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娘の結婚まで・・・楽しく暮らします

娘とカレが、夏休みが取れ久しぶりにやって来た。

コロナ禍もあり、特にも彼と同じ職場、彼はバリバリ営業マンであちこち飛び回っていることもあり、娘とは1月に会ったきり、彼とは初対面である昨年5月以来のことだ。(当時のことは自分で書いたのに、読み返して又思い出してパニックを起こしそうです。)そうでなくても、マメな母子ではない。息子ともそうだが、いちいち連絡を取り合うという事はまずない。息子に何か用事があっても彼も多忙で、埒があかないことが多いので、嫁のYちゃんとばかり連絡を取り合って結局それで事足りる。

彼らは、日々元気であればいい、無事に暮らしていてくれればいいと思っている。とはいえ、どこかもの足りない渇きを、たまに感じていた。

夜中(と言っても23時だが)に突然電話が鳴ったので緊張した。私は寝かかっていて、誰だろうと思ってスマホの画面を見ると娘だった。滅多に電話などよこさないし、ましてやこんな時間。緊張しつつ出たら、いつもの調子で

「あ、寝てた?」

何だよ…。
なんでも、お盆中ずっと仕事をしていて、17日から1週間休みなのだという。

「明後日の月曜日午後から行っていい?」
「あー、いいよー」
「夕ご飯食べさせてくれる?」
「あー、いいよー」
「前みたいに、ご馳走なんかいいからね、ただ顔見に行くだけなんだから」

顔見に来るだけなのにメシを所望しているとは矛盾な。

「Sさんも一緒でショ?」
「いいの?」
「何言ってんのよ、あたり前じゃないの」

横で電話を聞いていた夫が

「おせぇよぅ、もう少し早ければ天然鰻あったのに」

と笑っている。

今回は何作ろうかな…と、もう楽しみである。翌日、息子夫婦が遊びに来たので
「明日来るんだって」
と伝えた。
息子は平日休みなのだが、時々妹のいる街に行き、昼休みランチでも、と誘って食べることがある。仲のいい兄と妹であるが反応は薄く、
「ふーん」
代わりにYちゃんが笑いを含んだ眼を向けてくるのだ。

話は変わるが、夫も私も、結婚前の
「自立的同棲」
を推奨している。

わざわざそういう考えを子供に話したり、押しつけたことはないのだが、家から離れたことのないカップルは、いろいろな面でお目出たいだけで、経験値が足りない。
大人になっても親掛かりで、自分のことだけやっていればいい環境にあり、そこで彼氏彼女が出来たら、そりゃあお花畑だろうよ。

将来を考えているというなら、二人で
「生活」
というのを必ず経験した方が良い。

日々の家事、食事、帰宅すれば洗濯物が綺麗になっているなどというのは、誰かがやってくれるからに他ならない。

親はそれでもまあ子供を構うのは性なのだから良いのだが、他人と暮らすということは、様々なそれまでの常識が通じないかも知れないし、そういうアレコレを経て理解しすり合わせ、それでもずっとその相手と共に生きたいと思ったら一緒になれば良いのだ。

息子夫婦も、Yちゃんが実家を離れて息子のところに来て共に暮らし始め、それを経て入籍した。女の方が生活が変わるし、覚悟するものなのである。通勤時間など考えると絶対にYちゃんが大変なのに、ずっと頑張っているのは当時から変わらない。

親の離婚を経験した娘は、男女のことについては軽率なところが無く身持ちの堅い子に育ち、
「結婚はしない」
と言っていた。それに対し私は何も言えなかった。女と産まれたのだから、ひととおり経験して欲しいとは思って育てたが、価値観はそれぞれで、結婚が人生の選択にはない、と思ったなら親の責任はかなりあるのだ。親の結婚生活見て「結婚とは、家族とは」わからなくなったかもしれない。

