、後ろを一列になってついてくる。順番が逆になってしまったが、社務所でご眷属拝借の手続きをする。4匹もお借りするので、かなり多めの金額を払った。窓口の人が驚いて、お札以外にも、おまけのお守りなどを袋に入れてくれた。

 来年になったら、返しにきて、大抵は、また借りるらしい。祀り方などは、同封のしおりに詳しく書いてあり、困らない。
 私と姫神様と龍とオオカミ。だいぶ、大所帯になってきた。

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