見出し画像

AEDと私、そして奇跡の一夜

あの日、いつもより遅くなった帰り道、夜風を切って自転車を走らせていた。
仕事で疲れ切っていたこともあり、ただ早く帰りたかった。

そんなとき、不意に「ドサッ」という音が耳に飛び込んできた。
振り返ると、老人がまるでその場に吸い込まれるように倒れていた。

頭の中が真っ白になり、心臓はまるで太鼓を叩くように轟き、鼓膜を打ち震わせた。
咄嗟に自転車を捨て、老人のもとへ駆け寄る。
しかし、何をすればいいのか、パニックに陥った。

「AED!」


脳裏をよぎった言葉。
まるで映画のワンシーンのように。
しかし、そう映画のようにうまくはいかなかった。
周りには誰もいない。
目の前にいるのは、意識を失った老人だけだった。

冷や汗をかきながら、必死に周囲を見渡す。
奇跡的に視界の端にAEDステッカーが貼ってある施設を見つけた。
半ば反射的に駆け寄り、扉に手をかける。

しかし、扉を開けた瞬間、思いもよらない展開が待っていた。
けたたましいアラーム音が、夜の静寂を引き裂くように響き渡ったのだ。

「えっ?なんで?」


と心の中で叫びながらも、焦燥感が募り思わず扉を閉めてしまう。
手が震える。
鼓動はさらに速くなる。
まるで自分の心臓が止まりそうなほどだった。

しかし、怯えている暇はなかった。
再び扉を開け、力を込めてAEDを引き抜き、老人のもとへと急いだ。
AEDの指示に従い、電極パッドを彼の胸に貼り付ける。

「ショックの必要はありません」


「助かったってこと!?」
機械的な声に一瞬ホッとしたが、老人の顔色がさらに悪くなっていくのを目の当たりにしたとき、安堵は一瞬で吹き飛んだ。

迷わず胸骨圧迫を開始する。
全身の力を振り絞る度に腕が震え、汗が滲む。 時間の感覚は失われ、救急車が到着するまでの時間が無限に感じた。

その時、救急車のサイレンが遠くから聞こえ始め、老人がかすかにせき込む、心の中で「助かった」と叫んだ。

この経験を通して、私は命の重さとそこに関わる人々の温かさを深く感じた。
AEDは確かに素晴らしい機械だが、それだけでは十分ではない。人間の手と心が必要だ。
もしあのとき、私がAEDに頼りきりになっていたらどうなっていただろうか?
そんな想像は恐ろしくてできない。

この経験は、私にとって宝物です。
命の尊さを忘れないために、この物語をあなたに贈ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?