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お話

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なんてことない幸せな日々

 春の匂いがする。冬靴で外を歩くのは少ししのびないが、まだ中途半端に溶けている雪や氷が残っている。一昨年の春に下ろしたばかりのローファーは結局二シーズンくらいしか履かずに靴箱の中。せっかくの陽気なのだから引っ張り出したいけれど、まだ少し早い。  ベージュ色のピーコートをブレザーの上に羽織り、リュックを背負う。これが最後の投稿だ。感傷ともいえる寂しい気持ちに浸りながら通学路を歩く。この道を毎朝歩くことはこれからなくなるのだ。長かったようで短かった高校生活もこれで終わり。そう思う

ヒッチコック・アンサー【掌編】

この話のアンサー版です。  同居人が死んだ。私と同じ、毎日限界だと疲れた顔で笑っていた女の子だった。  よく晴れた日だ。今日の総武線は人身事故で遅延。相変わらず何かしらの理由で遅延をしているから、それを見越して早く家を出てきて良かった。長すぎる出勤時間が更に長くなるのは問題だけど、遅刻して一日肩身の狭い思いをするくらいならば、と思う。  前の電車が押して到着して、多くの人がそれに乗っていく。私も変わらず電車に乗り人々の群れの一つとなる。毎日繰り返される出勤、労働、退勤。そ

ヒッチコック¦夜好性WEBアンソロNight Fever提出作品

こちらは星伊香さん主催の夜好性WEBアンソロNight Fever提出作品です。 ヨルシカさんのヒッチコックをテーマに書かせていただきました。  よく晴れた日だった。青色の天の下ではぁ、はぁ、と息を吐きながら自転車を漕ぐ。街中を必死に走る。白い息を吐いて、白いマフラーを巻いて、私は仕事からの帰路に着く。まだ陽が傾く前の時間。シフト制の仕事は嫌いではない。  あ、今なら死んでも後悔ないかも。  ふと思い立ったことだ。空があまりにも青かったからかもしれない。こんなに天気の良