一樹の蔭〜放免の平安事件簿〜
第三章 藤花の家の真実
誠は、大納言子息雅近という人物について少々調べてみることにした。
放免としての勤めの合間にあちこちで噂を拾って、その情報を総合した結果。
『彼は優秀で聡明、出自も申し分なし。本来なら出世頭のはずだが、何故か生まれの割に低位の官職に留まっている。人当たりは良いが周囲と馴染まず、仕事はきっちりやるが終えると早々に辞してしまう。まだ若いと言っても既に元服して数年が経っているのに、通う女の一人もいない。そのくせ、酔狂なことに、従者も連れずしょっちゅう出