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ボトムアップ理論に基づく学級・授業経営

1ー実践の概要
 ボトムアップ理論とは畑喜美夫氏が提唱しているもので、この理論に
基づき学級経営・授業経営を行った。

 実践で重要にしているのは「自立した個の育成」であり「整理整頓をすることがゴールではない」ということである。学習場面において主体的に行動することの面白さ、自己有能感に気付くことで、学校生活における取り組み姿勢に大きな変化がみられるようになった。これは日常的な授業だけではなく、特別活動や学校行事などでも顕著にみられる。

2ー日常生活
①靴を揃えること

 ボトムアップ理論を学級で実践するにあたり、ベースになる活動である。靴を揃えることは全国の多くの学校、学級で指導・支援されていることであるが、あえて取り上げているのには3つの理由がある。

 第一としては、毎日行えることで、すぐに指導・支援を入れることができ、成功へとつながりやすいためである。全校朝会前に指導者がげた箱を確認し、全校朝会後の教室に戻る前に児童への指導・支援をすることで、1時間目から全員同じスタートラインで授業を進めることができる。また、揃える良さを保護者にも伝えることができ、家庭や地域での習い事などでも実践することができる良さがある。つまり、学校で学んだことを他の場面でも活用しやすい内容である。
 第二としては、毎日続けることでパフォーマンスルーティン化につながり、授業へのスイッチになるということである。靴のかかとを揃えておくというのは授業へのスイッチ、集中力を自分で上げる練習になる。ここで身に付けたパフォーマンスルーティンを他の場面に活かすことで、本番に強い児童の育成にもつながる。
 本番で集中できない、メンタルが弱いと言われる最近の児童たちに対する、具体的な指導・支援の一つの方法であると考える。
 第三としては、日常的な準備が自信の育成につながるということである。校舎内外の移動が多い本校においては、靴の整頓というのは日常の一部であり、遊びや体育、教室移動においての準備とも言える。
 自信の形成には3つのタイプがあると言われ、「準備」からくる自分へ自信というのは崩れにくく、発表会などの本番での自信にもつながりやすいと言われている。例え失敗したとしても、自分の成長の糧として捉えられれば、さらに高いレベルを目指していける。(ポジティブシンキングを育成する日常的なトレーニングは必要)

②整理整頓することと成功体験の関連付け
 ボトムアップの中で特に重要なのが、指導者による価値付けである。日常的な整理整頓を実施するのは、指導・支援の一環である。ここに指導者が価値付けをすることで日常生活、今後の人生へと広げてられると考える。主体的に考えて行ったことと、学習や生活の中での成功体験をリンクさせることで、成功へのルーティンの一つとして考えられるようになり、その後も継続したりさらなる工夫をしたりしようとする行動に表れる。  
 しかし、時には失敗もあり得る。勝敗を正しく受け入れ、失敗や負けを次の成功の材料とする思考や行動につなげられるようにすることが指導者の役割である。
 また、指導者による期待感(ピグマリオン効果)は一定のポジティブな結果にもつながることから、「次も楽しみにしている」というメッセージを伝えることにより、学校教育における学力向上・体力向上につながると考える。

③内発的動機付けを日常化させる
 人間が行動する動機には、外発的な動機付けと内発的な動機付けがある。ボトムアップにおいては外発的な動機付けを何度か繰り返す中で徐々に内発的な動機付けに移行していくことも重要であると考える。
 外発的動機付けは長続きせず、エスカレートする傾向が強い。しかし、トップダウン的に短時間で教え込むことが可能であるために「型」を身に付けさせたい時は、外発的動機付けの方が有効である。指導者は内発的動機付けに移行する(内在化)という中長期的な視点をもって、外発的動機付けによる指導をすることで、主体的な行動へとつなげていけるようになり、結果として内発的動機付けを日常生活の中で多く作ることができる。児童からすれば、型があるのでこれまでの自分の行動を自信にし、主体的に判断し行動できることでポジティブな成果につなげることができる。
 大事なのは、トップダウン的な指導・支援であったとしても、中長期的にはボトムアップな行動ができる児童の育成を見据えて指導・支援をしているかということであり、目先の結果に惑わされないで指導できるかということである。

3ー実際の学級活動や授業の場面
①帰りの会
<目標> 
 ○A4サイズのホワイトボードを使用して、班ごとに1日のふりかえる。
<内容>
 学校から提示される生活目標や安全目標とリンクさせたり、各教科・領域での「めあて(授業時の目標)」とリンクさせたりすることを繰り返し、PDCAサイクルに基づく話し合い活動の進め方やポジティブシンキングで目標設定の向上を図る。

②体育科「キャッチバレーボール」
<目標>
 ○自分のチームの特徴を生かした作戦を立て、工夫して活動に取り組む。
<内容>
  学習目標に対して、短時間で話し合い活動を行うためには、日常的な
 ホワイトボードミーティングのトレーニングは必須である。また、ポジティブな内容で共通理解を図ることも同様であり、「~しないようにしよう」というネガティブなイメージはネガティブな行動へとつながることも事前指導しておく必要がある。
道具の準備・片づけ、準備運動・整理運動、あいさつなどがルーティン化す
ることで、試合時間を長くできることに気付かせ、ボトムアップされた行動とチームの勝利やグッドパフォーマンスとをリンクさせ、価値付けをすることで次時の体育での行動や、同じ日のその後へ行動の変容を図る。

③各教科におけるボトムアップ
 問題解決型学習における主体的な行動というのは、言語活動(予想・仮説・考察をする場面)での積極的な態度、学習問題を見出す力、観察・実験、調査など、数多くの場面でボトムアップの要素が必要とされる。
 どの場面においても共通しているのは、「自分事」で学習を進めているかである。「他人事」ではなく、自分が捉えた問題として学習を進めているかが重要である。内発的動機付けに基づく行動というのは外発的動機付けによるものより、継続性や定着度に違いが出る。

4ー最後に
 現場において、ボトムアップしている児童の姿が全てではない。学校教育においてはボトムアップ理論は各教科・領域に応じた目標達成のためのツールでしか過ぎず、このような実践は全国の多くの学校・学級で実践されてきたものである。
 しかし、小笠原という都内から約1000㎞離れた離島においても、学力・体力を十分に身に付けるだけではなく、豊かな人間性も身に付けた上で社会に出てほしい保護者、地域の声がある。ボトムアップを日々実践することで人間性が高まり、内地での生活にも十分対応できると考えている。
 「教育は意図的・計画的に行わなければならない。」私の恩師が示唆してくださった言葉である。偶然による「主体的な行動」ではなく、あたかも自分で行って成功したかに思わせられるか、結果的に学力・体力が向上しているかどうか、「やらされている感」から「やっている感へ」へ。ここが教師力を上げるカギになると考えている。

2017年6月9日
小笠原小学校 主幹教諭 清水智


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