だから正直、去年カレを連れて来た時は心底驚いたのだった。
二人の様子を見て、
「時期待ち」
と感じ、その時から、
「あとは彼らが決めること」
と思っていたが、娘は彼のマンションで過ごすことが多くなり、
「この子たちは一緒になる」
と確信し、人に聞かれても
「ほぼ結婚している」
そのように答えていた。

彼と会うのは今回は2度目なので、前回のような戸惑いはなく、さて何を食べて貰うかな…、と、いつも通り、親というのは結局食べさせることばかりだ、と苦笑し、前日から仕込みにかかった。

月曜日。
「15時過ぎくらいかな」
と連絡が来たが、待てど暮らせど来ない。

Yちゃんが
「どうですか?」と問うてくるのだが
「まだ来ないのよ」
とボヤく。

結局来たのは17時であった。

「アンタさ、いくつになっても親というのは心配なんだから、連絡くらい入れなさいよ、何かあったかと思うじゃないの」
と言うと
「すぐ近くまで来たんだけど、そこでT(カレ)に仕事の電話が次々来て、コンビ二の駐車場に停めたんだ。混み入った内容で、聞いているうちに・・・」

寝てしまったのだそうだ !

彼は、この特段の目印もない田舎で、ウチまでの道順はまだ把握していない。お盆中出勤した娘の激務を知っているので、起こすのも忍びなかったそうだ。

彼の気持ちを慮ると、これ以上娘に説教するのも申し訳ないので、終了とし、さあさあどうぞどうぞと中に誘う。

前回よりは緊張していないが、やはり緊張している彼。それでも、私の大好きな某和菓子店の期間限定水まんじゅうと、これまた私の大好きなチーズケーキハウスの、チーズケーキ詰め合わせをさわやかに手土産として持ってきてくれた。

時間はもう17時半である。娘から連絡が来た際
「ウチの晩御飯は、早いよ」
と伝えていたので、すぐ取り掛かった。

ぜんまい煮付け
ミネストローネ
ポテトサラダ は出来ている。


    

漬物は一昨日仕込み済みだし 娘たちが来たので、鶏唐揚げと帆立フライを揚げにかかる。 今回も出来合いはなし。暑くて買い物も面倒でもあったし。

夫はチチタケと茄子炒めを作ってくれた。これがまためっぽう美味しくてたまらないのだ。

賑やかに食事が始まり、ああだこうだと話が尽きない。

「いつもは二人だけだから、とにかく勢い込んで食べて、あっという間に終わるけど、本来食事ってこういうものだね」

と改めて思う。お代わりも出て、食器は全部空になり、賑やかな時間は続いた。
食後のデザートは当然別腹で、お土産の水まんじゅうと、チーズケーキをああだこうだと話しながらワイワイいただく。

彼というひとは、理系の落ち着いた大人で、変にテンションの高い私や、私と同じ血液型の娘、他人だが娘とは考え方や価値観がそっくりな夫、息子夫婦の誰にも共通項がない新鮮さがある。

夜も更け、夫の目がさっきからしょぼついている。早寝早起きの夫には深夜帯である、眠いのだ(笑)。

居ずまい正した彼が、私に向き直り
「大事なお話があります」
と真面目な目を向けてきた。
ヘラヘラしていた私は咄嗟に緊張した。

シーン・・・となった。

「秋になったら、入籍をしたいと思っています。どうかよろしくお願いします」

「えっ!!」

予想はしていたが、驚き、私の目には・・・

涙ではなく、ニマーっとなるのが自分でも分かった。


「そうですか。本当にこの子で良いですか」
「はい!」

言葉を尽くして語るタイプではないが、人の話にきちんと耳を傾ける誠実な彼である。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」

