2章第9話 クリスマス・パーティーはハプニングで始まった!
12月23日。ここは旭川Tホテルの控室。
今日は「市川旭ダンス教室」主催のXmasパーティーで、「黒池ダンスサークル」のフォーメーションを発表させて頂く日です。フォーメーションに臨むのは、このフルメンバーです。
パーティー本番前には参加者全員のリハーサルが行われます。「黒池ダンスサークル」の出演は、市川先生にお願いして1部のトップにしてもらいました。全員初めてのデモなので、自分たちの前に上手な人たちの踊りを見てしまうと一層緊張してしまいます。そうなる前に踊らせてもらおうという考えです。
そういう事で、リハーサルは午後1時からになりました。「その1時間前には全員集合していること」と千葉ちゃんが指示していたので、全員が揃っていました。ただ一人を除いて…。
控室の中でみんなが「昭ちゃん遅いね」と話していると、さとしちゃんが慌てて飛び込んできました。
さとし: 大変!昭ちゃんが来れなくなった! 今、電話あって、お父さんが亡くなったんだって。
全 員: えええーー!なんで!?
さとし: 今朝、餅が喉につっかえて亡くなったんだって! 「大騒ぎしていて、連絡が遅くなってしまってごめん。フォーメーション出られなくてごめん」って、ものすごく謝ってた…
千 葉: それは大変だ。昭ちゃん可哀そうだなぁ。帰ってから昭ちゃんちに行ってみるわ。それもだけど、フォーメーションどうする? 男性一人いない状態でやるか?
玲 子: 女性一人じゃ踊れないわよ。
千 葉: そうだよなー。
寿 美: あなたがやるしかないでしょ。
千 葉: いやー、それはなー。自分の踊りが心配だし、衣装もないからなー。
河 合: そのままでいいべさ。仕方ないんだから。
ヤ ス: 踊りは自分が振り付けたんだから、問題ないべや。
千 葉: まあ、振り付けしたけど、昭ちゃんのパート覚えてないかもなー。
ミッチ: ばかか。
恵 美: 女性がリードするわよ!
と、そんな厳しい突っ込みがあり、結局、千葉ちゃんが昭ちゃんの所に入ってリハーサルが行われましたが、いつも偉そうに話している彼の踊りは、あたふたして、口ほどでもありませんでした。信用をなくさなければ良いのですが…、作者としても心配です。
そしてパーティー開幕の時間が来ると、さっそく出番が来ました。なんたって、1部のトップなのですから。
入場から退出の仕方までしっかり練習してきたので、綺麗に歩調も揃えて入場し、ポジションにつくと、音楽が流れました。みんなは逃げ出したい気持と戦って音楽のイントロ4小節をしっかり数えましたが、緊張でガチガチです。しかし、もはや何が何でも踊り通さなくてはなりません。その時、みんなの頭の中に寿美ちゃんの声が聞こえてきました。
フロアに出てくる前、寿美ちゃんが話した言葉です。
「みんなは、ものすごく頑張って練習してきたわ。本当に有難う。だから本番では楽しんでらっしゃい。間違えても構わない。それも笑って楽しむのよ。さあ、行ってらっしゃい!」
フォーメーションでは滑らかな動きで進みました。そして、隊形の変化からパートナ―・チェンジが行われると、会場から大きな拍手が沸いたので、みんなは踊りながらすこし自信が湧いてきました。
やがてエンディングとなり、綺麗なラインを披露して終わることができました。大きな大きな拍手が湧きましたが、「フロアを出るまでが踊り」と言われてきたので、全員フロアを出て控室に戻るまで綺麗に歩き通しました。しかし、ひとたび控室に入り、ドアが閉められた途端、みんなは一気に弾けました。飛び上がり、ハイタッチし合っての大騒ぎです。
寿 美: みんなすごくよかったわよ!大成功!
佐 藤: 俺たち頑張りました?
寿 美: とても!! 周りのテーブルから「すごいっ!」って声が上がっていたもの!
文 次: めちゃくちゃ緊張したけど楽しかった!
悠 里: 練習では1曲がものすごく長かったのに、あっという間に終わっちゃった! またやりたーい!
全 員: またやりたーい!
加 藤: やっぱ、俺たちプロみたいだったべな。
寿 美: はいはい、そういう事にして、着替えたら席に戻ってパーティーを楽しみましょう。まだ、始まったばかりですからね。
さとし: 終わったら黒池に帰らなきゃいけないから、明日打ち上げやって盛り上がるべ。
千 葉: そうしよう!明日は好きなものをじゃんじゃん食べていいからな。
全 員: やったー!
千 葉: 自腹で。
全 員: 自腹かーー! 千葉ちゃん最近稼いでっから、少しは奢ってよ。
千 葉: 考慮します。
全 員: 考慮しなくていいからさー!
控室の中は大笑いです。こんな風にみんなして、充実感で弾けたのはいつ以来でしょう? いいえ、高校時代にもなかったことです。
そのことに、まだ、誰も気づいていないようですが、いまは、そっとしておきましょう。
「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)
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