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4章第3話「タコ踊り」

【目 次】


寿 美
: あら、あら。もうこんな時間? 急いで残りをやらなくちゃね。

さとし: もう15分もないから、無理じゃない?

寿 美: なんか、「サボりたい」って聞こえるんだけど、気のせいかしら?

さとし: なーにを言ってるんですか、俺たち、そんな考え微塵もありません。なあ、みんな。

全 員: そうそう。考えてません。気のせいです、気のせいです。

寿 美: そうよね、じゃあ、「タコ踊り」を片付けてしまいましょう。

 そう言って説明に入りました。


寿 美
: これは、簡単にいえば「でたらめに動く」ってこと。これからスローの曲を掛けるので、一人一人、思いっきりデタラメな動きをしてください。

加 藤: テキトーにやるんだから楽勝だな。

美 和: でも、でたらめに動いて大丈夫なんですか?

寿 美: それがいいの。どんな動きをやってもOKよ。なにが正しいとか間違ってるとかないので、まあ、タコになったつもりで、くねくね、適当に動いてみて。ただ、条件があって、それは「ダンスを踊ろうとしないこと」。分かった?

全 員: はい!

寿 美: 良い返事ですね。分かったら、全員「かかれ!」


  スローの曲が流れると、「剣道部の掛かり稽古かよ~」とか「完全体育系だな」の声に混じって、「だから、もっとうまくごまかせって言ったべや」と、誰かが誰かを責める小さな声がありました。

 動き始めると「でたらめに動く」は考えていた以上に難しいものでした。みんなが手こずっているところに「 もっと!」と大きな声が掛かったので、みんながチャミちゃん先生の方を見ると、更に大きな声が飛んできました。


寿 美
: もっと、「真剣に」でたらめにやれー!

 

 これでずっこけた人は、「それでいい!」のお褒めの言葉を頂きました。そうなると他の人たちも、手も足もタコ、肩もタコ、首もタコ、ついでに顔もタコにしちゃえと、全員バンバン動きだしました。



 ですが、チャミちゃん先生の「あと1分30秒」を聞いて、全員が絶望的な叫び声をあげました。


全 員: まだそんなにあるのーー!!

 

 そうなんです。「タコ踊り」と聞くと、多くの人は「デタラメでいいから楽勝!」なんて考えてしまうのですが、実は、私たちの体は力を「入れる」ことには慣れているのですが、「抜く」ことには慣れていないため難しいのです。しかも、日常生活では限られた形の動きしかしていないので、「力を抜く」ことで、普段は使われていない筋肉が目を覚まします。そこが、この宿題の目的でした。
 そのため「タコ踊り」は結構運動量が大きく、誰でも疲れます。ましてやこの年寄り集団ですから、チャミちゃん先生は最初から残り10分もあれば充分と踏んでいたのでした。


全 員: もう、お許しください~!これって、本当に役に立つのー!


 でも、チャミちゃん先生の返事は実にあっさりしたものです。

 寿 美: 知らんけど、あの人が「やれ」ってー! 

 

 これで完全に全員が倒れました。正確に言えば、このタイミングで「休みに入ろう」としたのでしたが、


寿 美
: 休んでいいのよー! 「年寄りだから無理」と思った人は、遠慮なく止めていいからねー! 

 

あちゃー。

 せっかく床に転がって休み始めた連中でしたが、この一言で、まるで何事もなかったかのようにスクッと立ち上がり、「タコ」、「タコ」言いながらデタラメ動きを再開したのです。しかも笑顔で!

 これにはチャミちゃん先生も驚きました。このサークルはお調子者の集まりと思っていましたが、案外、見栄っ張りの集まりでもありました。

 

 「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)


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