深く頭を下げられた。

私はこの後、今までどうしても言えなかったこと、聞けなかったことを口にした。
自分の病気の事、離婚のこと、その前後の娘たちのこと。

「私は、この子の後押しがなければ、今こういう風に生きてはいられなかったと思います」

彼はじっと聞いている

夫もポツンと言った。

「今があるのはMちゃんのお陰だよ。金もないし背負うものばかりで、もう駄目だと何回も思った。何回も命の危機はあったけど、俺は今本当に幸せだよ」

「そうでしたか」

「私が手術のあと麻酔から覚めて、家族がどんな顔でいるかずっと心配だったんです。結果が悪ければどんなに隠されてもわかりますからね。
その時にこの子が、いつもと全く変わらない、どこか面白がっているような目と声で
『見たよ見たよ、取り出した臓器。こんな形でこんな色でね』
って、手でハートの形を見せてくれて、
『癌もあったよ。臓器開いて、先生がこれですって見せてくれて説明したんだよ。米粒みたいな大きさだった』
っていつも通りなんです、嘘がなくて。
私は気にかけていたことがあったんで
『その癌から触手みたいなの伸びてなかった?』
って聞いたんです。そしたら
『なかったよ」

ああ、今回は助かった・・・って思いました。実際はほかに摘出したリンパ節に転移もあったんですが、あの時の娘の言ったことでホッとしたおかげか、何とかここまで生きてこられて・・・」

「癌だったんですか」

「その時この子は中2で・・・。そのあと色々あって、親の私とこの子の父親が離婚して・・・。もう男はこりごり、結婚はこりごりでしたけど、その時にこの子が・・・」

「なんて言ったっけ?なんか言ったっけ?」

「もう一回、ちゃんと幸せにならないとダメだよって。16歳で、多感な時期なのに。嫌な姿も随分見せてきてしまったのに」

「あー、そんなことだったな」

娘はその理由をこう言った。

「自分が大人になった時、反対したらきっとそれを後悔するなって思ったんだよ」

「なんで」

「年を取っていく親が孤独なのって、嫌だなと思ったんだ」


そんなの気にすることなどないのに・・・そんな風に考えていたんだ・・・

「ここまで育ててくれてありがとうございます」

改めて言った娘だったが何も変わっていない。

「私は、親ではありますが、この人たちにずっと力を貰っていたんだってよくわかります。こんな子ですが、とてもとても・・・優しい子なんです。よろしくお願いします。」

頭を下げ合い、ニコニコにしながらの散会となった。

「そうか、アンタはもうすぐ Sさんになるのか」
「あ、そういう事になるね」
「お互いにお互いをまず大事に思うのが、長く仲良くできる秘訣だよ。無理するのではなく」

夫が補足する。

「どうなの? 二人でいるのって、ホッとする? 片方だけ無理して相手に与えてるばかりだと、ボロボロになるからね」

遠い目をして
「前の結婚がそれでさ・・・」
としみじみ言う。

「楽しく暮らします」

との返事が聞かれた。何よりだ。

「あの、話は違うんですが、この子は何か連絡してもいつもいつも返事が来ないんです。無駄話なんかはしませんが、良かったら連絡先教えてください」
と彼に言うと
「はい、是非」

「そうか、結婚するってそういう事か」
「そういうことなの。安否確認は時々必要なのよ」
「なるほどね」

帰宅した娘たちからお礼のLINEが入り、彼から生真面目なメッセージが来ていた。

本当に娘は
「人妻」
になるんだなぁ。

翌日二人は彼の実家に報告に行き、来月は娘の父親に報告してのち、入籍という運びとなる。このご時世なのと、彼のお父様が少し体調を崩しているので両家の顔合わせは調整し、

「結婚式は挙げないよ」
と言う娘に
「写真くらいは撮った方が良いよ、今より若くならないんだし」
と言うと、彼が大きく何度もうなずいていたので、息子夫婦同様、二人でいいようにするのでしょう。

「お互いなんて呼び合ってるの?」
と聞くと、答えないと思っていたら
「言っていい? いい?」
と彼に聞いている。

そして聞いたのは


・・・とてもここに書けまっせん!!!(笑)



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